魔神と落ちこぼれの魔術師

モモ

学校初日から不幸なのですが

「はぁ~」

アルマロスのことを兄貴に相談しても相手すらしてくれなかった。
更に今日は一時間目から身体検査。

魔術学校の身体検査は身長だとか体重の他に、魔力量の最大値と術式構築能力の測定をする。

結果は死にたいと言うレベル。魔力量は問題ないが、術式構築能力は死んだ方が良いレベルだった。
本当、良くこの学校から推薦来たよね。
実は何か陰謀が働いているのではと本気で思えてくる。

で、今は休み時間。あと5分弱でやってくる。
「次って、クラス委員を決めるんだよね。翔君は何にするの?」
隣席のエミリアが話かけてくる。

「んー、今の所はまだ決めてないな。強いて言うなら楽なのが良い」
意外と副委員長あたりが暇だったりするんだよね。委員長が優秀な人間である場合だけど。
逆に図書委員とか体育委員は絶対に勘弁。ただでさえ忙しい学園生活をより忙しくする訳にはいかない。

ちなみに陽平は机の上で爆睡中。教室に帰ってきた途端に爆睡モードに移行した。

何でも「一人暮らしだぜヒャッフゥ!」と昨晩調子に乗って徹夜で十数名の男子生徒を集め、AVの上映会に熱中した結果らしい。テレビやディスクは高級品なのだが、その男子生徒に金持ちが数人いて、クリアしたらしい。
陽平の企画能力と行動力には感心してしまう。案外、委員長とか向いているんじゃないか?

まあ、そんなどうでも良い話は横において話を戻そう。

「楽なのかぁ……あたし的には掲示委員かな。ポスターとか紙を壁に貼るだけと思うし」
「なるほど」
そういや、中学の時にも似たような係があったような気がする。俺は今までそんな係になった経験は無いけど、間違いなく楽な係の部類に入るだろう。
でもエミリア、俺が思うにその係は競争率の高さが半端ないぞ。

ともかく俺は何にしようか。早い内にこれだ! って決めておかないと最悪な事態を招き兼ねないし。

ただ、あと一分で二時間目が始まるというのに全く決まってない時点でそこそこやばい……

「おー。ベタな台詞だけど、さっさと座れよ、お前ら」

チャイムが鳴ったと同時に現れたのは、長い茶髪を揺らす我らが担任(副担の松平先生は一緒ではないようだ)。
 嘘だろ。時間ピッタリに登場だなんて……
そしてクラスメイトの切替も早い。ものの数秒で全員席に着いてる。
まあ、寝てるのが一名いるけどね。

「んじゃ、始めっか。号令は日直がやれ」

「……起立。礼。着席」
茜さんに促され、日直の人が号令した。



「じゃあ今朝言った通り、今から係を決める。覚悟は良いか?」
一体何を覚悟をしなければならないのかは不明だが、係を決めるのは確かなようだ。

「早速だけど、まずは委員長だな。ほら、なりたい奴挙手」
とりあえず適当にと言わんばかりに面倒臭そうに言葉を紡ぐ茜さん。

私は委員長になりたいです、って言う人自体いるのだろうか?
そんな人はそういないだろう……と思っていたら
「なりたいです」
いましたよ。
誰一人、手を挙げようとしないどころか、茜さんから目を逸らしている人もいる中、彼女は凛とただ一人右手を挙げていた。
彼女の髪は真紅。瞳は黒。
名前は、九条・香恋。
昨日コンビニで出会った二人の少女の一人だ。
性格が結構きついけどね。
俺を含むクラスメイト達は一斉に彼女へ視線を送っている。

で、我らが担任はというと
「おっ、やるな九条。罰ゲーム感覚で決める予定だったんだけど、結果オーライだ」
勝手にウンウンと頷き、黒板に『委員長……九条』とチョークを走らせていく。意外に達筆だ。

あれ?
こんな軽い感じで決まる物なの?

