魔神と落ちこぼれの魔術師

モモ

調理実習?

今日で入学してから一週間。
本当に色々あった一週間だった。

ちなみにアルマロスはあの日の事件以来、全く俺の前に現れていない。
忙しいのかな、彼も。

そんなことはさておき

「はぁ~あ」

俺は今、学園の理科室にいる。
正確には、実験用の四角い机を挟むように右側と左側に三つずつ並べられた椅子の一つに座っていた。
そして、今は入学初の実習中。


魔術学校の実習と言えば様々な種類があるんだけど、今回は物理寄りの実習だ。
体育系寄りじゃなくて良かったよ、本当。
大和トップクラスのエリート相手にバトルとかやってらんないから。

「翔君。確かマンドラゴラは前に置いてあるんだっけ?」
「さ、さあ?」
実習は六人一班で行われる。
そこで同じ班のエミリアが尋ねてきたのだが、俺は先生の説明を右から左に聞き流していたため、こんな適当な返答になってしまった。
というか、逆にマンドラゴラって何ですか? って俺が尋ねたい。

「マンドラゴラは前に置いてあるって先生が言ってたわよ、シュターデさん。あと坂本君は多分マンドラゴラ自体何か知らない程の馬鹿だと思うから聞くだけ無駄よ」
きついお言葉をどうもありがとうございます、委員長様。

「いや~、まさか先生がクジで適当に選ぶだなんて予想外だったよ、まったく」
「説明臭い台詞ね」
「ああもう何ですか! 何で委員長様が一緒の班なんだよ畜生!」
俺は頭を抱えて必死に九条にアピールしたのだが、憎き委員長様は華麗に無視。
「陽平は? 松川は? 橘は? 何で優しいお方じゃなくて、きつい九条なんですか! 教えて委員長様!」

次は魂の叫びを彼女に伝えよう、と試みたんだけどこれも無視された。
俺達以外の三人の班員が哀れみに満ちた目で俺を見ているのがとてつもなく心に響く。

「何だか、香恋さんと話す翔君って楽しそう。夫婦漫才? っていうのかな」
前の先生が使う机からマンドラゴラと言う名の変ななすを持って来たエミリアが微笑を浮かべながら爆弾を投下した。

 夫婦……だと!?


俺もそこそこ動揺したのだが、我が一年D組のクラス委員長様の動揺の度合いがとても凄かった。


 「なっ、ななな何を言ってるの、シュターデさん? 私はそんなつもりなんて微塵にも……! それに結婚だなんて、歳は大丈夫でも色々駄目でしょ!」
委員長、そんな問題じゃないと思うんだけど


「って言うか、何であなたはそんな可哀相な物を見る目で私を見てるのかしら? えぇい、見るな!」

 「あー、平和平和」

 「何よその顔はーっ!」
と、九条は絶叫。取り敢えず無視返しの方向で実のプリントに目を通してみよう。
『今回作製するのは魔力安定剤です。材料は……下の表に書かれている薬品と最新の魔術で品種改良に成功したマンドラゴラ』

 何でもマンドラゴラは学園で栽培されたものを使っているだとか。
言うならばゲテモノ薬草シリーズ第一弾ですね。

 ちなみに魔力安定剤というのは、簡単に言えば魔力の流れに乱れが生じた時にそれを正常な流れに戻すための薬……とプリントにある。
魔力暴走の鎮静剤っていう意味かな?
明らかに俺には無関係そうだけど

まあ、そんなどうでもいい推測はどっかに置いておくとしよう

「よし、作ろう」

先生は忘れ物をしたらしく、どこかに消えた。
後で使えるか見るから勝手に作ってろ、と本当に教師なのかを疑いたくなるような言葉を残して

大丈夫だ、手順は至って簡単。マンドラゴラを細かくすりおろし、机に置かれた変な薬品を混ぜるだけと自分に言いきかせる。

これをいかにしてすりおろすかは全く以って不明なのだが、まぁ適当に魔術でも使えばどうとでもなるだろう。
俺がすることと言えば一つしかない。
「頑張れ皆。」
必殺、他力本願。
「シュターデさん、この馬鹿焼いて良いかしら?」

「さあ。まずはマンドラゴラをすりおろさなくちゃな。よっし、何かその手の魔術使える人いませんか?」
予定変更。
仕方があるまい。炎片手に脅されたら従うしかないのだから。

