不遇職テイマーの成り上がり 〜スキル【吸収】でモンスターの能力を手に入れ、最強になる〜

愛犬ロック

第22話 テイマーはぐっすり眠った

 レナが正式に仲間となった。回復役が仲間に加わり、俺とシャルの回復する術が一つもないときと比べて、安定した構成になったと言えるだろう。
 パーティは4人まで組む事が出来るため、後1枠空いている。将来的には4人パーティになれればいいが、当分は無理なんじゃないかな。好んでテイマーとパーティを組みたいという物好きは少ないだろうから。

 食事を済ませた俺たちは、そこで解散し、俺とシャルは泊まっている宿屋の一室に帰ってきた。

「最近は色々な事が起こるなぁー」

 ベッドの上に腰を下ろし、端から足を出しながら座る。
 ユニークスキル【吸収】を手に入れてから本当に色々な事が起こっている。ステータスが上がったのもそうだし、シャルやレナが仲間になった。モンスターの仲間もたくさん増えた。
 母さんが亡くなって凄く悲しかったが、後ろばかり向いていても何も良いことは無い事に気付けた。それは、やっぱり皆のおかげなんだと思う。

「シャル、今の生活は楽しいか?」

 唐突に俺はシャルに話しかけた。こんな質問をした理由は特にない。そう、なんとなくだ。

「うん。アレンと一緒にいれて私は凄く幸せ」

 凄くドキッとした。鼓動が早くなっているのを感じる。

「俺の奴隷になってよかったのか?」
「アレンと一緒にいれるから、よかった」
「……なぁ、シャルって俺のこと好きなのか?」

 シャルの返答はなく、沈黙が出来た。
 ……一体何を聞いているんだろうな、俺は。
 疲れて頭がおかしくなっているのかもしれない。

「好き」

 一言。シャルは小さな声で喋った。
 頰や耳が熱くなって、茹でられたように赤くなるのが分かる。
 何を勘違いしているんだ、俺よ。このシャルの「好き」は異性としての好きじゃなくて、家族としての好きに決まっているだろう。
 本当に今が夜で良かった。真っ暗闇なら俺の顔が真っ赤になっている事に気付かれないから。

「そうか。俺も好きだよ」

 俺もそう返しといた。出会って、あまり時間は経っていないが、一番心を開ける存在なのは間違いないから。

「うん」

 シャルは頷いて、いつものような変わらぬ口調で言った。
 そして、会話は途切れた。
 それでも心臓は、ドクンドクンと必死に脈を打っている。

(変なこと聞くもんじゃないな)

 これからは、あまりこういう事を聞かないようにしておこう。そう思った。

「明日も早いし、寝るか」

 しばらく時が流れてから、俺はシャルにそう言った。

「分かった」

 シャルは返事をすると、ベッドの上に横になった。
 俺も座っている姿勢から身体を横にする。

「……手握ってもいい?」

 横でシャルは俺の方に首を傾けて、そう聞いてきた。
 落ち着きを取り戻していた心臓が再び乱れ出す。自分の耳に心音の音が入ってくる。シャルに聞こえなければいいのだが。

「……うん……どうぞ」

 俺はシャルがいる逆の方向に首を傾けて、ぎこちない口調で応じた。

 すると、布団がゴソゴソと動き、俺の手にシャルの手が当たった。
 男である俺の手よりも柔らかくて、滑らかな肌触り。
 そっ、と触れてからシャルは軽く俺の手を握ってきた。

「おやすみ」

 手を握ったままシャルはそう言った。

「ああ、おやすみ」

 頑張って自然なように俺は返事をした。
 どうやら、シャルは手を握ったまま寝るようだ。
 俺は自分の手から汗が出ませんように、と祈りながら目を瞑った。
 寝れるか少し心配だったが、しばらくして落ち着いてくると、疲れていたおかげで意識はスッと落ちていった。



 ◇



 目が覚めると、目の前は真っ暗だった。
 顔全体に温かい何かに包まれているようで、それはふにふにして柔らかく、少し弾力のあるものだった。そして、少し甘い香りがする。
 襟首辺りを何かに押さえつけられていて、頭を持ち上げるには少し労力が必要だ。
 仕方なく、もぞもぞとふにふにとした柔らかいものを押しのけて進むと、出口があった。

「起きたんだ。おはよう」

 そこにはシャルの無表情で可愛い顔が存在していた。

「……おはよう」

 俺は気付いた。あの、ふにふにとした柔らかいものの正体を。そして、俺の今置かれている状況を。
 状況を簡単に説明すると……俺・は・シ・ャ・ル・に・抱・き・つ・い・て・い・た・。

 ジーっと俺を見つめるシャル。それを俺もジーっと見ていた。

「……何だこれ」
「アレンが抱きついてきたから、よしよししてあげてた。よしよし」

 そう言って、シャルは俺の頭を撫でる。
 なでなで。
 うん、悪くないけど、いや寧ろご褒美ですけど……これ恥ずかしすぎるぞ。
 意識が段々と覚醒してきた。血の巡りが良くなってきたのか知らんが、顔が熱を帯びてきた。

「とりあえず、離れよう」

 俺がそう言うと、シャルは少しだけ表情を変えた。

「分かった」

 微々たる変化だが、しょんぼりとしているように見える。

 (ぐっ、これは俺が悪いのか!?)

 そう思った俺は、ここを離れる事に罪悪感を感じてしまった。

 (俺はここを離れるべきなのか?)

 葛藤の末、俺が出した答えは……

「……やっぱりもう少し、このままでいる」
「うん」

 俺は顔を伏せて、もうしばらくこの状況を堪能する事にした。

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