不遇職テイマーの成り上がり 〜スキル【吸収】でモンスターの能力を手に入れ、最強になる〜

愛犬ロック

第6話 テイマーは契約を結ぶ

 冒険者ギルドにやってきた俺は早速窓口に向かい、受付嬢にギルドカードを渡す。
 今日の受付嬢は、あの口の悪い女ではなかった。
 そうでないにしても俺がテイマーだと言うことは周知の事実なので、扱いが良いとは決して言えないが。


「ギルドカードをお預かりしますね」


 そう言って、ギルドカードを受け取る受付嬢。
 慣れた手つきで討伐したモンスターを確認していく。
 そして、討伐モンスターを確認した受付嬢の目は点になった。




 ポカーン。




 ギルドカードをみたまま、受付嬢は少しの間硬直する。
 ブンブンと顔振り、ギルドカードを顔に近づけて、ジッと見つめる。




「ア、アレンさん……どうしたんですか!?この討伐内容は!」




 周りに聞こえるぐらいの大きな声。
 ギルドにいた冒険者達の視線が集中するのが分かった。
 テイマーがゴブリンを狩っただけでこんなにビックリするなんてな。
 まぁ、仕方ないか。




「えーと、ちょっと強くなってきたなと思ったのでゴブリンの森に行ってました」
「ええ、そうでしょうとも。ゴブリン6体の討伐は100歩譲っても、まぁ分かります。ですが、ホブゴブリンを討伐したって一体どういうことですか!」




 怒鳴り散らすように受付嬢は俺に言った。
 待て。ホブゴブリンは俺が討伐した訳じゃない。
 あのハーフエルフの少女は倒したんだ。
 なのに、何故俺のギルドカードに……?




 俺の困惑とは別に受付嬢からの情報でギルド内は騒然としていた。






 ――ヒソヒソ。




「……おいおい、マジかよ。あいつテイマーだろ?何でホブゴブリンなんか討伐してんだよ」




 ――ヒソヒソ。




「……俺が聞きてぇぐらいだよ!あいつ最近までスライム狩ってたんだぜ?」




 ――ヒソヒソ。




「……だったら、ギルドカードの故障だろう。テイマーがホブゴブリン倒したってのよりは信憑性があるぜ」




 ――ヒソヒソ。




「……いや、ギルドカードが壊れたって話聞いたことねえよ」








 ……どうやら、俺は今目立ってしまっているようだ。こういうのを悪目立ちと言うのだろうか。
 実際、俺はホブゴブリンを倒してないので何とも言えない気分だ。しかし、ここで俺が倒していないというとまた騒ぎになる。大人しく、俺が倒したという事にしておこう。
 人差し指で頰をかきながら、少し引きつった笑顔で受付嬢に返答する。




「あは……あはは。何か倒せちゃいました……」
「分かりました。状況については、また後日伺います。……あの、大きな声出しちゃってすいません」


 受付嬢はペコリと頭を下げて、小さな声で謝った。
 良い人……なのかな?




「では、報酬金をお渡ししますね。ゴブリン6体とホブゴブリン1体で銅貨6枚と銀貨4枚になります」
「えっ、そんなに貰えるんですか!」


 銀貨1枚は銅貨100枚分の価値がある。
 計銅貨406枚を得た事になる。今までの稼ぎとは比べ物にならない。




「もちろんですよ。ホブゴブリンはDランクのモンスターですので」




 そういえば、モンスターの強さをギルドが評価し、それに応じてランク付けするんだっけ。
 確か……F、E、D、C、B、A、Sの順で段々と強くなるみたいだ。このランク付けは、冒険者にもされていてギルドに対する貢献度に応じて上がっていく、とかだったかな。
 これは本で得た知識だ。
 本当は冒険者登録を行った時に一通り説明されるはずなんだけどな……。
 何で俺は説明されてないんだろうな……悲しい。




「なるほど……ありがとうございます」
「もしかして、知りませんでした……?」
「えっと……はい」
「はぁ〜、分かりました。そういえばあの子が登録したんですものねぇ……」


 額に手を当て、溜め息をこぼす受付嬢。
 あの子って、アイツの事だよな。俺に色々嫌がらせしてきてる。例のあの人。


「すいません、ホブゴブリンの件とこの事はギルド長に報告しておきますので、後日また改めてお話しましょう」
「わ、分かりました」




 流されるようにトントン拍子で話が進んだ。
 どうやら、また日を改めて話す機会があるようだ。
 そろそろ他の街に行きたかったが、その話し合いが終わってからになりそうだな。






 ◇






 冒険者ギルドを後にした俺は、食料を買って家に戻って来た。
 思わぬ収入があったので、今日は昨日以上に奮発した。
 おばさんの店でパンを買って、市場に行き、干し肉と少し酸味があって甘いフルーツ、ライマー。それとスープの味付け用に塩と胡椒を買ってきた。


 家のドアを開けて、中に入るとハーフエルフの少女は目を覚ましていた。布団の上で上半身だけを起こして、ボッーっとしているように見える。
 ……何か声をかけるべきだろうか。
 かけない方が変だよなー……。あまり女の子と話した事がないため変な緊張をしてしまう。




「目、覚めたんだ……あー、さっきは助けてくれてありがとな」




 彼女は、首を動かして、ボーっと視線を俺に向ける。


 そういえば……ホブゴブリンに飛ばされて立ち上がったとき、俺なんか恥ずかしい事言ってなかったか?
 その結果があの様ですよ。恥ずかしすぎるだろ!
 やべぇー……絶対この子に恥ずかしい奴だと思われてるわ……。
 戻りてぇ。過去に戻れるならあの時の俺をぶん殴りてぇ!