「じゃあ次は副委員長か。はい、なりたい奴さっさと挙手」
今度こそ誰も手を挙げる人はいない。
当初、俺は副委員長にでもなろうかと遊び半分で思ってたんだけど、九条が委員長になったため断念。
彼女と一緒なんて無理だ。命と心がいくつあっても足りない。

 まあ、他の誰かが立候補するでしょう、むしろしてくれ。

「と見せ掛けて、副委員長は九条が推薦して良いぞ。どうせなりたい奴なんていないんだから」
それ、何と言う罰ゲーム?
でもそれは無理な話だと思いますよ、茜さん。ほとんど初対面の人ばかりなんだし。
 ん? 
ちょっと待て。
よく思えば、俺と九条はもう初対面じゃないんだっけ。

うわー、嫌な予感がする。
いや、気のせいですよね?
うん! きっとそうだ!

「じゃあ坂本君でお願いします」
なんだと!!
九条の声が耳に入った瞬間、俺は顔面を机の上でぶつける!
痛みはある。
と言う事は……
ゆ、夢じゃない……
もし、これが夢だったらどんなに嬉しかったことか。


「そういう訳だ、頑張れ坂本。ちなみに面倒臭いから拒否権はねぇぞ」
押し付けるように俺に言った後、茜さんは再び黒板にチョークを走らせる。
「いやっ、あのっ、ちょっと……!」
反論したいけど反論できない、と葛藤している内に黒板に俺の名前が。
まさかこんなものの数十秒で決まるなんて逆に清々しい。

「ドンマイ、翔君」
魅惑の微笑みを浮かべているエミリア。
なるほど、これはもうネタなのか。

少しずつ沸き上がる怒りと虚しさを抱き、九条の方へ顔を向ける。

彼女は笑っていた。それも当初の第一印象から掛け離れた、してやったりという勝ち誇ったような部類の笑顔を。

ゆ、許さん……。
後でシバく。絶対シバいてやる。

そう静かに決意している内に係決めは大分進んだようで、皆は教室のあちこちで係別に集まっていった。

そう静かに決意している内に係決めは終了したようで、皆は教室のあちこちで係別に集まっている。
見たところ、俺を除く学級委員の面子は九条の机の周りに集まっている模様。

その数、二人……ってあれ?
学級委員は、委員長と副委員長と書記と会計の四人じゃなかったけ?

もしかして……
『書記……渡瀬』
あらら。
寝てる間に勝手に決められてるよ、陽平

それに書記とはまた面倒臭いやつを……

よし。まず、陽平を回収して九条らの元に向かおう。

「陽平、起きて現実を知ろう」
陽平の所まで向かい、机に突っ伏している彼の肩を揺する。
暫く揺すり続けると、陽平はパチッと目を開かせた。そして彼は機械的な動きで体を起こす。

「おはよう、翔護」
「うん、おはよう。んで、早速だけど黒板を見てみようか」


「ふぇ?」と気の抜けた声を出し、陽平は黒板を凝視する。そして三秒ぐらい経ったところで、彼は大きく目を見開いた。
「はぁぁぁ!?」
開かれた口から放たれる絶叫。気持ちは分からなくはない。俺も似たようなものだ。
だけど、ここは同情している場合じゃない。
早く委員長様の元に向かわないと、あのお方がお怒りになる。

「大丈夫か陽平?」

「大丈夫じゃねぇよ、ちくしょうー。寝てる間に決まるなんて前代未聞だぞ」
不幸オーラ全開の陽平に軽く説明した後、彼と共に九条の机へ。
文句は新委員長にぶつけようと心に誓う。



「あ、やっと来たのね」
鬱憤を溜めに溜めた俺達が九条の元へと足を運ぶやいなや、彼女は少し不満げに述べた。

「やっとじゃないです、新委員長!」
真っ先にカウンターを浴びせ、俺は九条の横に立っている少女へと視線を動かした。
「あ……」
そこにいたのは橘・舞。九条の親友である

そんな彼女の学級委員としての役職は会計。まさしくイメージ通りと言った感じだ。

「何で俺は勝手に書記ってことになってんだよ!」
橘さんに目を向けている俺を余所に陽平は九条に攻撃を開始する。

だが、次に九条の口から飛び出た「あなたが寝てたんでしょ? だったら自業自得じゃない」という全くもって正論としか言い様がない言葉に陽平は黙り込んでしまった。
陽平よ、後は任せろ。

「俺も異議があるのです、委員長」

「大体何が言いたいかわかるから、そのふざけた喋り方は止めて。わざとでしょ、それ」
くっ
これまた口達者なお嬢様だ……
早くも陽平の二の舞にされそうだよ。

「えっとですね……はい、あなたはわたくしに何故副委員長を推せ……」
「聞いてんの? 人の話」
……
強敵です

「えっと、単刀直入に言わせてもらうとですね、何で俺を副委員長に推薦したんですか恨みでもあるんですかこんちくしょー!」

俺の少ない語彙で思い付くだけの文句と不満を一気に吐露する。

「……そうね。何かむかつくから。これで良い?」
「良い訳ないだろ!」
「別に良いじゃない、先生からの評価が高くなるから。一石二鳥よ、一石二鳥」
言っちゃった! この人、口に出してはいけない事実を言っちゃったよ!

