魔神と落ちこぼれの魔術師

モモ

幕間4

二時間目から四時間目を跨いで行われた実習は終わりを告げ、待ちに待った昼休みに突入した。


「うおおぉぉっ!!」


教室に帰ってくるや否や、食堂に突撃するべく階段を駆け降りる数人の猛者達。
その中に俺も混ざっていたりする。
いつもなら陽平もこの中にいるのだが、彼は現在保健室で絶賛爆睡中。


……

松平先生に「実習の点はどうなるのでしょうか?」と尋ねた所、レポート次第では赤点は回避できると答えてくれた。

そんな訳で俺の手には、レポート提出用のノートと筆記用具。

学園中を駆けること数分。俺は中央校舎の横に小さく建っている建物である食堂へ辿り着いた。


「えっと……ラーメンで良いよな、うん」

早速、食堂に入った直ぐ横に設置された自販機でラーメンの食券を購入。

後はこれを食堂の奥で会計をしているおばさんに渡し、ラーメンと代えてもらうだけで終わり。


急いだ甲斐はあったようだ。テーブルもかなり空いてるし、いると言えば一人でスパゲッティを食べている九条ぐらい。


いつの間に?
スタートダッシュ組には混じってなかったたんだが……まあ、良いか。
今はそれ所ではないし

「あー、横……大丈夫か?」
ラーメンと箸が乗せられたおぼんを抱え、俺は一人黙々とスパゲッティを食する九条に話し掛ける。
「他のテーブルが空いてるんじゃないの?」

箸を止め、彼女は怪訝な表情でミートソースの付いた唇を動かす。

「俺の好きな言葉は『賑やかな食卓』だ……っていうのは冗談で、レポートを綺麗に書かないと赤点になるんだ。だからついでに教えてしてほしいなぁ……と」

「他力本願ね。勝手にすれば」

「それは……どっちの意味でございましょう?」

「別に構わないわ、って意味よ」

「はい?」

「だから両方良いって意味よっ!」
突っ込みがいつもより冷たい。今日の委員長様はご機嫌ナナメの様です、気を付けないと命がいくつあっても足りない。




「にしても坂本君ってあれね」

呆れ気味に九条は言う。
ちなみにまだ気付いていないのか、ミートソースは口に付いたままである。

指摘すれば……殺されるかな?

教えるか否か困っていると、これまた怪しそうにに九条は顔をしかめた。
「私の顔に何か付いてんの? それとも私の話は聞くまでも無いってこと?」

「い、いや、違わなくはない気がしないでもないですがやっぱりごめんなさい!」

言えない。
ミートソースが付いてますよ、だなんて言った瞬間、火葬コースがもれなく待っていそうで

だが、ここで九条が引き下がる訳もなく。
「何か隠してるわね。素直に吐け!」

「嫌です! もし言ったら即効で坂本君の丸焼きが完成しますから……あ」
まずい。
さらっといつもノリで言ってしまった。口は災いの元っていうのはこういうことを言うんじゃないのかな?
全然嬉しくないけど、1つ学習したよ。

