魔神と落ちこぼれの魔術師

モモ

初日の授業がやっと終わりました。

魔術基礎の次においでなさった公民もつい先程終了。
今まで打って変わり、心地好さすら感じるチャイムが教室に鳴り響く。
苦痛満ちた四連撃。それがたった今、やっと終わりを告げたのだ。

「何なんですか、今日という一日は!?」
開放感のあまり、俺は思わず叫んでしまった。

「翔護、お前の身に何があったんだ!?」
約三時間もの惰眠を貪り、見事復活を遂げた陽平がこっちに近付きながら、驚いた様子を見せた。

「一時間目は悲惨な測定結果。二時間目は強制的に副委員長。三時間目と四時間目は全く理解できない授業に、先生からの質問責め!」
よく授業一回目から寝れるなと思いつつ、俺はこれまでのことを大雑把に説明した。

「確かそうだったよね。授業初日からドンマイ」
苦笑するエミリア。そう言えば、授業中に俺が当てられる度に、彼女は同情心が宿った目で俺を見ていた気がする。

「でもさ、翔護。授業一回目からこんな状態だったら、これからはもっと大変だと思うぞ。早いとこ慣れなくちゃなー」

 「ぐっ! でも俺の元々の頭脳は、こんな所に入学できるようなもんじゃなかったんです!」

今思えば無謀だったよね、俺の推薦入学。今さらもう遅いけど。



俺の愚痴を陽平とエミリアに聞いてもらうこと数分。
最早、自己嫌悪にまで陥っていると、松平先生と茜さんが教室に入って来た。
「あー、早く終わりてぇからさっさと席着け。結構連絡事項があっから」

その連絡事項が俺にとって悪いことにならないよう、切に祈ります。
これ以上の不幸はもうお断りしたいです。

「ありゃ、もう来ちまったのか先生ら。じゃ、そういう訳で俺はずらかりますか。じゃあなエミリア……んで翔護」
「俺はついでかよ!」
「ま、まあまあ……」
エミリアに宥められ、陽平の遠ざかる背中から視線を外す。
まあ良いか。疲れてんだよ、俺は。
 
「じゃあ号令だな。ほれ、新委員長」
クラスの皆が席に着いた所で、茜さんは今日づけで新委員長となった九条に言った。
「……起立、礼、着席」

号令が終わった所で、茜サンは口を開いた。
「さっき言った通り、連絡事項がこれまた沢山ある。プリントともにな」


そこで一旦区切り、茜さんは出入口の近くに佇んでいる松平先生に「プリント、お願いします」と声を掛けた。

「はい」
赤い目を細めた松平先生は右手に持っている、教科書サイズの手帳を開く。
 真ん中のページ辺りに挟まれていたのはプリントの束だった。見たところ、一種類だとか二種類ではない。

とりあえず、前から回されたプリントの中から一枚抜き後ろに回す。
そんなローテーションを4回繰り返したところで、松川先生が喋り始めた。

「まずは、魔術師の検定試験についての要項を見てください。五級から一級までありますが、皆さんが受けるのはおそらく二級でしょう」
 一応、指定されたプリントに目を通してみた。どうやら松平先生の言うように、魔術師検定の要項とやらだ。
下から五級、四級、三級、準二級、二級、準一級、一級。皆が受けるのは二級だってさ。
俺は三級を受けますけどね。

「申し込みの用紙は朝倉先生か僕に言ってくれれば渡しますので、来週までにお願いします」

そこで茜さんが言葉を挟む。
「あー、補習は来週から始めるからな。まぁ、それを受けるかどうかは自由だけど、受けといた方が良いぞ」
その補習が三級を受けるつもりの俺に適用されるか不明だが、これは非常に心強い。
というか、俺の他に三級を受ける人は最低一人ぐらいはいてほしいね。
受けるの俺一人って寂しいじゃん。

「では、次のプリントですが……」
次に目を通せと言われたプリントは、口座振込みのことについて。まとめると、いかにも保護者に見せましょうっていうプリントだった。
三枚目も四枚目もそんな感じ。話はあまり聞いてないけど、兄貴に見せれば済む話だろう。