「はぁ~」
まずはクールダウン。

「文句はそれだけかしら? あ。言っとくけど、さぼったりしたら許さないんだからね」
副委員長をさぼる手段は是非とも尋ねたいが、口走った瞬間に消し炭にされる可能性があるからできない。
しばく?ドンパチやっても普通に勝ち目ないから。
どう考えても負ける未来しか見えないから。

「文句を言われるのは覚悟の上だけど、質問します。俺達は何のために集まったんだ?」

 次の瞬間、九条のこめかみがぴくっと動いた。
「あのねぇ……あなた、人の話どころか先生の話すら聞いてなかったの?」
委員長様は顔を俯かせ、肩を震わせながら、一息つく。
「各委員のメンバーの顔合わせと個々の役割の確認と決定! 私達は何をするか先に決まってるから確認と顔合わせで良いの!」
そして、教室全体に響くような大声で叫びましたよ、委員長様は。
そして、彼女周りにいくつもののテニスボール規模の小爆発が起きている。

こ、これは非常にマズいのでは……
取り敢えず機嫌を直してもらえるよう、説得を試みよう。
「あの、九条さん? 魔術の使用は校則に違反しているので止めた方が……やっぱり何でもございません申し訳ありませんでしたぁ!」
全身全霊をかけ、土下座。
死ぬ、本当に死ぬ!
入学2日目で消し炭なんて堪ったもんじゃない!

プライドなど一片のかけらも見せない俺の土下座に、クラス中の好奇の視線が集まる。

陽平は何をしているだろうか?
あ、俺の隣で土下座してるよ。

「か、香恋ちゃん?」
橘の畏怖した声が耳に入ってきた。有り難いことに、九条はその言葉で我に帰った模様。熱気が消えた。

「お許し頂けたでしょうか、女王様」
しかし念のため、顔をゆっくり上げながら九条のご機嫌を確認。

え!

俺は目を疑った。
九条が席を立って、何故か仁王立ちで俺を見下している。
で、こちらから見ると、スカートが本来の意味を見失っているのですよ。

まずい……
俺は悪くないのに被害に遭いそうだ。陽平、ここは何事もなかったように流そう。
ちらりと陽平と目を合わせる。
陽平は「分かった」と小さく口だけを動かした。

「せ、清純派だと!?」
どうやら、アイコンタクトは失敗したらしい。
墓穴を掘ってくれてますよ。しかも、どでかいのを……

「なッ! なななな……」
どうやら目の前に堂々と立ってらっしゃた女王様は直ぐに気付いたらしい。

両手でスカートを抑え、一瞬で俺達と距離を取る。多分魔術を使ったな。
顔が赤いですね。なんて言えば一瞬で俺の学園生活、いや下手すれば人生が終わりを告げるだろう。
俺はそんな愚かなことはしない。
しかし、何故だろう。
今、何をしなくても俺の学園生活は終わりを告げそうなんですが……
委員長様、まずはその左手に宿った炎を何とかしてください!

「よ、陽平!」
「な、何だ翔護」
「我が身の盾となれ!」
「待てこら、翔護!!」


陽平に後は任せ、逃走。
我ながら完璧な作戦だと思いきや、俺の目の前でバスケットボール程の小爆発が発生!
「す、すみませんでした!」
取り敢えず、九条の元へ猛ダッシュで引き返し、そのまま土下座。
頭を一発叩かれた。



「取り敢えず、坂本君は私が休んだ時の代理」

「目指せ皆勤賞」

「いい加減、ふざけるのも大概にしなさいよ?」

「すみません……」
まだ顔が僅かに赤い九条に平謝りをする。
何でだろう、どうも九条の前だとボケに走ってしまう。

「で、渡瀬君は話し合いの時のメモだとか、黒板に書く」

「うわ、面倒くせ……俺、字汚いんだよな」

「寝てたのが悪いのよ。反省しなさい」


 九条の言葉を受け、陽平はうなだれる。

「舞は会計。学園祭の時等が大変そうね。他は特に無いと思うんだけど」
橘が小さく頷いたのを確認した九条は、次に俺の方を向いた。
「分かった、坂本君?」
「何故俺に尋ねるのですか、陛下」
ボケに走り過ぎたせいか。もしかして九条の俺に対する信用はないのでは?

