【コミカライズ配信中!】消しゴムで始まる制御不能彼女との日常-さっちゃんなんしよ~と?(原題:ボクの彼女は頭がおかしい。)

来世ピッチャー

報復の行方


だいすけ君事件の仕返しをしてやろうと、落ち武者セットを抱えて五月の家に向かった。
事前に五月母に事情を説明していたため、すんなりと事は運んだ。

客間で落ち武者に変装する。

「リアルだねぇこれ」と、感心した様子の五月母。

「それなりの値段でしたので」と、なぜか誇らしげに答える僕。



ばっちり準備が整い、五月の待つ二階へと足音を立てないように上がった。

部屋の前までゆっくり移動し、タイミングを窺う。


ふーっと息を吐き出し、僕は勢い良く扉を押し開けた。







「うぉおあぎゃあああああ!!」

警察が来てもおかしくないぐらいの大絶叫が、近所一帯に響き渡った。





作戦は大成功だった。
というより、成功しすぎてしまった。

予想だにしていなかったことだが、僕はこの日家に帰ることが出来なくなった。

落ち武者という恐怖に、五月が完全にやられてしまったのだ。

「一人にしないで」
涙目、涙声。
微かに震えている五月。

そんな超絶美少女を一人になんてできるわけがない。


そんなわけで夕飯を僕と五月、そして五月母の三人で食べ、三人でテレビを見た。

途中、五月が席を立とうとする。
僕のシャツの袖を軽く引っ張ってくる。

あぁ、そういうことか。

彼女と共にリビングを出て、トイレに行く。
ドアの前で待機する。

やれやれ、こんな予定じゃなかったのに。



五月の護衛を終え、リビングに戻ってから数分後。

「お風呂の準備できたけど、誰から入る?」と、五月母。

「僕は最後で――」
「早瀬くん、一緒に入ろ…?」

はい?
五月の思わぬ提案に、開いた口が塞がらない。

さすがにそれはマズいのではないでしょうか五月さん。
お母様もいらっしゃるわけですし。

「いいんじゃない?私のことなら気にしなくていいわよ」
急にニヤニヤしだす五月母。

…ダメだ。
この家に常識は通用しない。

「お願い……一人じゃ怖くて入れないの」
上目遣いの五月。

あまりの愛らしさにドキッとする。
あぁ、誘惑。


そして最終的に、僕は彼女に屈してしまった。
(不可抗力だと思う)




脱衣場で服を脱ぎ、風呂場に入る。
けっこうデカい。

さて、まずはシャンプーでも――っとここで五月様のご入場でございます。

怯えた水着姿の美少女。
しかもスタイル抜群。

どうしてこの子が僕なんかの彼女なのだろうと本気で疑問に思う。

「水着それしかなかったの?」と、平静を装い尋ねた。

「他にもあったけど、体洗ったりするからこれが一番いいかなって」


入る前に水着を着てくるよう言っておいた。

僕はてっきり、もう少し露出の少ないものを装着してくると思っていた。

しかし彼女は、ほとんど裸と変わらないような何ていうかものすごく大胆な格好で登場した。

…まぁ、彼女の言っていることに一理あるしそれに目の保養にもなるし、これでいいか。


ちなみに僕は、下半身にバスタオルを巻いている。
決して露になんかしていない。


「えっと……シャンプーして欲しいんだけど」
目をつぶるのがどうしても怖いらしい彼女。

すぐ隣に僕がいるんだから、自分でやってもそんなに変わらないとは思うけれど、ちょっと興味が湧いたのでやってあげた。

「おぉー」
彼女の心地よさそうな横顔。
とてつもなく可愛い。

「早瀬くん上手だね」

「そう?」

「うん、すっごく気持ちいい」


思わず暴走しそうになった。






数分後。

僕はすべての段取りを済ませてしまったので、湯船に浸かった。

「慌てなくていいよ。待ってるから」
彼女にそう声をかけ、天井を見上げながら目をつぶる。


さて。
そろそろ理性が崩壊してしまいそうだ。

通常時でも最強に可愛い彼女。

プラス、珍しく弱気モード。

さらに、かなり際どい水着姿。

そしてそして、この二人でお風呂という特殊なシチュエーション。


僕じゃなかったらここまで耐えていないと思う。

自分のストイックさを心中で褒め称えていると、彼女に声をかけられた。
「早瀬くん」

「ん、どうした?」

「ちょっとここ洗うから……うん」
自分の胸を押さえながら恥ずかしそうに言う五月。

「あ……了解です」

僕は浴槽の奥深くへと沈んでいった。









すでに二分は潜ったと思う。

かなり苦しい。
五月からの合図がまだ何もないけれど、きっと大丈夫だろう。


ためらいがちに、僕は湯船から顔をあげた。

目元の水を弾き飛ばし、呼吸を整える。

目を開けると、五月と目が合った。


彼女は上半身に何も身に着けていなかった。

禁断の果実、襲来。



僕は再び浴槽の奥深くへと沈んで逝き、もう二度と浮かんでくることはなかった。






お風呂から上がり、それから色々あって寝る時間。

「はやく!」
先にベッドに入った五月がこちらに手を伸ばしてくる。

「はいはい。お邪魔します」

お互いに向かい合うようにして横になった。
体を丸めてピタリとくっついてくる五月。
(クーラーのおかげで暑さは微塵も感じない)

「今日はありがと」

「いえいえ。怖がらせてごめんね」

「ううん、謝らないで。今は早瀬くんがいるから怖くないし大丈夫」

「そっか」

「うん」

「……」

「……」

「五月が寝るまでずっと見てるから、ぐっすり眠りなさい」

「…さすが彼氏くん。大好き」

「照れる」

「ふふ、かわいい」

「可愛いのは五月ね」
僕はそう言って、彼女を強く抱きしめた。

「いい夢見れそうな気がする」と、彼女は笑った。

愛くるしい笑顔だった。

「おやすみ」

「おやすみなさい早瀬くん」

彼女が眠りにつくまで、その柔らかい髪を優しく撫でつづけた。




こういう五月もたまにはいいかな。

いつもこうだと調子が狂うけれど、うん、今日はとにかく可愛かった。

とか何とか色々考え事をしていると、あることに気が付いた。


五月と五月母の二人でお風呂に入れば良かったんじゃないのか?



腕の中で眠っている少女の寝顔を見つめる。

……素直じゃないなぁ。

甘えたいならそう言えばいいのに。

まぁ、こういうところも全部ひっくるめて好きなんだけどね。



僕の報復は、甘いミストに包み込まれてしまったらしい。

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