みかんのきもち
10.部室の中にはインクの匂いが漂っている
読書感想部の、恐らくは活動場所であろう部室の中を見渡してみる。
その名に恥じぬ立派な本棚にびっしりと敷き詰められた小難しそうな本達。ただ、立派ではあるが、本棚も本もかなりの年季が入っているのが見て取れる。
年季が入ってるとは言っても、俗に言う[ボロい]のではなく、貫禄があるって感じ。
敷き詰められた本達も、どこか不思議な存在感を放っている様に感じる。
なんて言うのかな。例えが適切かどうか分からないけど、本屋さんとかで綺麗に包装されたまま、理路整然と陳列され、ポップで販促されている本の様に、[私を読んで読んで!]と主張しているわけじゃなく、[知識が欲しいのか? ならば我を読むがいい]と静かに語りかけてくる様な感覚だ。
一番不思議だったのは自分がそんな感覚を持つなんて夢にも思っていなかったのに、なんでいきなりそんな事を思ったのだろう、という事だ。本が語りかけてくるなんて、そんなファンタジー脳にいつなったんだろう。
部屋自体はそれ程広いわけでもないけど、狭いわけでもない。本もそうけど、備品関係も整理整頓され、無駄なものは何もない。
半分開けられた窓から入る爽やかな風がカーテンを揺らす度、部屋中をインクの独特な香りが泳ぎだす。
部屋の中央には少し大きめのテーブルといくつかの椅子。
その内の一つに腰掛けた見覚えのある後ろ姿がドアの開く音に気付き振り返る。
「あら? 部長に日比谷さん。それに正木さんまで……どうされたんですか?」
きょとんとした高橋さんの顔を見る分には、神高先輩が私たちを強引に連れてきた事には関わっていない様子だ。
だけど、そんな高橋さんの顔をみていると、なぜかちょっと意地悪をしてみたくなった。半ば無理矢理連れてこられた鬱憤を晴らしたかったのかもしれない。
「高橋が神高先輩に頼んだんじゃなかったんだ?」
「えっ?! ち、違います! そんな事はしていません!」
「本当に? 神高先輩、高橋さんから私たちの事を聞いたって言ってたよ?」
「それはそうですけど、世間話をしただけです! 連れてきて欲しいなんて頼んでいません!」
普段は物静かな高橋さんがアワアワと動揺している姿を見ると、なんだか[かわいいなあ]と思えた。だけど、これ以上いじめるのは可哀想なのでこの辺でやめておく事にしよう。
「あはは。うそうそ。分かってたよ最初から。ちょっとからかっただけ」
「そ、そうですか……良かった」
ふぅ、と息を整えながら再び席につく。そんなに焦らなくてもいいのに。
そんなやり取りの中、何か違和感を感じた気がするけど、その正体は分からない。
「まあ、二人とも取り敢えず座ったらどうだ? 高橋、二人にお茶を出してやってくれ!」
「あ、いえ、お構いなく……」
「わーい! 美柑、頂こう! あ! このお茶菓子も食べて良いんですか?!」
「ああ! 好きなだけ食べるといい!」
私の声を遮る様に、修斗と神高先輩が目を輝かせながらはしゃいでいる。なんかこの二人、気が合いそうだな。
やれやれと、心の中で呟きながら、私も椅子に腰掛ける。
まあ、特に予定があった訳じゃないし、修斗も楽しそうだから付き合ってあげようか。
私の所為で遅刻させてしまった事も過去にあったしね。
「いや、それ今朝の話だよ?!」
「あー、そだっけ? てか心の中を読むのやめてもらえるかな?」
「なんとなく理不尽な雰囲気を感じたのでつい!」
念のため言っておくけど、修斗は超能力者とかではない。長年の付き合いの賜物かな。
高橋さんが、コポコポとお茶を入れ、私達に出してくれたところで神高先輩が話を切り出す。
「さて、二人とも入部希望という事だが、まずはこの入部届けにサインを書いてもらえるか?!」
「そうくると思いましたよ。誰も入部したいとは言ってませんよ?」
予想通りの展開だったので、大して驚きはしなかった。
「え? そうなのか?! じゃあなんで部室に……?」
「貴方が連れてきたんじゃないですか!?」
修斗が鋭いツッコミを入れている横で私は少し冷静に考えてみる。
この人……天然なのかな。あるいは天才か。
私は興味なかったんだけど、今回の生徒会長を決める選挙では、かなりの波乱があったらしい。
今までは、なんとなくこの人が生徒会長になるんだろうなーみたいな雰囲気の中、形式的に選挙が行われるのが恒例だったみたいなんだけど、神高先輩が異様なカリスマ性を発揮して、大番狂わせを起こした。と、誰かがそんな事を言っていた様な気がする。
