眷属を創れる俺は異世界に行っても楽しく生きたい

ドーナツ

友達の少ない俺は唐突ながら異世界に行く

 俺のいる教室、二年C組は賑々しい。益体もないことでばか笑いしあい、一頻り笑うと他の話題に移り、そしてネタがなくなるとまた話題を戻すというおかしな堂々巡りをしているやつらがいたり。落語家のように一人延々自分語りをし、時折観衆から「それな!」を飛ばされるやつがいたり。
 まあ、こうやって俺のクラスへの皮肉を並べてみたわけだが、他のクラスも似たようなものですね。大して、珍しい、奇異な光景でもないか。至って平々凡々だ。
 そうだ。これが普通なんだ。それぞれが個性を持ち、自分を主張し合うのは極々ありふれた光景だ。十人十色。みんな違ってみんないい。だから、皆持つ心根が違って、行動が異なる。当然、それは俺にも当てはまる筈なのだが……

「あんた……なにしてんの?」
「は? 見たまんまだろ。三刀流だろ」

 おいおい、普通なクラスの普通のクラスメイトにその珍獣を見るような目はないだろ。なんなの? 追いかけっこしたいの?

「意味わかんないけど……で? なにしてんの?」
「だから、ラノベ読みながら、アニメ聞いて、同人誌描いてんの」
「あんた人間は阿修羅になれないんだよ?」

 んー、やっぱ三刀流は厳しかったな。精々アニメ聞きながら同人誌だな。我は二刀流が限界だった。宮本武蔵はやはり偉大か……!

「それ馬鹿に見えるよ?」
「んなわけあるか。イヤホンつけて本読みながらペン走らせてるんだぜ? 何処からどう見ても超絶インテリ君だろうが」

 ホント、二宮金次郎が裸足で逃げ出すレベル。そんでもって菅原道真が下界に降りるレベル。そうか私が神か……。

「それで、なんかようか? 琴」
「ん、ああ。一緒に弁当でもどうかって」
「なんでまた俺なんかと……」

 木坂琴。俺のクラス替え前からの知り合いであり、多少の関わりがあるやつだ。まあこれは琴にとってなんのステイタスにもならないんだが、他に琴の特徴といったら、まず容姿だ。
 癖のある茶髪に赤毛が混じったグラデーションをショートにして、活発な雰囲気を抑えるようにすわったクールな瞳。顔全体もよく整っていて、それにプラス運動部特有の引き締まったプロポーションに目が惹き付けられる。ちなみに琴は陸上部所属で、四百メートルで全国出場という実績も兼ねている。
 まあ、つまりこいつは相当なハイスペック美少女で、男子引く手数多ということだ。そんなやつが俺と弁当なんてつついていたらどう思われるだろう。危うく刺されかねないぞ。俺が。

「いや、別に。なんとなくって感じ」
「いやなんとなくで誘うなら他のやつをなんとなく誘えよ。俺は一人が好きなんだ。孤立しているわけでは断じてない。それに、俺はもう弁当は食った。残念だったな」
「は? もう食べてたの? 購買にも行ってなかったし、鞄から弁当何てだしてないじゃん」
「なに? 俺のこと見すぎじゃね? まあ食ったぞ。これが証拠だ」

 そういって、じゅるるるっ、きゅぽっ! の十秒ゼリーの空袋をヒラヒラさせた。

「はぁ、呆れた。そんなのでこの年の男子が午後を過ごせるとは思えないんだけど。……私の弁当、少し分けてあげようか?」
「同情するなら金をくれぇ……。まあ、別に金欠で購買すらままならないとかじゃねんだけど。貰うのは遠慮しとく。それに今日はあまり食べる気分じゃなかっただけだ。分かったら行った行った」
「んーま、それはわかったけど、別にここで食べても良いでしょ?」
「もう理由とかなにもねぇじゃん。どういったってここで食べる気だったじゃん。なんなの? 俺のことどんな風にみてるのドキドキ」
「男避け、かな?」
「どうか使い捨てにしないでくれよ……」

