魔神と落ちこぼれの魔術師

モモ

初めての補習

まぁそんなこんなで、実習を始めとする波乱に満ちた一日は今日も終わりを告げた。

「あ、坂本」
鞄を手に取った所で、教室から出ようとしている茜さんに声を掛けられた。
「お前の補習はA組の教室でするからな。ったく、あのハゲめ。何でよりによって今日だけA組以外埋まってんだよ」

あのハゲ?

「ま、ハゲについては詮索するな。そんじゃ適当にA組で待ってろ」

俺の微妙な表情の変化に気付いたのか、茜さんは釘を刺すように言う。

「じゃあまたな」と言葉を残した後、長い茶髪を躍らせ、茜さんは廊下へと消えた。

「頑張れよ、翔護」
背中から親友の声が被せられる。
振り返ると、そこには陽平がいた。

「ま、翔護が補習に勤しんでいる時、オレはエミリアと九条と橘とちょっくら出掛けてきますわ」

「おい待て、こら」

 俺と陽平の一連の会話が聞こえたのだろう。一瞬でエミリアと会話していた九条と橘の表情が険しくなる。

「うっし、てな訳で行きましょうぜ」

 陽平は気付いていないようだ。ニコニコ笑顔でエミリア達の元へスキップしながら向かっている。

「もうこんな奴は無視して行きましょ」
もうこれは無駄だと判断したのだろう。九条がエミリアと橘を引き連れ、教室から出ていく。

「ってあれ!? 無視!? 無視ですか!? せめて何かリアクションしてくれても良いんじゃないの!?」

諦めろ、陽平。

「ちくしょー、こうなったら松川でも誘って帰るか。じゃあな、翔護。健闘を祈る」

 「あいよ」

俺と言葉を交わした後、陽平は松川の元へフラフラと歩いていく。

 陽平もいつの間に松川と仲良くなったのだろうか。
でも、良く考えれば陽平はそんなの関係ないかもしれない。

さてと。
「じゃあ俺はA組まで行ってきますか」
鞄を握り直し、教室を出る。


どこのクラスも帰りのHRはもう終わっているらしく、廊下では見知らぬ何人もの生徒とすれ違った。

D組からA組。中々これが微妙に遠い。別のクラスで補習するのならせめてC組かE組が良かったのに。

でもまぁ、愚痴っていれば時が流れるのはあっという間だった。A組が目に入る。
そして、ドアを開く。

A組はD組と何ら変わりない教室だった。残っている生徒もこの教室が補習に使われると聞いていたせいか、三人ぐらいしかいない。

またその三人は奇妙な三人だ。

一人は、竹刀でも入ってそうなバカ長い鞄を背負った、黒髪ポニーテール少女。

一人は、ネクタイは着けていなく、ブレザーとシャツのボタンを全開にした、かなり柄の悪そうな少年。

一人は、祭りの時にでも売ってそうな狐の仮面を顔にではなく、頭に着けた少年。

他の生徒とは違う、明らかに異色な雰囲気を放つ三人がそこにいた。

何だかなぁ……もう。

黒髪ポニーテール少女はともかく、他の男子二人は明らか校則違反だ。

特に柄が悪そうなあの人。
ツンツンの栗色頭に、何かもういざとなったらビームとか打てそうなぐらいきつい目がもうあれだ。

正直、関わりたくない……そもそも今からここが俺専用補習ゾーンになると知っているのだろうか?

