君に「おはよう」と言えたら、後悔はない

akaban42

おはよう10

教室にて僕は健咲から尋問を受けていた。いつもならとっくに帰ってるであろう時間帯。なぜこのような状況になったか、全く分からないし、なぜか安積さんも女子にこのような尋問をどこかで受けているらしい。(多分)
 「でだ……もう一度聞くが、お前と安積さんは付き合っているのか?」
 僕はうんざりするほど健咲からこの質問をされ続け、
 「付き合ってない。女友達の関係しかないんだ。」
 と答えるのが一連の動作となっていた。正直、気が狂いそうなほどになっていた。
 未だに「おはよう」とすら言えてないチキン野郎なのだ。友達と思われてるかも怪しい。
 「はぁ……じゃぁ、お前なんで朝、一緒に登校してたんだ。」
 「それは……家がたまたま近くて一緒に行こうって盛り上がった……から?」
 健咲はクソでかいため息をわざわざ聞こえるようにした後に、
 「お前はさ、どうなりたいんだ?安積さんと」
 健咲から言われるまでもなく、今日散々考えていたんだ。だが、この答えが合っているか分からないし、これで彼女がどう思うかが不安だ。恋愛なんて未経験。この気持ちが恋愛かすらもわからない。
 「……彼女にちゃんと「おはよう」と言いたい。もしもだけど、彼女に思いを伝えたい……やっぱ変だよな?」
 俯いていた顔を見上げ、健咲の顔を見る。
 健咲は少し考える素ぶりを見せるが、すぐに満足した顔になってくれる。
 「いいや、お前は間違ってなんかいない。だから安心しとけ。俺に作戦がある。」
 ありがとう。だけどさ……
 「頭撫でんなやぁぁ!!」
教室は、ゴンという鈍い音が鳴り響いた。

 「はぁ……最悪だ……なんだよあの作戦。無理に決まってだろ……」
いつもとは少し異なる帰り道。いつも見る事もあまりない夕焼けが美しくも輝いている。
 「綺麗だな……」
 ボソリと独り言をつぶやき、なぜか虚しく思えた。冷たい風が肌に刺し、より感傷に浸る。
 「そうですね……」
 ……え?誰?
 と横を見ると夕焼けによってかそれとも元からなのか、その美貌は幻想的で目に焼き付いて離れないほど美しかった。
 「っ……あ、安積さんどうして?」
 「え、えっと友達にちょっと捕まってね。帰ろうとしたら、たまたま寒河江君がいたからさ。」
 「そうなんだ……」
 長く長くだけど短い時間。一分もないほどの短い時間の二人の無言。だけれども、居心地の悪さはなく、もしかしたら周りからは恋人同士と見られているのかもしれないなんて……
 (んなわけあるか。自惚れんな。)
と自分を戒めるような心の声。
 「「……」」
 「今から言うことはあまり気にしないでね。私さ、周りからは美人だとか綺麗だとかさ色々言われるけどさ、実は知ってるんだよね。欲しいものはどうしても欲しいし、どうしても手に入れようとする凄く醜いだって。」
 彼女の顔は思いつめた表情は浮かべていなかった。話は凄く重そうなのに。
「寒河江君はさ、こんな私をどう思う?」
 「そんなわけない」とは、言えなかった。
彼女は自分を理解しているから。それは、彼女を否定することになってしまう。だから、これだけしか言えない。
 「僕はそんな君も許せるよ。」
 僕にしか言えない答え。カッコいい事は言えないけど。僕はそんな彼女だって許せるし、後悔なんてない。
 「……ふふっ。ありがとね。君の答えを聞けてよかった。」
 「……」
 彼女は僕よりも少し前に進み、笑顔を浮かべ
「寒河江君!さようなら。また明日!学校でね!」
 一瞬だけ自分は腑抜けた顔をしたと思う。
彼女から「さようなら」と言われたのは初めてのことだった。
 「あぁ。また明日。学校でね。」




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