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みかんのきもち

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12.これは友達の話なんだけど……って言うやつ大体いい奴

 そんなこんなで、読書感想部なるものに入部することになった後、今日は部長も不在だし解散してようということになった訳だけど、早速次の会のお題になる本を渡されていた。

 少し古めの短編恋愛小説。何処にでもありそうな、それでいて心を打たれそうな……いやごめん。まだ読んでないからよくわからないんだけど。
 ただ、以前テレビの特番か何かで紹介されていたのを覚えているので、当時そこそこ話題になったのは間違いない。

 話題性があり、かつ初心者でも読みやすい。先ほどのパンフレットの件といい、普段あまり読書をしていない私達への配慮だろう。

 「美柑みかん! 高橋たかはしさんから借りた本、どっちが先に読むー?」
「ああー。修斗しゅうと先読んでいいよ。私は本読むの遅いから」
「そう? じゃあそうするよ! でも意外だったなぁー。美柑みかんが入部するとは思わなかったよ」
「んー……そうだねえ。このまま一回も部活せずに学生生活が終わるのもなんだかなーだしね。でも修斗しゅうとも無理に付き合ってくれなくていいのに……大丈夫?」
「無理はしてないから大丈夫!」

 ニコニコと笑う修斗しゅうと。この場面で嘘をつけるほど器用きような人間でないことは、長年ながねんの付き合いでなんとなく分かる。
 どこまで良いやつなんだよと思う反面、良いやつって案外モテないぞーと心の中だけで忠告ちゅうこくしておいた。

 「じゃあ美柑みかんまた明日ー! バイバーイ!」
「はーい。気をつけて帰りなよ」

 家に着いた私に、朝と同じ様にブンブン手を振りながら小さくなっていく修斗しゅうと
 元気な人を見ているとこちらも元気が出てくるから不思議だ。

 玄関を通り、しーんっとした廊下をペタペタと歩く。
「ただいまー」と言ったところで誰も居ないので返事が返ってくることはない。返ってきたらめっちゃビビる。
 パチリとリビングの電気をつけ、テーブルに置いてあったリモコンでテレビをける。
 日中に、屋根が存分ぞんぶんに熱せられたからだろうか、部屋の中はむわっとした熱気で満たされてた。

「暑ーい……」

 パタパタと手で団扇うちわの様に顔を仰ぐも、それほど涼しさは感じられない。
 初めての部活のお陰で、夕方と言うには少し遅い時間での帰宅になってしまった。
 それにしても、夕方と夜との狭間はざまの時間帯は、どこか不気味ぶきみさを感じることがある。
 ただ、それ以上にもの寂しさで心が埋められていくのは、私だけでは無いはずだ。

 ピロンとスマホが鳴る。この時間帯に私のスマホを鳴らすのは決まって父だ。[今日は出張! 明日の夜にはカエル。げろげーろ]内容はいつもの業務連絡みたいなものだけど、毎日何かしらのアレンジを文面に加えてくれるので、飽きることはない。
 [30点。意味不明。]と返信した後でもう一通。[気をつけて帰ってきてね]

 お父さんも忙しいんだから、毎日わざわざ連絡をくれなくても良いと伝えてはいるけど、私を家で一人にしているというい目を感じているのだろう。
 毎日、朝早くから夜遅くまで働いてくれているのに、何を娘に気をつかう必要があるのだろうか。

「大人になりたくないなあ……」と子供しか言わない台詞せりふをはきながら、洗濯物の取り込みと食器類の洗い物を済ませる。
 お風呂は暑いのでシャワーで良いか……と考えている時にもう一度スマホが鳴る。

[おーす。いま暇?]と素っ気ないメッセージを送ってきたのは七尾ななおだった。
[いつでもひまーだよ]と返信する。
[じゃあちょっと付き合ってよ]とすぐさま返信がきたので、二つ折りの財布を鞄から取り出し、ぱかっと開く。……いける。

[おけまる。どこ集合?]
[いつものファミレスで]

 お互い短い文章だがレスポンスが良い。相手とテンポが合うってなんか楽でいいなと改めて感じる。
 家事はある程度終わったし、晩御飯のメニューを考える手間がはぶけたのでちょうど良かった。