プリントの説明が全て終わった後、茜さんが九条に号令を促し、九条は号令。これにて、本日の帰りのHRは終わりとなった。

 早速、帰りの用意を済ませ、エミリアに話し掛ける。
「エミリア、茜さんに魔術師検定の申込用紙を貰いに行かないか? 俺は受けるつもりなんだよ」
「そうだね。陽平君も誘って行こっか」


 残念ながら茜さんと松平先生はもう教室にはいない。今は職員室にいるのだろうが、まずは陽平の元に向かおうとした時
「おー、早く帰ろうぜ、エミリアに翔護」
何と言うか、手間が省けた。
早速陽平を誘ってみる。

「おう。でもその前に、茜さんに魔術師検定の申込用紙を貰いに行きたいんだけど」
「おおっ、となると翔護も受けるのか。 で何級?」

食いつきが凄いけど、これまた難儀な質問を……
俺は恥ずかしいのに!
「さ、三級」
なので、ボソッと呟くように答えた。
詮索は本当勘弁してください。
「え? 今何つった?」

 ……

何か見覚えが……
ああ、自己紹介の時と同じですね。







とにかく俺達は教室出て職員室に向かうことにした。
まあ、あの後もう一度言って気まずい雰囲気になったのだが、気にしない。
気にしたら負けです。
まあ、何と戦っているんだと言う話なるんだが

「にしても広いよなぁ、この学園の校舎。どんだけ橘財閥は投資したんだ、つー話だよなぁ。こりゃ絶対裏があるな、うん」

陽平が楽しそうに言葉を漏らす。
と言うか変な推理までしてる。まあ、入学初日俺もそれ思ったけど
で、陽平は何かを期待しているような表情で俺を待ってる。

一時すると
「突っ込めよ! エミリアも翔護も二人揃ってスルーは無いだろ!」
陽平が半泣きで叫び始めた。
陽平よ。俺は突っ込みに必要な頭の回転の速さを持っていないのだよ。

「エミリア、スルーだ。陽平は今、迷探偵モードに覚醒しているだけだ。突っ込む余地が無い」
「そうだね。何かもう意味不明過ぎるし。頑張れ、陽平君」
「え? マジで? マジでスルーすんの? ちょっと、ねぇ!? 急に歩くのが速くなってますけども!」
「あーあー、聞こえなーい」
ドタドタと急ぎ足でついて来た陽平は何かを訴えているが、華麗にスルーした。


とまあ、そのまま歩き続け、教室棟と職員棟を繋ぐ渡り廊下へ。
校庭を一望できる渡り廊下を抜けると、職員室は直ぐそこだ。

「えー、じゃあ入るか?」
何と職員室は教室二個分の大きさを誇っているみたいだ。そんな訳だから出入りが四つもある。
「何だか初めて職員室に入るのって緊張するよね」
「だよなぁ……」

「そっかぁ? 俺は別に緊張とかはしないんだけど。じゃあ俺が特攻しますわ。この陽平さんにお任せなさい」
陽平は自身ありげに自分の胸を軽く叩いた後、近くの扉を一気に開ける。

「失礼しまーす」
あからさまに軽い調子で職員室に入っていった。
「逆に見習いたくなるよな、ああゆう積極性」
苦笑を浮かべいるエミリアに声を掛けた後、俺達は陽平に続くことにした。

意外にも職員室はどこの学校にでもありそうな、普通にありふれた所だった。
各先生ごとの事務用の机がほとんどのスペースを占領しており、通れる道も狭いし少ない。
きちんと整理された机がほとんどだけど、中には食いかけの菓子とかパンが散乱している机があったりする。

「さて、どこだ陽平?」

「あ、あれかな。朝倉先生の机の場所に行ってるみたいだけど」
名門校とは言え、あまり変わらない職員室に期待を裏切られた気分に浸っていると、エミリアが職員室をグイグイ進む陽平を発見した。

 陽平の目指す先には、椅子に座って何故か本と睨めっこしている我等が担任。
「お、茜さんもいるな。けど何読んでんだろ?」
「魔術書?」
うぉ、意外に勉強熱心な先生! と咄嗟に叫びそうになったが、ここは押さえて茜さんのもとへ。