 いたずらな笑みを浮かべた琴はそう言った。ポイ捨ては、犯罪ですっ! いやないか。それはないね。
 そんな馬鹿な会話をしている俺たちに近寄る影が三つ。

「ねぇ木坂さん、話少し聞こえちゃったんだけどさ、僕達と一緒にお弁当食べないかい?」

 話しかけてきたのは貴公子と見紛う茶髪のイケメン君だった。その少し後ろには整った顔の美少女が二人。比率的に1:2だ。
 うーん、これって普通男子誘うもんじゃないですかね? バランス悪すぎませんこと? ああ、あれか。たちをつけ忘れたのかな。それとも俺は木坂の付属品だから引っ付いてくるのは当たり前とか思われてるのかな。だとしたらまことに遺憾。

「いや、私は遠慮しとく」
「いいじゃないか。氷室くんはもう食べてしまったんだろ? 僕達とならお弁当を分けあったりできるし、三人もいるんだ。きっと楽しいと思うけど、どうかな?」

 おっと俺は仲間外れ前提だったようだ。なにそれ泣ける。ていうか友達って自分の弁当分け合うのが普通なの? 日本人ってもっと奥ゆかしい人種だとか思ってたけど違ったのかね? 異文化交流進みすぎでしょ。それと俺、氷室日影ね。あのイケメン君よく俺なんかの名前覚えてたな。クラス替えから三週間ぽっちの関わりなのに。コミュ王子さすが。俺? イケメン君の名前なんて知らないよ。興味ないね(ツンデレ風味)。

「ねぇコウちゃん、木坂さんがいいって言ってるならいいじゃん」
「そうだよ! 別に無理させることないよ!」

 後ろから美少女のソプラノボイスが飛んできた。色素の薄い髪をポニテにした小柄な娘と青みがかった黒髪を真っ直ぐに垂らした胸元が苦しそうな娘は、イケメン君の腕に絡みしなだれかかる。うーん、なんかよく見てみると、少しこの二人安っぽく見えるんだよな。よくあるネット小説に出てくる三人目のヒロインみたい。チョロインみたい。はっきり言っちゃった。

「まあまあ二人とも、少し落ち着けって」
「だって!」
「えーっと、すいません。琴も断ってるし、お二人もなんだか都合が悪そうですし。また別の機会にってことでいいですかね?」

 すると琴はこちらを凝視し、イケメン君は何処か忌々しげに俺を眇める。琴は、そうだな、俺は基本事なかれ主義だと思ってたからこんなことで自分から口を挟むなんて意外、ってなとこか。やだ俺達口に出さずとも言いたいことが伝わっちゃうだたなんて。もう心繋がってるといっても過言ではないんじゃないん? イケメン君? は、そうだなぁ……。『なんだこいついきなり出しゃばりやがって。お前みてぇなカースト下位者が目上の俺らに口利こうとしてんじゃねぇよ。木坂のコバンザメが』って感じじゃないですかね? あらやだ中々あなた黒いわね。

「あ……うん。そういうことだから、もう行ってもらえる? 時間もそろそろ……はぁ」
「いや、違うんだよ。二人はそんな気で言ったんじゃなくてさ、ほらだから――」

 キーン コーン カーン コーン ……。

「……ごめん木坂さん、またね。ほら二人とも、自分のクラスに戻らないと」

 イケメン君は二人をそう促して、自分の席に戻っていった。てかあの二人他クラスだったのな。まあ知らないやつだったしそれもそうか。イケメン君? 別に知らなかった訳じゃないよ。認識はしてたもん。ただ興味がなかったから名前を覚えていないだけだ!

「はぁ……結局弁当……はぁ」
「あっとー……。……ゼリー、いるか?」
「……貸しにしといて」

 琴は俺からゼリーを受けとると、じゅるるるしながら席に戻った。ご愁傷さまです。
 それからはいつも通り授業という名の子守唄が教室に響く。えー俺は生涯日本出るつもりないんでこの授業は無意義というか、建設的でないというか、俺のlifeにnot needっていうか。むしろ俺の愛国心は褒め称えられてもいいレベルだと思うんですよね。人間国宝になるのも時間の問題じゃないん?
 そう頭の中で屁理屈を述べへつらって、俺は微睡みの中に意識を投じた。

 それから数分後のことだった。教室に眩い光の渦が現れ、クラスが数瞬にして消え去ったのは。

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