 程なくして[いつものファミレス]に到着した私に、片手をげて迎える七尾ななお。やけに男前だな。

「悪いねー、呼び出しちゃって」
「んーん。丁度お父さんが出張だから、ご飯どうしようかなーって悩んでたところだっんだよ」
「ならよかった。てか、おじさん前にも増して出張増えたね」
「もう慣れちゃったけどね」

 メニューには定番のハンバーグやステーキが所狭ところせましと並んでいる。
「チーズハンバーグ美味しそう。でもカロリー……やば」
日比谷ひびやそんな太ってないんだから気にしなくていいんじゃない?」
「いやいや、油断したら一発だよ」
「そんなもんかねー?」

 七尾ななおは視線をメニューから離さず、[ダブルハンバーグ洋食セット]を指差しながら、「うち、これにする」とドヤ顔で宣言してきた。

「やるなおぬし
「腹が減ってはいくさはできぬ」

「じゃあ私は親子丼にしよーっと」
「カロリーたいして変わらんでしょ」
「少しの差が積み重なると、体のお肉も積み重なるんだよ?」
三段腹さんだんばら?」
「恐怖でしかないね」

 注文を済ませた後、ドンクバーに飲み物を取りに行く。
 私は烏龍茶、七尾ななおはカルピスソーダ。

「ドリンクバーって何杯なんはい飲んだらもとがとれるのかなあ?」
「え? 日比谷ひびやっていつもそんな事を考えながらジュース飲んでんの?」
原価厨げんかちゅうなもので……ちみにイチゴ狩りならもとを取る自信がある!」
「そりゃ良かったね」

 席に戻った七尾ななおはスマホをいじりながら「はぁ……」と、浅めのため息をついた。
 さっきまでまるで生産性のない会話をしていただけに、普段なら見落としてしまうであろう七尾ななおの感情の機微きびが、やけに気になった。

「どした? 元気ない?」
「んー……まあ、ちょっとね」
「彼氏とケンカでもした?」
「いや、彼氏いないし」

 それは知ってる。私から見れば十分魅力的な七尾ななおに、なぜ彼氏が出来たことがないのかは知らない。

「……あのさぁ、これは友達の話なんだけどさ」

 うん……たぶん七尾ななおの話だ。なんというテンプレート。七尾ななおのそういうところ大好きだ。

「その子には凄く仲がいい子がいて、結構二人だけで遊んだりとかしてて……でも付き合ってるかと言われるとそうでもない気もして。友達以上恋人未満? みたいな」
「うんうん」
「それでその子が他の子にれ……じゃなくて仲良くしてたりしてるの見てその友達がなんか落ち込んじゃって」
「ほうほう(……れ?)」
「でも別に恋人って訳でもないし、やめてほしいとか言えないじゃん。なんか束縛みたいなの嫌だし」
「まあ、そうだね」
「そういう時、どうしたらいいのかなって」

 ……うん? いまいち要領ようりょうない質問だ。話の流れから察するに、七尾ななおに好きな人がいて、なんとなくいい感じだけど付き合っているわけではない。
 で、その人が他の女子と仲良くしているのを見てやきもちを焼いている。という事でいいのかな?

「それは難しい問題だね。でも、その子が思っているように、相手も同じような事を考えてるんじゃないかな?」
「そう! それなんだよ。自分はそんな事しようとするのに、うちに対しては、他の誰にもさわらせないとか言ってくるんだよ?! おかしいと思わない?!」
「それはおかしいね(《うち》って言っちゃってるけど……)」
「まったく……なに考えてんだかいまだにわかんいよ」
「そかそか。それで七尾ななおは他の誰にもさわらせないって相手の人に言われてどう思ったの?」
「…………めっちゃ嬉しかった」

 だ、だめだこの子。早くなんとかしないと……。

「って、うちの話じゃないからな?! 友達がそう言ってたと思う」
「うんうん。友達の話ね」

 七尾ななおって、やっぱかわいい。たぶん、恋愛に慣れていなくて自分の気持ちに、どう整理をつけていいのか分からないんだろう。
 私も恋愛経験については人のことは言えないけど、七尾ななおの話を聞いて、客観的に見た私の感想は……「それ、完全に両想いやん」だった。

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