「やっぱり隠してたのね。吐かないと強制的に吐かすわよ」

「こ、怖い! でもミートソースが口に付いてるだなんて言ったら……って、あ」

「~~~~っ!」
バッとテキパキとした動きでポケットティッシュを取り出し、口に付いた汚れを拭き取る九条。

冷静を装っているつもりなんだろうけど、顔が真っ赤だから説得力はゼロだよ。

「とっ、取り敢えずラーメンでも食べたら? レポートも書くんでしょ?」

ごほん、と咳ばらいをし、九条は言う。
委員長様は意外に天然なのか? 
でもまあ、今朝よりは元気になっているみたいで良かった。







「……意外と字が綺麗なのね」
ラーメンを啜り、レポートを書く。その忙しい繰り返しの奔流にいる俺を眺めながら、九条は呟いた。

「字が綺麗な人は心も綺麗なんです」

「馬鹿なこと言ってないで早く仕上げなさいよ。そもそもこれ宿題でしょ、何で今してんのよ?」

「補習の宿題が他にあるんです。そんな訳だから、今日した防御魔術の理論を詳しくかつ書き易そうな文で教えてください」

俺は超多忙な毎日を送っているのだよ。
部活に入ってないだけまだ自由時間はあるはずとつっこまれたらそれまでだけど。

「はぁ~。仕方ないわね……っ!」

ピタリと一点を見詰めたまま、固まる表情。徐々に彼女の顔が険しいものへと変わっていく。


「九条……?」
呼び掛けてみたが、彼女は全く応じるような素振りは見せない。まるで彼女が別世界にいるような感覚がした。

……

何か、一気に九条の雰囲気が今朝の時に逆戻りしたような感じだ。

と言うか、一体何を睨んでいるんだ?
九条の視線の先へ目を動かす。
そこには一人の男子生徒がいた。
何の特徴も無い極々普通の少年。直毛の茶髪は別段長い訳でも無く、背丈も俺と同じ平均的な高さ。
とてもじゃないが、九条が睨む理由なんて俺には分からない。

「坂本君。私はもう教室に戻るから」

何を思ったのか、九条は険しい顔で俺に告げる。

「え?」

「ごめんなさい。急用を思い出したの」

「あっ、おい!」

声を掛けたが時既に遅し。彼女は空になった皿が乗ったトレイを持ち、食堂の奥へと消えていってしまった。

「放置プレイ? じゃないや、何だって九条はあんな……」


突如、ぞくりと舐め回すような気色が悪い感覚が体中に走る。

この感覚……初めて松平先生と目を合わせた時と似ているようで何か違う。
あの時感じたのは悪寒だったが、今は明確な殺気である。

自然と俺はそちらに目を向けるとそこに口元を吊り上げ、嘲笑う少年がいた。
それは紛れも無く、九条がやけに険しい表情で睨んでいた少年である。


それから、俺は僅かに残ったラーメンを胃に押し込み、食器を食堂のおばさんに返す。
そしてノートと筆記用具を回収し、食堂を後にした。だが教室には帰らない。
用事が一つ出来てしまった。
「はぁ~。課題終わらせないとまずいんだけどな」




「陽平!」

ノックも無しに保健室へ押し入り、奥に設置されたベッドへ足を運ぶ。
保健室の先生から嫌な顔をされたが、今はそれ所ではない。

「ん、翔護か」
携帯片手にパンを貪る、我が親友。何かめちゃくちゃ元気だ。

「少し聞きたいことがあるんだ。大丈夫か?」
ボケられる前に真面目に問う。

「分かった」
携帯をしまい、食いかけのパンを枕元に置く陽平。
空気を読んでくれたようだ。

早速、食堂でのことを伝えてみた。
激変した九条。彼女が睨んでいた少年。そして、その少年の狂気じみた殺意。

普通なら気味が悪いまたは気のせいだろと笑われる所だが、陽平は最後まで何も言わず、聞いてくれた。

「どう思う、陽平?」

取り敢えず感想を聞く。

「ん~、それだけでは何とも言えねーよな」

やっぱりこういうことは本人に聞くのが手っ取り早いんだけど……無理だ。
あんな様子の九条には聞けない。

「よし。翔護よ、こんな時はこの渡瀬さんにお任せあれ」
俺と同じく思い悩んでいるのかと思えば、彼は少しふざけた口調で言う。

「任せろって何を?」
まさか九条に突撃インタビューとかじゃないよね? 
それやると三分で消し炭にされるよ、いやむしろ三分もかからないかも知れない。

俺の心配を他所に陽平はどこか得意げな表情で言続ける。

「俺って自慢じゃないけど、結構交遊関係が広いんだぜ? 意外だろ?」

いいえ、それは予想通りですよ。
お前人懐っこいしね

「まぁそんな訳で、その気になれば九条と翔護の言う男子生徒の情報収集なんてお手の物。九条と同じ中学校のヤツに聞けば分かるよな」

「お、おぉ」

何か感動。
なんだかんだで頼りになるね

「でも人からの情報だからな? あんま当たってると思うなよ」

「それでも有り難い」
とにかくこれで今回の件は後回し。
俺の考えすぎであることを願うばかりだ。

「あ。そういや俺熱あるんだった。多分明日休むから」

え?

