君に「おはよう」と言えたら、後悔はない

akaban42

おはよう3

 授業もすべて終わり、後は家に帰るだけになった。
 今日も一日を長く感じてしまった。
 「じゃぁまた明日、安積さん。」
 「え、えぇ……じゃぁ。」
 階段を降り、玄関で妹を待つ事にした。
グラウンドでは、野球部やサッカー部などが気合いの入った声をあげていた。
「おお、敏樹か。どうした?妹待ちか?」
 すると、サッカー部のキャプテンである健咲から声を掛けられる。
 (こいつに部活中に絡まめるとろくな事がないんだよな〜。)
 「……」
「……そんな嫌そうな顔すんなよ悲しくなるだろ?」
 もしかして顔に出てただろうか?ポーカーフェイスは得意な方なはずなんだが。という冗談は置いておこう。
「あぁ、そうだよ。あいつ来んのいっつも遅いからいっつも待ってんだよ。どうにかして欲しい。」
 何故だろうか、健咲から嫉妬の眼差しで見てくるのはなんでだろか?後、周りからも
 「ま、まぁ俺だからいいけど、背中には気をつけろよ。」
……?なんだあいつ?
 健咲が行き、携帯をいじり始めてから約五分後。ゆっくりと玄関から現れた妹。
「……先帰るから、何が悪かったかしっかり考えておけよ。」
 「ま、まって!分かってるから!ゆっくり来てごめんなさい!」
  早歩きで歩く僕の服を引っ張ってくる。
 「分かったって、服伸びるからやめろ。
 「怒ってない?」
 「怒ってない、怒ってない。」
 「本当に、ほんと?」
 「あぁ。こんなで怒るわけないないだろ?」
 兄貴の寛容な心を見せたことで、感激している我が妹に笑顔で
 「帰ったら、どうせ怒られるんだからな」
と言ってやる。

 家の前。入りたくない。怒られたくない。と駄々をこねるこいつを無理やり押し込ませる。
 「あら、おかえり。もうご飯の準備できてるわよ。」
  ……いつも思うが、この若々しそうな顔立ちからは想像もできないほど、母は熟練の主婦の佇まいである。
  「「ただいま」」
 「よし!冷えないうちに食べなさい。
あー、あと響華は後で私の部屋に来なさい。」
 「……あい。」
妹の顔は例えるなら、今から帰ってこれない戦いにいく戦士そのもの。そう、覚悟はとうに決めてあると言いたげな顔である。
 「悪いが響華、(僕は)行かないぞ。」
 悪いな。そんな顔すんなよ悪かったって。

 食卓には出来立ての肉じゃがに僕の好きなサラダがある。
 「「いただきます」」
 静かな食卓。かちゃかちゃという食器の音。食材を食べる音。
 僕はこの静かな時間が好きだ。
 いつも今日という日を振り返る唯一の時間だ。
今日は……と考えると、あいつの言葉が浮かぶ。
『お前も高校生なんだからさ、恋してみようぜ?』
今まで考えた事もなかった事だった。みんな経験しているのに自分だけした事がないというのは、なんだか恥ずかしいし、してみたいとは思ってる。
 「恋か……」
ボソリと呟いてみることでより強く自分が恋というものを意識する事が出来た。
 「「え……」」
 食卓には、母親と妹が間の抜けた声とゆっくりと箸が落ちた音が食卓に広がる。
 
  

 

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