魔神と落ちこぼれの魔術師

モモ

幕間

時刻深夜0時を過ぎた所。

今日……正確には昨日から住むことになった彼の弟は『アルマロス』という少年の名前を必死に訴えた後、睡眠をとるために寝室へ向かった。

静かな時が流れる居間に残った坂本・冬哉は考える。


彼自身、翔護の言うアルマロスの存在は信じられないのだ。

どうせ寝ぼけていたんだろう、と冬哉は考えているのだが、100%そうだとも言いきれない。

もし。もし本当に翔護の前に現れたのなら、魔術的な何かが働いた可能性がある。
しかしまだ若いとは言え、坂本・冬哉は高等警察の一員。そんな魔力の乱れなど見逃す筈がない。
それでも、アルマロスが翔護の前に姿を現したことが事実ならば、その少年はトップクラスの実力を持つことになる。

不可解なことはそれだけじゃない。
そもそも、何故アルマロスは翔護の前に現れる必要があったのだろうか?
そして冬哉をより悩ませているのが、アルマロスが言ったらしい言葉。
一言で言うとお手上げ状態だ。現時点では全く理解出来ない。
「……」
閉じていた切れ長の瞼を開き、父親譲りの紫色の瞳を覗かせる冬哉。
綺麗に整えられた髪は黒と言うより、漆黒と言った方が正しいだろう。

「とりあえず、様子を見るしかないか。」
実際、翔護が言っている事が事実かは解らないし、翔護が言っている事が事実であったとしてもアルマロスが事実を述べているかは解らない。
とりあえず、様子を見て真実を見極めるしかない。
それが坂本・冬哉が最終的に出した結論であった。

「さて、そろそろ寝るか。」

電気を消して部屋に向かおうとした瞬間居間に携帯の着信音が鳴り響いた。その音源はソファーに置かれた彼の鞄の中。
冬哉は椅子から腰を上げ、そこに向かい、鞄から黒色の携帯を取り出す。
開いた画面には、『島田さん』。直ぐさま冬哉は通話ボタンを押し、携帯を耳に当てた。

『冬哉君、冬哉君』
携帯魔話越しに聞こえるのは、女性の声。声の主は島田・涼子。冬哉の上司である。

「何ですか?」
彼女とは正反対の無機質な声で、冬哉は言葉を返す。
『おやおや。いつになく素っ気ないねぇ~。どうしたの?』
「用が無ければ切りますが」
『冷たい! 冬哉君が名前通りに冷たいよ、どうしよう!』
「切ります」
携帯魔話を耳から離し、冬哉は通話終了ボタンへ指をかけた瞬間
『待って、待って! 仕事仕事、緊急で仕事が入ったから署まで来てよ!』
止めざるえなかった。

「仕事……とは?」
彼女の『仕事』という言葉に眉をひそめた冬哉は、詮索を開始する。

『とりあえず、署まで来て!』
警察である以上事件が起きれば休みなど関係ない。
そんなことを苦に感じていない冬哉は、言葉を返す。
「……テンションが高いんですね」

『そういう冬哉君は低いね。もしかして忙しかったりすんの?』

「……いえ、特に」

『なら来てね。後、これは公式に話が出ると思うけど、君に転属の話が来てるよ。』

「転属ですか?」
転属と言う言葉に冬哉は反応する。

『うん。転属命令ではなく、転属の話が出てるだけたけどね。まあ、さらにエリートコースには乗るけど冬哉君には向かないと思う。』
掴み所のない島田の言動に、冬哉は思わず頭を抱えてしまう。
冬哉にとってはっきり言えば彼女は苦手な部類に入る。それでも、掴み所の無い彼女は冬哉の上司だ。
「で、どこに転属なんですか?」