「いや……どう見ても元気だろ?」
どう見ても、ピンピンしてるじゃないの。

「それがまだなんだよなー。今はまだマシになってるだけ。だから情報収集は無理だな。わりぃ、はっはっはー」

……

どうしよう……


「でもまあ、ちょっと聞いといてやるよ。翔護の頼みだしな」

「ああ」
微妙に一安心。
て言うか、やっぱり元気なんじゃないのか?
どう見ても熱があるようには見えん。



時は流れ、放課後。

本日も容赦なく補習。
俺と茜さん、二人しかいない静かな教室で補習は始まった。
こう言うシチュエーション、エロ本等であるよね。女教師物、結構好きですよ。まあ、そんなどうでも良い話は置いておいて

「ふ~ん、これが坂本の魔具か」
まじまじと俺の魔具、漆黒の篭手を眺める茜さん。そんなに珍しい物なのだろうか?

「なかなか良い物じゃねぇか。花月とはな」

「花月……ですか?」

「まあ、マイナーな魔具だからな。主に警察の機動隊や特殊部隊、軍の教導部隊等にも配備されているやつだ。まあ、少し旧式化はしているが、まあ変な癖もなく、扱いやすい奴だぞ。」

「は……はぁ」

よく分からないけど、この魔具は結構良いやつなのか。警察の特殊部隊や軍にも配備されているらしいし


「あ。そうそう、話は逸れるけど、坂本も帰り道には気を付けろよ?」

「え? もう終わりですか?」

「なわけねぇだろ」

ですよね……
開始5分で終了とか補習ですら無いし。

ともかく、気を付けろと言うのはやはり事件が原因なんだろう。

まったく、名門桜魔の生徒相手によくやるよ。
まあ、俺なんかがその犯人に遭遇してしまったら速攻でやられるだろうけど。


「と言うか、何で桜魔の生徒ばかりが狙われているんですか?」

ふと疑問に思ったことを尋ねる。

「さぁな。強いて言うなら、個人的な恨みとか嫉妬なんじゃねぇのか? 高等警察は愉快犯と見て捜査してるっぽいし」

高等警察。確か兄貴が働いている所だ。となると、兄貴は何か知ってるのかな。
まあ、教えてくれないと思うから聞かないけど。

「そんじゃ、逸れた話はここまで。どんどん進めてくから今日も宿題は多いぞ」

……

なに?

「そんな絶望的な顔で訴えても無駄だからな。もう刷ってきてるからよ」
諦めろと言わんばかりに、茜さんはプリントの束を俺の机の上に置く。

誰か助けてください……
まだレポートも完成してないんですけど



日が桜の咲き誇る人気の無い校庭を赤く照らす中、手提げ鞄を片手に歩く俺。

「はぁ~」
重く、深い溜息が漏れる。

もう限界。
何が限界ってもう何もかもが限界なんです。

今日だけでも、実習が早まり、思わぬ事故で鼻血。
それを偶然トイレに居合わせた親友に誤解され、何だかんだで保健室へ同行。レポートは未だに完成してないし、補習の宿題は盛り沢山。

「あー」
怠い。何と無くで茜色の空を見上げると、首の骨がポキッと鳴る。

「ん?」
そこで気付く。たまたま目に入った校舎。その三階に当たる窓の一つに見覚えのある背中が映っていた。
赤い髪なんて魔人でも珍しい。
なので、思い当たる人物は一人しかいない。
「九条だよな?」

俺の独り言に応えるように、窓に映る後ろ姿の女子生徒は振り向く。
そして窓を挟んで目が合った。
向こうも驚いた様子。
彼女がいるのは恐らく修練室だ。
窓から中の様子を確認することが出来る。
となると九条は一人で魔術の練習でもしていたのだろうか。
窓から見る限り、彼女しかいなさそうだ。

行くべきか、行かざるべきか。
馬鹿みたいに立ち止まって悩んでしまう。
九条は怪訝な顔で俺を見ているに違いない。

でも九条って、教えるの上手そうだよな。
いっそのこと防御魔術を教えてもらうの……は流石に厚かましいか。
いや、しかしもう背に腹は代えられないと言うのだろうか。

「何やってんのよ?」

はい?
いつの間に彼女はここまで降りてきたのだろう? と言うか、わざわざ降りてくるなんて不審者みたいに思われてるかも。
いや、よく見れば九条は鞄を持っている。
誤解はされていないようだ。
不審がられているみたいだけどね。

