ボクの彼女は頭がおかしい。
戦
五月と女王の覇権をかけた運命の決戦当日。
僕と大雪くんは戦いの舞台となる大公園を一望できる、一段高い丘の上に陣をとっていた。
双眼鏡持参、準備万端である。
「結局本当に実現しちゃったけど、よかったのかな」と、僕は言った。
「良くはないけど、今さらどうしようもないし」と、大雪くん。
たしかに。
眼下に広がる両軍の陣。
東軍、五月率いる反乱軍。
数は100に満たない程度か。
有力武将として、小雪さん、雫さん、空手部の女子二名。
西軍、藤堂沙紀率いる帝国軍。
数は校内の噂によると400とのことだが、僕が見た限りは350といったところである。
反乱軍の三倍以上。
これは厳しい。
やはり女王の権力は絶大だということか。
さらに東軍にとって悪いことに、帝国軍には名だたる猛将たちが控えている。
このだだっ広い平野に向かい合う両軍。
東軍は五月をピラミッドの頂上にして綺麗に整列している。
一方の西軍は、無数の歩兵の背後に女王や有力武将たち。
対照的な陣のとり方である。
どちらが勝つのだろう。
僕はゴクリとつばを飲み込んだ。
そしてどこからともなく、開戦の合図である角笛が鳴る。
「狙うは五月の首、かかれッ!!」
女王の咆哮が響き渡った。
西軍の歩兵たちがとてつもない勢いで、五月に向かって突進する。
東軍はまだ動かない。
何が狙いなのだ?
両軍の距離が50、30、20、15メートルと詰まっていき――
突然、帝国軍の歩兵第一波が戦場から姿を消した。
一瞬のことで、何が起こったのかよく分からない。
「かかったな!」
五月が叫んだ。
なるほど、これはいわゆる「落とし穴」というやつですね。
よくこれだけ大規模に掘ったものだ。
と、感心していたのもつかの間、うろたえている帝国軍に今度は五月率いる反乱軍が暴れ牛のように怒涛の突っ込みを見せた。
僕は恐怖に背中が凍りついた。
なぜかって?
それはもう、五月の強いこと強いこと。
(殴り合いの最中にもかかわらず丘の上の僕に向かって何度も投げキッスしてくるという、この余裕っぷり)
ばったばったと敵をなぎ倒していくその姿、まさに鬼のようである。
確かに数で言えば圧倒的に西軍が有利であるが、現在の状況はその真逆。
敵の動揺をうまく利用し、数の少なさという欠点をお互いにカバーしあいながら前進し続けている。
お見事、このまま順調に行けば――
ところが残念、どっかりと腰を下ろしていた女王、そして猛将たちがここで動いた。
味方の歩兵を押しのけるようにして戦場の中央へと突進していく。
一瞬にして形勢が逆転した。
先ほどまでの勢いはどこへやら、反乱軍はじりじりと背後に押し返されていった。
「あれ…小雪、誰かに電話してる」と、隣の大雪くん。
どういうことだ?
彼の指差した方向に目を向けると……本当だ。
小雪さん、世紀の大決戦の真っ只中だというのに誰かと携帯でおしゃべりしています。
左手に携帯、右手に握りこぶし。
普段のおっとりとした表情のままに、片腕で襲い掛かってくる敵を昇天させている。
お見事な活躍ぶり。
しかし全体としてみれば東軍は押され気味なわけでありまして。
反乱軍、その数およそ30。
帝国軍、およそ150。
奮闘してはいるのだけれど、最初のハンデが大きすぎたらしい。
さて、どのようにしてこの状況を打開するのでしょう?
数分後、なぞの原付バイク集団が現れました。
その数50といったところ。
どうやら小雪さんが電話で話していた相手とはこの人たちらしい。
多分他校の生徒さん方だ。
制服が違う。
なんかドクロのキーホルダーつけてたり髪の毛金色だったりで色々怖い。
小雪さん何の知り合いなの…
しかしまぁこの救援により、東軍は息を吹き返した。
怒涛の反撃を見せ、両者は凌ぎを削りあっていく。
多くの兵が倒れこみ、終戦の気配がこの大平野に漂い始めたその時。
ついに、五月と女王が戦場の中央に向かい合った。
立ち上がっている者はこの二人以外に誰もいない。
乱れた髪、右頬の擦り傷、大きく上下する小柄な肩。
片方の膝に手をあて、立っているのもやっとといった様子の五月。
それに対し女王は、汚れひとつ見当たらない完全な美貌を保持したままの姿。
さて、どうなる。
二人は、二言三言言葉を交し合った。
(僕たちのいる丘の上まで届く声量ではなかったので、何と言ったのかは分からない)
五月が前傾姿勢になり、右手で女王を挑発する。
不敵な笑みを浮かべていた女王の顔が怒りに歪み、そして五月に向かって突っ込んだ。
凄まじい勢いをつけた女王の右ストレート。
五月は避けきれず、後方に吹き飛ばされた。
体力の限界か。
僕は彼女のもとへと駆け出そうとした。
女王も勝利を確信したのだろう。
その細い右手を天に突き出し、勝利の雄たけびをあげようとしていた。
しかし五月は立ち上がった。
見ているこちらが辛くなるほど、ボロボロの五月。
もうやめてくれ、と真剣に思う。
女王も目を丸くしている。
まだやるのか、といった表情だ。
五月が再び、先ほどと同じく前傾姿勢になり、ゆっくりと右手で挑発した。
女王は唖然として、その場に棒立ちとなっている。
なおも挑発し続ける五月。
倒れこんでいる兵士たちも、二人の行方を見守っている。
「びびってんのか?来いよ!!」
五月が叫んだ。
その声は夕暮れ時の殺風景なこの荒野に、鋭く響き渡った。
これにより、女王のほうにもスイッチが入る。
「うぉぉおおおおお!!!!」
怒りの形相で駆け出す女王。
僕の目に映し出される現実世界が、コマ送りと化した。
一歩、二歩、三歩。
スローモーションの世界。
女王が右手を大きく振り上げ、五月の顔面めがけて勢いよく打ち放つ。
五月は皮一枚のところでそれを回避し、素早くしゃがみこんだ。
女王の表情が恐怖に染まる。
五月は最後の力を振り絞り、全身のバネを使って大きく飛び上がった。
いけ、五月!
彼女の右手は女王の下あごに深々と突き刺さった。
(これが後に伝説となり、何代にも渡って語り継がれることになる五月の『昇天アッパー』である)
女王の体が一瞬空中に持ち上がり、続いてドサリと地面に倒れこむ。
五月は息を切らしながら、敵の総大将を見下ろした。
彼女の意識は完全に飛んでいて、起き上がる気配を見せない。
東軍の兵から大歓声が沸き起こった。
小雪さんや雫さんを筆頭に、大勢が五月のもとへと集まる。
「ッしゃあああああ!!!」
五月の勝ち鬨が、この山奥の大平野にこだました。
ってかなにこれクローズ?
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