「何か用か、え~……誰だっけ?」
「渡瀬っすよ、渡瀬・陽平。 魔術師検定の申込用紙を貰いに来たんすよ!」
「つーことは、後ろにいる坂本とシュターデもか。何でこんなに行動が早いんだよ、お前ら」

首を縦に振った俺達に、茜さんは「はぁ~」と半ば呆れた様子で声を漏らす。
そんな面倒臭そうな素振りを見せながらも、机の引き出しから申込用紙を取り出している姿はさっすが大人と言った所だ。
よし、ついでに三級の補習もしてくれるか聞いてみよう。
 初っ端から担任に迷惑をかけすぎな気がするけど、分からなくて困るのは俺だ。


「あの……三級の補しゅ」

「ところで何の魔術書を読んでいたんですか?朝倉先生」

「ああ、これか。でもこれはお前らの言う魔術書じゃないんだよな」
俺の言葉が遮られた! 
でも茜さんが読んでた本が気になる

「まぁ、結論からしたら似たようなもんだけど、これは対魔術用の指南書だ。」
それぞれ三枚の申込用紙と書き方の例やらが印刷された紙を俺達に渡しつつ、茜さんは続ける。

「簡単に言えば、魔術の手順が書かれたものじゃなくて、その魔術の対策と解除法だな。かつて、魔術が使えない人間が魔術師に対抗するためのな。まあ、ベルカが魔具作ってベルカ式が出来ればこれも廃れたんだが」
「朝倉先生は魔人であり、そして魔術師ですよね?」
 首を傾げ、茜さんに問うエミリア。
 俺も疑問に思った。茜さんは紛れも無く魔術師の筈なのに、対魔術用の本を読む必要があるのだろうか?
そして、ベルカ式で何ですか?多分、習った覚えがないんですが……
「いつも万全な状態で魔術を扱える訳じゃないからな。まあ、俺がそこまでなる事はないだろうが……」
そう言い終えた後、茜さんはニカッと口元を歪める。これは慢心なんかじゃない。
だって、強者のオーラあふれだしているんだもん。

「で、用はこんだけか?」

「あ、三級の補習ってしてくれたりします?」

「三級ぅ?」
俺の言葉に、茜さんは顔をしかめる。

「そ、そうです。俺まだ五級なんで」

「あ~、そう言えばそんなヤツがいるって話、どっかで聞いたような……それが坂本だったのか」

「はは……まあそういうことです」

恥ずかしながら、苦笑せざるをえない。
さて、結局補習はしてくれるのだろうか。激しく不安だ

「えっと、大丈夫ですか? その補習は」
 恐る恐る尋ねてみた。
「別に構わねぇよ。お前以外に三級の補習を受けるやつはいると思うし。……多分一人ぐらいなら」
一人ぐらいなら……?
まあ、一人ぐらいはいてほしいと思ったけど、まさか本当に一人しかいないの!?
しかも多分って事は確率低いんだろうな……
現実はなんて厳しいんだ

絶望に直面しつつある俺に茜さんは留めを刺すように言った。
「まあでも、D組に坂本以外の四級以下のヤツはいないけどな。頑張れ、ハハッ」

「はははは……」
それ実質、俺一人ってことじゃん。

「朝倉先生」
 陽平とエミリアに挟まれて一人落胆していると、後ろから声が聞こえた。
俺は背後に振り返った。

「坂本君かい?」
いたのは松川だった。銀色の前髪の間から見える黒色の瞳と目が合う。

「おう、えっと昨日ぶり?」

「ああ、そうだね」

例えどんなに変な挨拶だろうが笑顔で応じてくれる松川。
相変わらず紳士ですね。

「まさか松川もか?」
挨拶を交わした直後、聞こえたのは陽平のフレンドリーボイス。
確か初対面だよね。

「となると、君達も貰いに来たんだね。じゃあ僕もお願いします、先生」
松川は特に気にせず返し、茜さんに言う。

「はいはい、松川もね。ったく、俺のクラスはせっかちなヤツばかりなのか?」
何かもう疲労感に満ち溢れているような素振りで、茜さんは紙を取り出……

「先生、魔術師検定の申込用紙が欲しいので貰えますか……って!」
 新たに後ろから現れたのは、委員長である九条と橘。

「なるほど。よっぽど先生をイジメたいんだな、お前らは……」

何か同情します、茜さん……








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