「もう一回聞くけど、何してんのよ?」
再度、疑惑の視線と共に質問してくる九条。

「俺は補習の帰り。九条は?」

「さっき見てたでしょ。魔術の修練よ」

何だか今の九条は機嫌が悪そうだ。
彼女の言葉が重く心に突き刺さる。
取り敢えず、刺激しないように出来るだけ自然な感じの会話を展開するべきだ。

「一人で、か?」

「なっ!? わ、悪かったわね!」

あ。早速まずったよ、俺。
とっさに身構える。
が、もう彼女は止まらない。
「言っておくけど私は友達が多いのよ。シュターデさんと渡瀬君と松川君の三人しか友達が居ないあなたに言われたくないわ!」
びしっと人差し指を突き立て、どこか誇らしげに語る九条。
完全に元の調子に戻ってらっしゃいます。

しかし委員長様、それはかなり傷付くんですよ。 結構気にしてるんですから

「ふんっ……参ったかしら」

「わー、やられたー」

「何か馬鹿にしてない?」
眉を潜め「まあいつものことだから良いわ」と、半ば呆れ気味に九条は言う。

いつも……って、委員長様の中じゃ俺はどんな人になっているのか一度真面目に確認したい。


何はともあれ、俺と九条は学園の敷地内から抜け、活気に満ち溢れた商店街を歩く。

「とにかく、委員長様は下校中なんだな」

「そうよ。完全下校時刻がきたからね」

「ふ~ん……」

「な、何よ……」

たじろぐ九条。
しかし、いざ九条と一対一で会話となると話題が全然沸いて来ないな。

「……」

「……」

そして、重たい沈黙に支配される。
この空気に堪えられなかったのか、九条が吠える。

「ああもう、何かボケるなり喋るなりしなさいよ! 気まずいでしょ!?」

「仕方がないだろ、話題が無いんだし」

俺がそう返すと「うっ」と彼女は言葉に詰まる。

「……」

「……」

そして、再び沈黙。
しかも周りの人達の声や物音すら耳に入らない。

もう九条もとやかく言うのは止めたらしい。俺もまぁ良いかと諦め、そのまま商店街を彼女と歩いて進む。


そして商店街を抜けた所で、九条は小さく口を動かした。

「えっと、レポートは完成したの?」

「まだ」

「そう。悪いわね、あの時急いでたから」

「?」
あの時……ああ、食堂の時ね。

「なあ委員長」
さて、聞くべきか聞かざるべきか。
まあ、どの道、声を掛けてしまったんだ。何か話そう。

真っ先に思い付く話題と言えば


「橘……元気か?」
これだ。今朝の話題を掘り起こすような形になってしまったが、まあ良いだろう。

「それ今朝も言ってたわよね?」

「うっ。何で話題の芯を折るようなことを言うんですか委員長」
俺がそう答えると、九条は少し呆れ気味に溜息をつく。
「大丈夫よ。今はまだ安静だけどね」

……

「あれ? 橘って風邪じゃなかったけ?」

「あっ……いや、舞は昔から体が弱いの。だからちょっと、ね」
動揺し過ぎだろ、と言おうと思ったが、止めた。
代わりに違う言葉を紡ぐ。

「じゃあ今度お見舞いに行くか。皆を誘ってさ」

「その必要は無いわ」

「え?」
もう橘は回復したということなのかな。

取り敢えず、話題を変えよう。
また少し気まずくなってきてるし。
流石に俺の自虐話は言ってて虚しくなるから、すると言えば九条の話だろう。
「確か九条の得意な魔術は火だったけ?」
九条が炎片手に俺を脅すビジョンが脳裏に焼き付いている。