取り敢えず適当な席にでも座って茜さんを待つとしよう。そう決心した時

「……」

不覚にも黒髪ポニーテール少女と目がバッチリ合ってしまった。何て言う感情性ゼロの藍色の瞳。

「おぉ? んだこいつ?」

そして九条に匹敵するようなポニーテールの和風美人の横に居座る、柄の悪い男が声を掛けてきた。

ああもう、勘弁してくれよ……

「えっと、この教室でもう直ぐ補習が始まるんだけど」
必殺愛想笑いを発動。
これで上手くやり過ごせる筈。

「はぁ! 俺はそんなの初耳だぞ? 総司は知ってたのかぁ?」

「知ってた。というか、お前が先生の話を聞いていないだけだ」

 総司と呼ばれた狐の仮面の少年は答える。少し癖がかった茶髪と深緑色の瞳の少年だ。

「はぁ~。まじかよ、じゃあ邪魔者はさっさと退散すべきか?」

いや、聞くまでもないだろ

「まぁ、上からのお仕事もあるし、今日は早く帰れってことなのかね」

「むやみにその言葉を口に出すな。より正確には口を謹め馬鹿者」

 面倒臭ぇと頭を掻く少年に、黒髪ポニーテール少女は鋭いナイフを刺すかのように言葉を放つ。

「わぁぉー、クールビューティ。相変わらず冷てぇ女だこと」

「斬るぞ」

「止めろ、二人とも」

 睨み合う二人の間に呆れた様子で言葉を挟んだのは、総司こと狐の仮面の少年。彼が唯一まともな感じだ。仮面以外は。
 次に彼は俺の方へ顔を向け、続ける。

「あんたは確か坂本・翔護だっけ? 俺は神崎・総司。そしてこのチンピラモドキは荒木・恭介で、そこの彼女は金沢・唯だ」

狐の仮面の少年、神崎の言葉で、荒木は「誰がチンピラモドキだゴラァ!」と神崎に突っ掛かる。

その横では金沢がうんざりしたような表情。仲が悪いのか良いのかイマイチ分からない三人だ。

「一応よろしくと言っておく。それじゃあ俺達はこれで帰らせてもらうよ」

 音も無く神崎は席を立つ。そんな神崎に合わせるかのように、金沢と若干不服気味だが荒木も席を立った。

「へ? ああ、またな」

 取り敢えず廊下へ向かう三人の背中に声を掛ける。すると神崎が振り向き
「またな……か、そうだな。次もまたここで会えると良いな」
苦しそうな表情で小さく呟いた。
だけどいまいち俺には意味がよく分からない。
まあ、人には人の事情があるんだろう。

しっかし、狐の仮面ねぇ……
何で着けてんだろ? すっごく気になる。
まぁ良いや。
神崎達も帰ったし、後は先生を待つだけだ。
うん、誰もいない放課後で他のクラスにいるなんて何となく嫌だ。

「はぁ。何と言うか、1人って虚しいな」

「何言ってんだ、坂本?」

声が出入口の方から聞こえたと思えば、そこに茜さんがいた。
ついでに独り言を聞かれたようだ。恥ずかしい……

「まぁ良いか。ほれ、教科書」

軽い声と共に手渡される教科書。
何、これ結構分厚いんですけど……

「早速始める……っと、その前にお前、魔具持ってんのか?」

「持ってませんけど」
というか、兄貴に相談すらしてないね。
やっぱり速めに相談した方が良いのかな。

「そっか。じゃあ冬哉の野郎にでも相談して出来るだけ早めに手に入れろよ? 強制はできねぇけど、あるに越したことは無いんだから」

冬哉の野郎……?
何で茜さんは兄貴の名前を知っているんだ? まさかとは思うが、知り合い?
「茜さんって兄貴と知り合いだったりするんですか?」
どうしても気になったので尋ねてみると
「まあな。つっても十年ぶりなんだけどよ。しっかし、あいつも変わってないもんなんだなぁ」
意外や意外。茜さんと兄貴は知り合いだったようだ。大和って案外狭いもんだねぇ。
「てか、あいつに弟がいたんだな。てっきり妹だけだと思っていたんだけど」

感慨深そうに茜さんは語る。
ついでに俺の存在感の低さが証明された。
何で雪菜のことは知ってて、俺のことは知らないんですか。
少し傷つきましたよ。

逸れに逸れた話を戻すとして、先程ふと疑問に思ったことがある。

「あの茜さん」
「何だ?」
「十年前って言ってましたけど、兄貴とはどこで初めて出会ったんですか?」

坂本宅は尾崎市に無い。
兄貴も就職先がたまたま尾崎市だったから故郷を離れて一人暮らしを始めただけで、元は故郷で一緒に住んでいた筈だ。

「どこって……道場だっけかぁ? 腕の立つ野郎がいるだとかで『そんじゃ挑戦すっか』みたいなノリで初めて会った気がするぞ。結果は聞くな」
最後の一言がかなり恐ろしく聞こえた気がするが、これじゃもっと謎だ。
道場にしても、実家から通うなんて無理。
車で十五~六時間かかる距離だもん。

いや、まさか。

「兄貴って昔はここに住んでいたんですか?」
「そうだけどお前は知らなかったのか?」

帰ってきた答えは予想外なものだった。
何だか動揺が隠せない。

家族が嘘をつく、いや、それ以前に昔から尾崎市に住んでいたなんて話は聞いた覚えは無いんだけど。

考え事に意識を向けていると
「さ、時間も限られてるし早速始めっか。教科書開け、教科書」
トン、と自身の教科書を教卓の上に置く茜さん。
よく考えれば結構雑談で時間を潰したような気がする。

