君に「おはよう」と言えたら、後悔はない

akaban42

おはよう11

 昨日と同じ朝。妹には友達と一緒に行くと嘘をいい、先の電車で行かせた。
もう少しで冬になるからか天候はよく体調を崩すが、今日はいつになく青い空だ。
 駅のホームに着くと、見覚えのある黒く綺麗な髪の彼女がいた。
 「安積さん。いい朝ですね。おはようございます。」
 彼女は少し驚いた顔をしたのちに、薄く微笑み返してくれた。
 「おはよう。寒河江君。」

 電車の中。二人の間に会話はなかった。だが、先に沈黙を破ったのは僕の方だった。
 「安積さん。頼み事があります。」
 「?はい」
 少し息を整える。
 「今日の放課後に話したいことがあります。その時に僕の話を聞いてくれませんか?」
 少しの無言。僕は冷や汗をタラタラとかく感覚になり、鼓動はいつもより速くなっている。顔に出さないので精一杯だった。いつも通り平常心に振る舞う。
 「……分かりました。」
彼女の答えに安堵する。断れてしまったらどうしようかと思っていた所だった。
 「ですが、その時に私からも聞いて欲しい話があります。」
「分かりました。」
再びの沈黙。今時の話題の会話もなく、ただただ、時間が過ぎる。結局、僕達二人は駅に着くまで一言も喋らなかった。
 
 「じゃぁ、また後でね安積さん。ちょっと用事あるから。」
 「えぇ、私も丁度用事があったので。」
 僕はそう言い颯爽と彼女とは反対側の階段を登り、
 「はぁぁぁ……なんとかなった」
大きく息を吐き出しながら緊張の糸が解けたようにだらっとなった。
 「その様子だと、おそらくだが告白の場を作ることが出来たらしいな。頑張ったな敏樹よ。」
階段の上で僕を見下ろしながらも、賞賛を送ってくれたのは健咲だった。
 二人で並び駅を出る。
 「だが敏樹よ、本当の勝負はこれからだぞ?大丈夫なのか?」
 「……僕が出来る事なんて限られてる。だから出来ない事はしないし、出来る事は絶対にできる。今回のは、出来る事だと思う。」
この言葉は自分の確かな個性で唯一変わる事ない芯だと思ってる。
 健咲はニィっと口角をあげ、肩に手でバシバシとたたく。憎めない奴だ。
 「お前らしぃぜ!!その言葉いいな!!」
相変わらずの健咲に苦笑いしか浮かばない。だけど、
 「あぁお前もな。僕が告白したら次はお前のだからな。」
そう思うと、楽しみで楽しみでしょうがなくなってしまう。
「てか、時間やばいな、急ごうぜ?」
 「お、おう!!」

 

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