「はぁ~。まあ良いわ。取り敢えず、その変な口調を何とかしてくれないかしら?」

「了解です」

「だ、か、らっ!」

「了解だ」

「よろしい。次、ふざけたら承知しないわよ?」

何、この茶番? それに何で陽平と橘さんは笑ってらっしゃるのです?

「ちょっと聞いてるの? 坂本君っ!」

「聞いてますよ」


正直、この世界には外見と中身が違い過ぎる人物が多いと思うよ。九条しかり、茜さんしかり



そんなこんなで時は流れ、今は二時間目の休み時間。
だが本日の不幸は終わらない。寧ろ、ここからが本番だ。
何故かと言うと

「えっと……何があったの、翔君?」

「俺は疲れたよ、エミリア。特に精神の方面で。しかも三時間目と四時間目は授業だろ?」

そう、授業があるのだ。まあ、不幸中の幸いとやらで今日は昼までなんだけど。

「うん。確か魔術基礎と公民だっけ?」

「せめて、今週一杯は授業なしとかできないのかな?」

「流石にそれは無理じゃないかな……」

そんな感じの意味不明な会話を繰り広げ、休み時間を過ごしていると、チャイムが学園中に鳴り響いた。

「もう授業か……」

実に短い10分間だった。
さて、三時間目は魔術基礎。
どんなが飛び出すのやら。

「理解不能でーす、ってならないよな……?」
「何が?」
「独り言だよ。この先に待っている不幸を表しているような」
「本当にどうしたの、翔君?」
めちゃくちゃ心配そうに見てくる、
明るく思いやりのある外国系美少女。
「傷心気味なんです、俺の心は」

「席着けよ、お前ら……ってもう着いてるか」
俺の思いに反して現れたのは、中年の男教師。
そして、否応なしに授業は始まっていく。

魔術基礎は中学の復習というテーマで始まった。
「約40年前に起きた大変革以来、旧魔術が幅をきかせていた時代から定められていた物や魔術庁が指定した問題がある魔術を禁術と言う。そして……」
 ……

「規格内の新魔術の中でも様々な魔術の部類に分けれる。上からS・A・B・C・D・E・F。簡単に言えば最上級だとか上級、中級、下級等の別名みたいなものだ」

 ……

「補足だが、魔力自体も一次魔力と二次魔力に分けられている。人工的な魔力及び自然にある魔力は二次魔力で、お前ら自身が持ってる魔力は一次魔力と覚えれば良い」


 ……


何だよ、ABCDのランク付けって!?
 別に最上級、上級、中級、下級等で良いと思うんだけど。
大和人は大和語を使うべきだと俺は思いますよ、ローマル語じゃなくて。

 それに二次魔力と一次魔力って何ですか!? 別に良いでしょ、魔術を使えたら!

もう嫌だ。激しく鬱。

 副委員長の件に、開始早々からついていくのにやっとの授業。
不幸と言うべきか、ついてないと言うべきか。
頬杖をつき、数多の鬱憤が篭った溜息を吐いた瞬間

「じゃあ、坂本。ここ読んでみろ」

不幸にも先生から教科書を読めと言われる始末。もう踏んだり蹴ったりだ。
話なんてあまり聞いてなかったし、俺はひたすら黒板に書かれた文字をノートに写していただけだ。

困ったな。完全に目を付けられた。
思わず投げ出したくなる衝動が沸いてくるが、ここは我慢。
この問題を解け、とか言われてない辺りまだましである。

「えっと……どこですか?」
意を決して尋ねると、先生は顔をしかめた。

「聞いてなかったのか。6ページの上から三行目。魔人と普通の人間の違いからだ。」

いつの間にか授業が中学の復習から、普通の授業に変わっている。
まあ、とりあえず、棒読みで指定された箇所を音読することにした


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