「てか、俺があまり魔術使えないって知っての狼藉ですか、九条さん」

「え? それぐらいあなたもできるでしょ?」

「……」
これが価値観の違いというやつですか……
悲しいの一言に尽きる
幸い、俺達の班にその手の魔術(料理にでも応用できそうな気がするけど)が得意な人がいたらしく、その人がマンドラゴラを魔術を用いて細かくしてくれた。

 皮だとか茎など要らない部分を見えない刃で切られていき、見る見る内にスマートな姿になっていく様は見ていて少し面白かった。

 後はまぁあれだ。先生が用意してくれていた皿の上で徐々に削られて小さくなっていった残骸を下に落としていくだけ。
「なあエミリア」
「ん? 何、翔君?」

「これ、調理実習って突っ込もうとしている俺がいるんだけど」

「気にしちゃ駄目。あたしもちょっと思ったけどね。それより翔君、ひょっとして今日暇?」

「ん? ……暇かな、多分」
何故に実習中にそれを聞くのだろう?
まあ良いや、暇なことに変わりは無いんだし。
ん、待てよ? もしかしてもしかするとこれはデートのお誘いだったりするのでは?

……

「よっしゃぁぁ!!」

「うるさい! 何、突拍子もなく発狂してんのよあなたは! それに朝倉先生が坂本君だけ二日早く今日から補習が始まるって言ってたわよね?」
「あ」
九条の言葉で我に帰る俺。
確か、今朝そんなこと聞いたような……

不意に頭に流れたのは、今朝のHRでの茜さんとの会話。


「あー、坂本だけ今日から特別に補習な」

「はい?」

「ほら、三級からは魔具に関する分野が増えんだよ。D組の皆はもう三級で受かってっから、魔具の分野は免除になってんだ。」

「え……マジですか?」

 「マジだ」

 ……

思い出した。思い出してしまったよ。
何だってこんなタイミングに思い出すんだ俺?


「取り敢えずそういうことだから残念ね。用事なら私が付き合うわよ、シュターデさん」

「本当に? ありがとう! ちょっと帰りに寄ってもらいたい所があるの」
何? いつの間にそんなに仲良くなってんの君達? と言うか俺は無視ですか!
もう良いです、今は早く魔力安定剤とやらを完成させよう。




「えっと……これで完成?」

『補習』という重たいワードを引きずりつつも、魔力安定剤はものの数分で完成。

「そうだね。飲めるかは不安だけど」

「混ぜた瞬間に爆発とかいうオチが無かっただけマシだったんだ。今は無事に作り終えたことに喜ぼう」

寧ろ飲まないといけないような機会がくること自体が不安なんだけどな、俺の場合は。
とにかく、後は先生に見せるだけ。でも肝心の先生は一体どこで何をしているんだか全く帰ってこない。

九条は大変真面目なことに、魔力安定剤の入った試験管以外の実習に使った器具を洗ってる、と言うかあの変な薬品を水道に流して大丈夫なのだろうか?とても疑問だ。
でエミリアは九条の手伝い。そして、ついさっき洗い終えたようだ。そして、何故か委員長様が俺を睨んでます。
俺、まだ何もしていないはずなんだが……まあ、良い。

「翔護の班は完成したのかよ……」

 よし、いつも通り土下座だ、と椅子から腰を上げた所で、聞き慣れた親友の声が耳に入った。

「翔護の班はってどういう意味……あっ、まさか」
振り返った時に気付いた。声の主である陽平の顔が少しやつれていることに。ついでに言うなら少し焦げ臭いことを。

「そのまさか。いやー、流石に爆発だなんて予想外だったな。まぁ、混ぜた途端に煙が出た時からちょっとやばいなと思ってたんだけどさぁ!」
半泣き状態で俺の両肩に手を置き、激しくゆする陽平。