「――私の方こそありがとう」






 彼女の口から出た言葉は、意外にも感謝の言葉だった。
 正直、戸惑った。
 罵倒は慣れているが、感謝される事は慣れていない。
 ましてや今回の件に至っては、俺の方こそ助けられた側だ。
 だから、何て返事をすればいいか分からなかった。




 無言の時が流れる。
 しばらく俺は彼女をジッと見つめていたが、照れ臭くなって顔をそらした。




「聞かないの?」




 静寂を切り裂いたのは、彼女の方だった。




「――何であの場所にいたのか……ってか?」
「うん」
「……じゃあ、教えてくれ。正直、気になってたんだ」
「分かった」




 そう言うと、彼女は服に手を伸ばし、たくし上げた。




 え!脱ぐの!?
 ちょっと待て。教えるってそういう感じなんですか?
 体で教えてあ・げ・る的なそういうアレなんですか!?


 俺は反射的に手で顔を隠した。いや、なんか見るのに抵抗があるっていうか……。悪いことしてるんじゃないかなって……。
 だが、その先の楽園パラダイスは気になってしまう。指の隙間からチラッと見る。




 服をたくし上げたのはヘソの辺りまでで、全然素肌が見えない状態だった。




 いや、そんな事より!




 見るべきところは彼女のヘソの下だ。
 なにかの紋章の様なものが刻まれている。




「これ、奴隷の紋なんだ」




 彼女は先程と変わらない口調で当たり前かのように話した。




「えっ」
「私、奴隷商の馬車から逃げ出してきたんだ。意識を失ってた私は目が覚めたら、あそこにいた」
「そう、なんだ……」




 ここで気の利いた言葉の一つや二つ言う事が出来たら良かっただろう。
 しかし生憎と俺はそんな気遣い出来ない。




「お願いがあるの」
「お願い?俺に?」




「うん――あなたの奴隷にしてほしい」




 衝撃の一言に俺は口を開けながら固まっていた。
 何をお願いされるのかと思えば、一番予想外のお願いをされた。
 驚愕。
 その一言に尽きる。




「なんでそうなるんだよ!その奴隷の紋って奴を消してしまえばいいだろ!」


「消えないわ。一生。だからあなたの奴隷になりたいの」




 一生消えない。
 その奴隷の紋は一生消えないんだ。
 つまり、この先彼女は何があっても誰かの奴隷になる運命なんだ。
 ……そんなの悲しすぎる。




「――どうして俺の奴隷になりたいんだ?」




 俺がそう聞くと、彼女の表情が変わった。
 無表情だった顔から、甘く、可愛らしい笑顔がこぼれた。






「あなたが綺麗だったから」






「綺麗って……何が綺麗だったんだ?」






 俺が綺麗?
 どういう風に見たら、そんな感想を抱けるのだろうか。




「えーっと、笑顔……かな?」




 首を傾げながら彼女は言った。
 少し困惑した表情をしている彼女は、何だか凄く……可愛らしかった。






「なぁ……俺のお願いも一つ聞いてくれるか?」






「うん。何でも聞く」






「俺の奴隷になってくれよ」






 それを聞いた彼女は、パッと目を大きくした後に両手で顔を隠して、顔を伏せた。




「ど、どうした?」




 彼女に何かあったのだろうか。
 心配になった俺は彼女に駆け寄る。


 すると、彼女はグスン、グスンと泣いているようだった。




「……ねぇ、いいの?あなたの奴隷になっても」




 彼女は涙まじりで声を絞り出す。




「お願いしてるぐらいだぞ?ダメな訳ないだろう」
「……ありがとう」




 彼女が泣き止むまで、しばらく待った。
 きっと、彼女も辛い人生を送ってきたんだろう。
 奴隷になるぐらいなんだ。俺よりも辛く厳しい人生だったんだろうな……。




 彼女は泣き止むと、俺の右手を掴み、自分の奴隷の紋の方へ持っていく。




「ここに手を置いて、あなたの魔力を流せば私はあなたの奴隷になる。奴隷になると、私はあなたに従順になり、言う事も聞くし、危害も加えられない」
「それが奴隷契約って奴なのか」
「そう。この紋は、その契約における魔術回路の簡略化したものになる」
「つまりは、その紋がなくても出来るけど、難しいって事か」
「そういうこと」




 魔力を流すだけでいいと言ったものの、魔力を流した事なんて一度もない。
 念じれば流せるだろうか。ステータスや鑑定を使うときもそんな感じだし、出来るはずだ。


 魔力、流れろ。と念じてみる。




 すると……。
 奴隷の紋が光り出した。
 赤紫色をした光を放ち……徐々に光は消えていく。




「――契約完了。これで私はあなたの奴隷」
「……なんか実感湧かないな」
「うん……私もそう思う」
「まぁとにかく、これから宜しくな。アレン=ラングフォードだ。アレンって呼んでくれ」
「私は、シャルレ=ハーティスメル」




 シャルレ……なんか呼びづらいな。




「……シャルって呼んでもいいか?」
「うん。好きに呼んで」




「――じゃあ改めて、よろしくな、シャル」
「よろしく、アレン」




 こうして、俺とシャルは奴隷契約を結んだのだった。



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