『それは来てから時間がある時に話すよ。今は早く署まで来て』

「……分かりました。直ぐに向かいます」


とりあえずら冬哉は支度を済ませて支部に向かうことにした。緊急と言う辺り、重要なことに違いないだろう。しかも、転属の話もある

「それでは」と通話を切り、スーツのズボンのポケットに携帯電話を滑らせる。

そして椅子の背もたれに掛けた、スーツの上着を真っ白なシャツの上から羽織り、ネクタイを締め、準備は完了。

念のためにテーブルの上に書き残しておく。

『急に仕事が入った。朝には帰ってると思うが、念のため残しておく』と









1時間後、坂本・冬哉が尾崎警察署の高等警察の部屋に向かうとスーツを身に纏う茶髪の女性、島田・涼子がコーヒーを飲みながらソファーに座っていた。
「お。冬哉君、ご苦労」
「お疲れ様です。で、緊急の事件とは?」
「わー。冬哉君、普通に流したよ。」
島田は微笑を浮かべながら立ち上がり、自分の机においてある書類を冬哉に渡す。

「拝見します。」
数分かけて読み終えた冬哉は島田の方を見る。
「これはまだ高等警察が出る事件ではないと思いますが。」
「それはそうなんだけどね。でも、治安維持局が動きそうなのよ。」

「そう言う事ですか……」
一般警察は大和連邦建国時は各州が管轄していたが、大和独立戦争が開始されると高等警察等を含め連邦政府内務省の管轄に置かれていた。一方治安維持局は陸軍省が治安維持(実際は不平分子になりえる大和在住の旧人類の監視及び鎮圧目的)に創設した部局であり、その指揮下の特別治安維持隊と内務省管轄の警察は半ば対立関係にある。
そして、特別治安維持隊は一般警察(州警)より優先的に調査する権限を持っており、もし一般警察のままだと、捜査権は治安維持局に移る。しかし、高等警察が捜査するのであれば、捜査権は警察組織が握れる。
客観的に言うならば、くだらない公的機関の縄張り争いだが、当事者は結構必死だったりする。
「治安維持局が動ければ知らせが入るから、それまでここで待機していてね~。」
「解りました。しかし、何故治安維持局がこの事件で動くのでしょうね。本来治安維持局の管轄外でしょうに……」

「軍部と外務省の一部、農水省辺りは興亜帝国と戦争したがっているからね。興亜帝国がバックにいるとして、世論を少しでも持っていきたいんじゃないの?」

冬哉は書類を島田に返しながら無機質な声で答える。
「しかし、その程度で世論が変わるとは思えませんが……」

島田改革によって大和連邦の魔人ではない人間の権利は若干拡大されたが、それでも魔人よりは待遇は悪く、さらに参政権は与えられていないため、人間達の間には不満が燻っている。
選挙権は魔人のみ、披選挙権は魔人の貴族のみに与えられている。そして、大多数の魔人は火の粉が降りかかからなければ、旧人類の猿ども等無視しておけば良いと言う認識であるため、大和連邦の有権者の世論は基本的に反戦である。

「主義者(魔人至上主義者)らは自信あるみたいだよ。彼らは秋ぐらいまでの開戦を想定して準備を整えているみたいだしね。今回の件は彼らが企んでいる事の後押しになれば程度だと思うな……まあ、これらは私の勝手な想像だけどね」

戦争になるかも知れないと言うのに、どこか軽い島田に冬哉は反感を持つが、それを顔に出さず、話題を変える。
「話は変わりますが、私の転属の話は?」

「正式な話は後日あると思うけど、近々新設が予定されている特別高等警察にと言う話。」
「特別高等警察?」
島田は明らかに苦笑と解る笑みを浮かべて、言葉を紡ぐ。
「大和の根本を危うくする行為を除去するための警察と言う話だけどね。まあ、言葉を上手く繕っても実際にやる事は治安維持局と同じだよ。治安維持局は解体される予定らしいし、陸軍は治安維持隊を1人でも多く前線で使いたいんじゃないかな?」



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