「何を間違えたんだよ?」
両肩に置かれた手を払い、陽平に尋ねる。

「それが全然分からないんだよな。ちくしょう、今時爆発とか珍しいだろ……」

暫くそんな感じの愚痴を聞かされる。

陽平の愚痴を耳に入れながら、早く先生帰って来ないのかな、と完全に忘れ物を言い訳にして脱走したと思われる先生に呆れていると、エミリアが声を上げた。

「あ。先生来たよ、皆」

 「先生ぇー!!」

 扉の向こうから中年の男が現れた瞬間、陽平がその男の元へ駆けていく。

「お? 何だ渡瀬……あぁ」

学園でも有名な怠慢教師なのに何でよりによって魔術薬学を受け持っているのか不明な男教師、相沢先生。

妙に似合う白衣に半開きの藍色の瞳。黒髪は比較的短めだが、寝癖でボサボサ。

そしてこの先生には色々噂がある。放課後、実習室に閉じこもって変な薬を作ってるとか。

「やっぱり一班は爆発したか。いやー、試しにちょっと違う薬を混ぜてた甲斐があったモンだ」

「おい!」

「ま、冗談だ冗談。そんなに睨むんじゃない、渡瀬」

 ハッハッハ、と豪快に笑う相沢先生。
爆発を笑い事として処理して大丈夫なのだろうか。

まあ、そんなことは気にしせず、委員長よ、早速頼みます。

「先生。私達の班は『無事』に完成したんで見て頂けないでしょうか?」
俺の念が通じたのか、九条は試験管片手に『無事』を強調する。

相沢先生は怠そうに九条から試験管を受け取り
「お? ……ああ別に大丈夫なんじゃねーの? うん、問題ない問題ない」
 一秒にも満たないぐらいの速さでチェックは終了した。「ほい」と怠そうに試験管を返してくる。

……

委員長、ここはどうか俺に言わせてほしい。

「適当ですよね? 不安なんでちゃんと見てください」

 くそ、委員長に先を越された!

 「あぁ? 大丈夫だっての。色は薄い青だし、変な臭いも特にしない。てか渡瀬の班でも無い限り、毒薬は完成しねーよ」

 「そうなんですか……?」

「待て九条。突っ込むべき所を華麗にスルーするんじゃない」

陽平に代わり、代弁する俺。
 
「スルーするーんじゃない……ね。ぷっ、くくっ……何駄洒落かましてんのよ」

 爆発と毒を兼ね備えた薬品だなんて何作らせようと企らんでんだ……って、えぇ!?
何、必死に笑いを堪えてんの委員長様?

『スルー』『するーん』が駄洒落になってんのは分かるけど、そこまでうける物なのか……?

委員長様の笑いの基準が解らん……

取り敢えず5分くらいで先生の点検は終了。
一応、九条の意味不明なツボにはこれ以上触れないでおいた。全身火傷だなんて御免だからね。


「つー訳でレポート提出な。黒板に書くからそれ写してけ。感想は……まぁ、良い思い出になったろ」

実習の手順等が書かれている黒板の前に立った相沢先生が、もう何か帰って良いですかと言わんばかりにミミズみたいな字を黒板に書き殴っていく。

「あ。来週までに出さねーと赤点だからなー。いちいち補習すんのも面倒だから全員提出しろや」
この人、雰囲気が茜さんに似てるけど根本的に違う所が一つあるな。

「先生」
パッと手を挙げたのは、我等がクラス委員長、九条香恋。
「んだ九条?」

「あの……完成した魔力安定剤ですが、その処理はどうすれば良いんですか?」

「あー。今から専用の入れ物を配るから、適当に分けて個々に持って帰れ。ドリンク感覚で飲んでも良し、帰り道のドブに捨てても良い。何なら教頭が育ててる花にやってきても良いぞ」
ほい、と軽く下投げで六人分の瓶を投げてくる相沢先生。サイズは市販の錠剤の瓶の容器ほど。一応新品のようだ。
瓶だし割れたらどうすんだ、と冷や冷やしたが、無事に全員に配り終えたらしい。
先生が説明を再開する。

「まぁ、魔力安定剤は魔力の乱れ、つまり魔力暴走を沈静させる役割を持つけど、普通に飲んでも特に何も無い。……ん、眠たくなるんだっけか?」
ぼさぼさの黒い短髪を掻きつつ、相沢先生は思い出すように言葉を紡ぐ。

何か物凄く不安だ。飲んだら10分ぐらい痺れて動けませんよ、とかいう薬だったらどうしようかな。
もしものことに少し不安を感じながら、先程投げ渡された容器に試験管から魔力安定剤を移す。
 綺麗に六等分できた所で相沢先生は口を開き、説明を再開した。

「あ。どうでも良い余談だけどよぉ、その気になれば暗示効果を持つ術式の併用とかで『惚れ薬』も作れる。んで、それを応用すれば『何でも言うことを聞く薬』も一応作製可能だ。どうだ、男子ども。夢があるだろ?」

何、その男の浪漫……じゃなくて、作れんのかい!
是非とも作り方を教えて欲しい物です。
「だが、魔人等魔術適性が高い者には残念ながら効果はないんだけどな。」
おい、それじゃほぼ意味ないじゃん。
俺を含む大半の男子は心の中でそう呟いたに違いない。



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