「了解です。何ページですか? って、2ページですよね」
というか目次の欄が多過ぎて凄いことになってる。ホントに試験日まで間に合うのだろうか。

「何つーか、兄弟なのに全然似てねぇな。性格も仕草も顔も」
俺を眺めながら、茜さんはぽつりと呟く。
昔からよく言われます、はい。
兄貴に似てたらイケメンだったのにね。
ドンマイ、俺。そしてむなしくなってきた。

「ま。どうでもいいか。冬哉みたいな奴が生徒にいたら調子狂うし」
「ははは」
この人の中での兄貴はどんな人物なんだろうな。少なくとも好感的な人物ではなさそうだ。
苦笑していると、茜さんは一度咳ばらい。
「話が異様に逸れちまったな。よし今度こそ始めるぞ。最初にするのは魔具の分野からだ。教科書は最後の方、152ページ。目次から探せば早ぇぞ」

「あ。早速魔具の所からですね。結構範囲は広いんですか?」
「大丈夫だ二日で終わる」
「早……って、ホントに大丈夫なんですかそれ!?」
「だから二日早く補習を始めてんじゃねえかよ。それに坂本の頑張り次第でどうにでもなる。宿題は覚悟しておけ。プリント刷ってきてるからな」
バッと教科書に挟んでいる十枚以上はあるプリント群を俺に見せる茜さん。

受かるのか、これ?
家で勉強なんて出来ません、と断言可能な俺だぞ。
俺は肩を落とし、ため息をつくが、茜さんはそれを無視して話を進めてくる。
「坂本、魔具はどこで開発されたかは知っているか?」

「確か……ベルカ王国でしたよね。グノーシスの蛇に対抗するために」

グノーシスの蛇、旧魔術を使う犯罪者魔術師で構成されていた国際的な大犯罪組織だ。しかし、40年程前にベルカやラスィー共和国等が国際社会に呼び掛けて設立されたカラバにより壊滅(グノーシス紛争)に追い込まれた。

「まあ、簡単に言うとそうだな。まあ、この魔具の開発によって汎用性では勝りながらも、力で劣っていた新魔術が旧魔術に対抗する事が可能となり、魔人独立戦争で旧魔術はほぼ駆逐されていく事になるんだが、まあこれは別の分野だから今関係ない。とにかく魔具は、本来坂本の言う通りグノーシスの蛇に対抗するために生まれた物だ。」
難しい言葉が羅列されると思ってたけど、案外解りやすい。
「その結果、グレゴリオ歴1910年にはベルカで実用化。それ以降、魔具は進化を続け、その進化は3つに分けられるがそれが何か解るか?」
3つに分けられるってどう言う意味?
魔具は魔具じゃないの?

「解らないようだな。」
茜さんは頭をかきながら続ける。
「誕生したばかりがたなの第一世代でまあ魔術を起動させるための術式の展開を補助する。そして、魔人独立戦争前期には第2世代が開発された。第2世代では第1世代の機能に加えて、入力された術式を魔具が展開させる事が可能になった。これで衣や甲冑等の魔術行使を魔具が行ってくれるようになった訳だ。」

魔具による魔術の発動って最初出来なかったんだ……それがあるから魔具は実用化されていったと思っていたよ。
魔術を2つ同時に行使する事は結構難しい。例えるなら、片方でカードゲームしつつ、将棋を同時にやるような物。まあ、才能がある魔人は出来るらしいけどね。俺の兄貴とか……

「しかし、第2世代で性能が上昇した事で魔力の消費量等が増えて負担が増し、特に人間には使用が難しくなった結果、大和独立戦争末期にはサンクトベブルク条約機構軍が第三世代魔具を実用化された。これが今の主流タイプだな。で、これの特色はまあ第2世代から、さらに持ち主の負担を大幅に減らした事だ。魔力を蓄える事が出来る魔石等を魔具に取り込んだ結果、使用者の魔力消費を減らし、さらに整備性等も改善した。これが各国の主力兵器として配備されて行ったと言いたい所だが……」

へ。魔術師って主力じゃないの?
俺が内心疑問に思った事を茜さんは無視して進める。

「実際は魔導杖や小銃を装備した歩兵が主力だし、各国とも機械化を進めている。大和の次に魔人が住んでいるベルカ王国すら陸軍機械化構想を進めている。大和も試作戦車の開発に乗り出したし、魔術師が主力と言う時代は終わるかもな。まあ、大和やベルカは第4世代魔具の開発にも乗り出してもいたりもするんだが、これらは余談だ。試験にも出ないしな。これらは覚える必要はないし、あまり外で言うなよ。主義者に聞かれると面倒だからな。」

茜さんって実は軍オタなのだろうか。やけに詳しいけど……







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