「そうだけど。まさか私の自己紹介を聞いてなかったの? あなたって本当、人の話を聞く耳もってないわよね」

くっ、墓穴を掘った。
そしてさらっとけなされた。

「委員長様、誤解しているようなら直訴します。わたくし坂本・翔護は聞き上手なタイプだと主張しま……」

「燃やす」

無表情で言ってのけた九条の右手を中心に真紅の炎が渦巻き、集束する。

「待ってください、委員長様! ほら周りを見てみよう! 避けてるよ? 市民の方々が俺達から避難してますよ?」

「問答無用」

「に、逃げよう。さよなら!」

絶賛お怒り中の委員長様に背を向け、全速力で走る。

「あっ、こら待ちなさい!」

右手の炎はそのままで、九条は俺を追って来る。これが速い。足に強化魔術を施しているのだろうか。
つうか、魔具使わず2つの魔術を行使するとは……
これが彼我の差と言うやつなんですね。

「捕まえたわよ」

逃走時間約五秒。
ガシッと右腕を捕まれ、終了。

「り、理不尽だ……」
言葉が口から漏れる。


その後はとにかく大変だった。絶賛お怒り中の九条を必死で説得し、怒りと共に炎も鎮めてもらうのに何分かかったことか。
疲労も倍に跳ね上がったよ、こんちくしょう。


「じゃあ私はここで」
商店街を抜けた先にある交差点、俺と陽平が初めて出会った所で、九条は俺に言った。

そういや九条も寮生だったな。よく思えば、俺の周りの人物って意外に寮生が多いよな。
「おう、また明日」
遠ざかる九条の背中に声を送る。
何だか、その背中は少し小さく見えた。


さて、俺も帰るか。
俺は再び足を動かし始めた。


















時刻は夜の0時を少し回った所。
何とか宿題とレポートを仕上げた俺は、自室のベッドで布団に潜っていた。

溜まりに溜まった疲労のせいか、瞼がかなり重たい。
めちゃくちゃ眠い。
でもそんな眠気は一気に吹き飛んだ。

「こんばんは。翔護君」
そう。とある少年の声が耳に入ったからだ。

瞬間的に布団を取っ払い、体を起こす。
声だけで分かる。彼はいつも深夜に現れ、意味深な言葉を残し、良い所で消える少年。

「アルマロス……」

そう。それが青い髪の少年の名前である。

「やあ、久しぶりだね」
律儀に彼は答える。
いつから俺のベッドの横に立ってた? なんて、いつものお約束みたいなものだから触れないでおこう。

「さて。今回、僕が君に会いに来たのは」
髪と同色の青い瞳で俺を見詰め、アルマロスは続ける。
「忠告をするためだ」
忠告。
電灯の点いてない暗い部屋が月明かりで僅かに明るいせいか、その言葉はより一層、俺の耳に残った。

「いや何、今回迫っている脅威事態は君に直接牙を剥く訳じゃない」

思わず表情が硬くなってしまう俺を気にする気配すら見せず、アルマロスは不思議な笑みを浮かべ、言う。
「君の身近の存在の彼女。それが今回の脅威の狙いだ。」

……はい?

「……あの、アルマロスさん?」
ちょっと待って欲しい。
俺に頭の整理をする時間をください。

「唐突すぎたかな? でも脅威は直前まで迫っている。時間が無いんだよ」

そういう訳じゃなくて……というか、時間が無いってどういうことだ?
先程のシリアスな空気はいつの間にか崩れ去り、ただ?マークだけが俺の周りにグルグルと回るだけ。
もしかして俺、空気を読めてない?

「そんな訳ないさ」

え、もしかして心を読まれた!?
動揺する俺をクスッと笑い、アルマロスは話を戻す。
「道は2つ。」

「2つ?」
反射的に俺は首を傾げてしまう。

「うん、道は2つ。でもどちらの道がどの結果に繋がっている、なんて下らないことは言わないよ。スポーツでも結末を知って見ても何も面白くないだろう?」
ゴメン、俺、スポーツはニュースで結果を知れれば良いタイプ。
中継とか聞いたり、見ようとは思わないもん。
まあそんなどうでもいいことはさておき、俺はアルマロスの言葉に耳を傾ける。