バカと天才は紙一重ってよく言うけど、凡人の私には違いがよくわからない。
その名に恥じぬ立派な本棚にびっしりと敷き詰められた小難しそうな本達。ただ、立派ではあるが、本棚も本もかなりの年季が入っているのが見て取れる。
年季が入ってるとは言っても、俗に言う[ボロい]のではなく、貫禄があるって感じ。
敷き詰められた本達も、どこか不思議な存在感を放っている様に感じる。
なんて言うのかな。例えが適切かどうか分からないけど、本屋さんとかで綺麗に包装されたまま、理路整然と陳列され、ポップで販促されている本の様に、[私を読んで読んで!]と主張しているわけじゃなく、[知識が欲しいのか? ならば我を読むがいい]と静かに語りかけてくる様な感覚だ。
一番不思議だったのは自分がそんな感覚を持つなんて夢にも思っていなかったのに、なんでいきなりそんな事を思ったのだろう、という事だ。本が語りかけてくるなんて、そんなファンタジー脳にいつなったんだろう。
部屋自体はそれ程広いわけでもないけど、狭いわけでもない。本もそうけど、備品関係も整理整頓され、無駄なものは何もない。
半分開けられた窓から入る爽やかな風がカーテンを揺らす度、部屋中をインクの独特な香りが泳ぎだす。
部屋の中央には少し大きめのテーブルといくつかの椅子。
その内の一つに腰掛けた見覚えのある後ろ姿がドアの開く音に気付き振り返る。
「あら? 部長に日比谷さん。それに正木さんまで……どうされたんですか?」
きょとんとした高橋さんの顔を見る分には、神高先輩が私たちを強引に連れてきた事には関わっていない様子だ。
だけど、そんな高橋さんの顔をみていると、なぜかちょっと意地悪をしてみたくなった。半ば無理矢理連れてこられた鬱憤を晴らしたかったのかもしれない。
「高橋が神高先輩に頼んだんじゃなかったんだ?」
「えっ?! ち、違います! そんな事はしていません!」
「本当に? 神高先輩、高橋さんから私たちの事を聞いたって言ってたよ?」
「それはそうですけど、世間話をしただけです! 連れてきて欲しいなんて頼んでいません!」
普段は物静かな高橋さんがアワアワと動揺している姿を見ると、なんだか[かわいいなあ]と思えた。だけど、これ以上いじめるのは可哀想なのでこの辺でやめておく事にしよう。
「あはは。うそうそ。分かってたよ最初から。ちょっとからかっただけ」
「そ、そうですか……良かった」
ふぅ、と息を整えながら再び席につく。そんなに焦らなくてもいいのに。
そんなやり取りの中、何か違和感を感じた気がするけど、その正体は分からない。
「まあ、二人とも取り敢えず座ったらどうだ? 高橋、二人にお茶を出してやってくれ!」
「あ、いえ、お構いなく……」
「わーい! 美柑、頂こう! あ! このお茶菓子も食べて良いんですか?!」
「ああ! 好きなだけ食べるといい!」
私の声を遮る様に、修斗と神高先輩が目を輝かせながらはしゃいでいる。なんかこの二人、気が合いそうだな。
やれやれと、心の中で呟きながら、私も椅子に腰掛ける。
まあ、特に予定があった訳じゃないし、修斗も楽しそうだから付き合ってあげようか。
私の所為で遅刻させてしまった事も過去にあったしね。
「いや、それ今朝の話だよ?!」
「あー、そだっけ? てか心の中を読むのやめてもらえるかな?」
「なんとなく理不尽な雰囲気を感じたのでつい!」
念のため言っておくけど、修斗は超能力者とかではない。長年の付き合いの賜物かな。
高橋さんが、コポコポとお茶を入れ、私達に出してくれたところで神高先輩が話を切り出す。
「さて、二人とも入部希望という事だが、まずはこの入部届けにサインを書いてもらえるか?!」
「そうくると思いましたよ。誰も入部したいとは言ってませんよ?」
予想通りの展開だったので、大して驚きはしなかった。
「え? そうなのか?! じゃあなんで部室に……?」
「貴方が連れてきたんじゃないですか!?」
修斗が鋭いツッコミを入れている横で私は少し冷静に考えてみる。
この人……天然なのかな。あるいは天才か。
私は興味なかったんだけど、今回の生徒会長を決める選挙では、かなりの波乱があったらしい。
今までは、なんとなくこの人が生徒会長になるんだろうなーみたいな雰囲気の中、形式的に選挙が行われるのが恒例だったみたいなんだけど、神高先輩が異様なカリスマ性を発揮して、大番狂わせを起こした。と、誰かがそんな事を言っていた様な気がする。
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