【コミカライズ配信中!】消しゴムで始まる制御不能彼女との日常-さっちゃんなんしよ~と?(原題:ボクの彼女は頭がおかしい。)

来世ピッチャー

介抱①


ちゅんちゅん。
外から小鳥のさえずりが聞こえてくる。

窓からは淡い光が差し込む。

あぁ、よく寝た。
良い朝だ。

ちょっと頭痛がするけれど、それは仕方のないこと。
さて、学校に行く準備を……

あれ、いま何時だ?

見間違えたのかと思い、もう一度目覚まし時計を眺める。


9時21分。


「うわ」
思わず声が出る。

遅刻だ。完全に遅刻だ。
そういや目覚まし鳴らなかったなぁ……なんでだろ。


「あ、起きた?おはよー早瀬くん」

「おはよう五月。どうして君がここにいるの?」

ここ、僕の部屋ですよね?
もう学校始まってますよね?
…はぁ、ツッコむのもめんどくさい。

「ダーリンの看病しなきゃと思って」
当然でしょ、とでも言いたげな五月の口調。

「…看病?何の話?」

「とぼけてもムダだからね。早瀬くん、昨日から具合悪かったでしょ?」


……バレてましたか。

実を言うと五月の言う通り、昨日の昼休みあたりから体調が思わしくない。

「確かにそうだけど、でも学校を休むほどきついわけじゃないから」と僕は言う。

「え、そんなに顔色悪いのに?熱が38度もあるのに?」

「まさかいま僕熱あるの?」

「あるよ、さっき測ったもん」

「さっきっていつ?」

「早瀬くんが寝てる間に」

「マジか」

「マジだ」

「…帰れ」

「イヤ」

「…じゃなくて学校行け」

「イヤや」

「イヤイヤ言ってる場合じゃないでしょ。学校行きなさい。サボるのはよくないし、それに風邪うつしたくないから」

「むしろうつして欲しい」
僕の机に座っている五月。
ナース服の袖をまくって気合いをアピールしている。

…ナース服?

「何その格好?」と、僕は尋ねた。

「あれ、似合ってない?」

「似合ってる。すごく似合ってる――じゃなくて!コスプレなんてしてないでさっさと制服に着替えて学校行かんかいっ!」

「病人なんだから大人しくしてなさい」
五月に怒られた。

正論です、はい。

「あんまり気に入らなかったみたいだから着替えて来るね。すぐ戻るからちょっと待ってて」

「戻らんでよろしい」

「とか何とか言ってー。ホントはこんな美女に看病されてすっごく嬉しいんでしょう?」

「嬉しいよ。でも、さっきも言ったけど五月にだけは風邪うつしたくないんだって」

「う……」

五月のやつ、何も言わずに顔真赤にして部屋から出て行っちゃいました。


玄関のドアが開き、すぐに閉められ、鍵のかけられた音がする。
よし、行動の時……って待てよ、何で五月は家の鍵を持ってるんだ。
…まぁいいや。

僕はまずトイレに行き、次に歯を磨き、一口水を飲んで、それからすぐに部屋に戻り、机の上に置いてある体温計で念のため自分でも測っておくことにした。

ぴぴっぴぴっぴぴっ。

『38.3』

あぁ、ほんと熱あるわ。

とたんに体が重くなった。
なんだか病気が視覚化されたみたいで、うん。体温計アルアルだよね。

ダルいしすることもないので、とりあえず布団に横になる。





半分夢見て半分天井見上げてるような状態をうとうと繰り返してたら、家の前に一台の車が止まった音がして、ついで玄関の鍵の開けられる音が我が家に鳴り響いた。

タクシーに乗って五月が来た音に違いない。

「寝てるかな?」と、そーっと部屋に入ってくる五月。

「起きてるよ」
僕は半開きだった両目を開き、彼女を見た。

先ほどのナース服とは違い、私服姿の五月。

お嬢様系の上品な装い。

制服じゃないんだね、もう学校行く気ないでしょ。
――ってちょっと待てよ、おい。

「五月…」

「んー?」

「その荷物、なに?」

「今日泊まってくから、その分」

どすんと床に下ろされた巨大なカバン一つ。
通学用の鞄一つ。
クマのぬいぐるみ一つ。
頭のおかしな女の子一人。

「だからさぁ――」

「明日には治るだろうから、そしたら一緒に登校しようね。ちゃんと制服とか教科書も持って来てるから心配いらないよ」

「いや、僕が言いたいのは――」

「落ちついて早瀬くん。すぐ治るから、ね?」

あぁもう、頑固だなぁこの人。

でも、今回は僕も譲れない。
ほんとうつしたくないからね。

僕はベッドから置きあがろうとした。
しかしすぐに五月が止めに入る。

「寝てなきゃダメ!」

「さつ――」
僕の言葉はそこで遮られた。


なぜなら突然、彼女にキスをされたから。


それもけっこう激しいやつ。
き…きもちいい……。



くらくらーっときて、僕の意識は遥か彼方へと吹き飛んで逝った。

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