「とにかく、君は君が思うままに行動するんだ。それがどんな形であれ、彼女にとっての救済となるからね」

忠告……と言うより、助言か?
そもそも彼女って誰?
いつもながら謎が尽きない。

そんな時、ふと思った。
今がアルマロスの正体を聞くチャンスではないのだろうか。久しぶりに会ったんだし。
本人に直接聞くのは少し気が引けるが、その本人アルマロスのことをよく知っている人物なんて思い付かない。
まぁ毎回不意に現れるんだもん、仕方がないと言えばないんだけど。

「なぁアルマロス」
恐る恐る名を呼んでみる。

「なんだい?」

「いつも忠告……というか、助言? まぁそれ的なことをしてくれるけど、アルマロスは……えっと」

小さく笑って応じてくれたアルマロスに、俺は今まで溜まりに溜まっていた疑問をぶちまけようと言葉を紡ぐ……が、上手く纏まらない。
最終的には『こんなことを聞いたら失礼じゃないのだろうか』とまで思い始めてしまう始末。
そんな俺に
「契約者であり、味方だよ。」
アルマロスは俺の疑問を知っているように一言。
どこか自信ありげな表情で告げた。

「え? ああ、そうだよな……」
何て言うか、直で『味方だ』って言われたら反応に困る。
まあ、有り難いことには変わり無いんだけど。

でも何だか釈然としない。
てか結局の所、アルマロスの正体は何?
追求しようと考えたのだが、もう何かどうでも良いなー、と思ったので断念。

「じゃあ僕はこれで」

それにアルマロスは俺に言ったし……え?
もう帰るの? そもそもどうやって?

ミステリアスに口元を歪めるアルマロス。そして俺が言葉を返す暇も無く、彼は消えた。それはまるで空間に溶けるように。


「だからそれ、何の魔術だよ……」
彼の消えた空間に問い掛けるが、答えは帰ってこない。

彼と会ったのはこれで三回目だが、相変わらず謎。
アルマロスを一文字で表すのなら『謎』がピッタリじゃないのかって思うぐらい。
取り敢えず、その移動に便利そうな魔術を是非とも俺に伝授して欲しいものだ。

そんな凄そうな術式を組めるかどうかは別としてさ。

「にしても、また忠告……や、助言か」

ぽつりと呟く。彼の言葉の中にあった『彼女』と『脅威』。アルマロスが言ったのも相まってか、どうも嫌な予感がする。

『彼女』『脅威』『二度目の変革』など、回りくどい……というか、何かの意図(それも中々黒そうな)があって敢えて伏せている……そんな感じがしてさ。
しかし、何だこの色々渦巻く感じは。
はあ~もう。補習で一杯一杯なのに、面倒臭いことになりそうな気がする。
一瞬、頭に浮かんだ最悪の光景を掻き消し、俺は睡魔に身を委ねることにした。










暗い一室に二人の人がいた。
1人は人形のように整った顔をした金髪の女性。
もう1人は赤い髪をした少年。
赤い髪をした少年が口を開く。
「シャルロット様、本当によろしかったのですか?あの情報を特戦に無償で流して?」
「公的機関に貸しを作っておくのも時には大切よ。いくら、我々が強くても国家には敵わないのだから。まあ、我々を殲滅しようとするのなら大和も大打撃を受けるでしょうけどね……」
金髪の女性は苦笑を浮かべながら青い瞳を赤髪の少年に向ける。
「しかし、彼らもエリートなんでしょうが、愚かね。今の大和連邦が総力戦に耐えられると本気で考えているのなら。」

「考えているのでしょう。下手すれば40年前の大和独立戦争並みの大戦が勃発するかも知れないのに、火遊びを企んでいるのですから。まあ、島田改革が完成に成功し、人間にも市民権を完全に与えて、ベルカと同じ道を歩めば総力戦も可能だったのですが。」

赤髪の少年言葉にシャルロットと呼ばれた金髪の女性は頷く。
「そうね。しかし、一枚岩になれないと言う点では我々も同じ事、大和を笑えないわね。まあ、主の復活がなればそれが解消されると言う点では違うけど。」
金髪の女性は視線を遠くにやる。どこか懐かしそうに……
数秒後した後、金髪の女性はぽつりととても小さな声で呟く。
「薫様」と。
それに赤髪の少年は気づく事はなかった。

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