不遇職テイマーの成り上がり 〜スキル【吸収】でモンスターの能力を手に入れ、最強になる〜

愛犬ロック

第5話 ハーフエルフはテイマーを助けたい

 ――ガタッ、ガタガタ。


 馬車の荷台で揺られながら、私は物思いに耽る。
 私はハーフエルフとして、この世に生を授かった
 母がエルフで父が人間。
 しかし、残念なことに私の生まれ育ったエルフの里では、ハーフエルフは迫害の対象だった。
 毎日、私は虐められた。殴られたり、石を投げられたりは日常茶飯事だった。
 エルフの里に父はいなくて、一度も父に会ったことはない。母が私のことを育ててくれた。
 一度、母に父の事を聞いてみたことがある。母は言葉を濁しながら”凄い偉大な人“と言っていた。
 そう言う母は頰を緩ませ、ニヤニヤした顔していた。
 唯一、私の中にある幸せな思い出は母と過ごした時間だけで、それ以外の思い出は辛い事ばかりだった。


 そして、母が死んだ。エルフは長寿として有名だが、母は死んだ。


 ――殺されたのだ。里の住人に。


 母がいなくなった私は、里を追い出された。
 里から追い出された私は路頭に迷った。
 お腹を空かして道に倒れたところ、奴隷商に拾われた。


 そして、今――。




 ――ガタッ、ガタガタ。


 馬車の荷台には、私と同じように売り出される奴隷達が乗せられている。
 皆、生気のない死んだ魚のような目をしていた。
 奴隷は、ヘソの下に奴隷の紋が刻印されている。
 それを私は手の平で撫でる。
 これから私は、大きな街の奴隷館に連れて行かれ、奴隷契約を交わすことになるのだろう。
 他の皆もその事実が分かっている。逃げ出そうにも奴隷になるような境遇の人達が逃げ出した先に待っているのは、死、だけだ。


 ……ああ、どうして殺されたのが私じゃなかったのだろう。私が死んで、母が生きればよかったのに。
 そう思っていたとき――。




 《ステータスを取得しました》




 頭に無機質な音声が流れてきた。
 ステータス。
 15歳になると貰える神の祝福。


(15年生きてたんだ、私)


 せっかくなので、ステータスを開いてみることにした。




 種族:ハーフエルフ
 名前:シャルレ=ハーティスメル
 性別:女
 年齢:15歳
 職業:魔剣士
 レベル:1
 HP:10
 MP:2800
 攻撃:10(3000)
 防御:20
 魔力:2400
 敏捷:3200


 《職業スキル》
【魔剣作成:レベル1】


 《攻撃スキル》
【剣舞:レベル1】




 この歪なステータスを見た私は悟った。
 これは希望の光なんだと。
 私は力を授かった。この世界で生きる為の大きな力。


 私は立ち上がる。
 馬車の揺れでクラっとバランスを崩すが、何とか動けそうだ。
 一歩、二歩。
 前へ進み、私は走る馬車の荷台から飛び降りた。




 ゴロゴロと地面に転がった私は、そこで意識を失った。






 ◇






 目が覚めると、目の前には大きなゴブリンがいた。
 悲鳴をあげようにも力が出ない。身体が疲労し切っている。
 大きなゴブリンは、息を荒くしながら私の服に触れる。
 これから私は、このゴブリンに犯されるのだと分かった。






 ――結局こうなるんだ。少しでも幸せな未来が待っていると期待した自分がバカみたいだ。








 諦めかけていた、そのとき。






「「グギャアアアアアァァァァ」」






 絶叫が奥から響いてきた。
 大きなゴブリンは、背後を向き私から離れていく。
 何が起こっているのだろう。
 そう不思議に思っていると、何度も絶叫が聞こえてきた。




 私を助けにきてくれたのだろうか。いや、あり得ない。そんなの誰が助けに来るって言うんだ。同郷の者ですら、私を嫌うのに。






 だが、私の期待は裏切られた。いや、この場合は期待通りと言った方がいいのかもしれない。










 がやってきたのだ。










 その少年は、辺りを見回し私の姿を捉えた。


「よかっ――」


 口を開けた少年の言葉を遮ったのは、あの大きなゴブリンだった。
 体格に合った大きな棍棒を少年に向かって振り下ろしたのだ。


 少年は横に飛び、それを避ける。


 だが、大きなゴブリンの攻撃は終わらない。
 地面を蹴り、凄い勢いで少年に近づき先程の一撃よりも強力な一撃を放った。
 少年は何とか避けることに出来たが、地面が揺れて少年は身動きを取れないでいた。
 大きなゴブリンはそれに向かって突進する。少年も負けじとぶつかるが、力負けして後方に飛ばされた。




「――助けなきゃ」




 私は夢中で立ち上がり、倒れている少年に近づいた。
 頭から血が流れていて、今の一撃で戦闘不能状態にまで追い込まれていた。
 少年に向かって、私は言う。


「剣を貸して」


 私は確信していた。自分の強さを。
 剣さえあれば、私はあの大きなゴブリンを倒せるだけの力がある。


 だが、少年は聞き入れない。
 剣を支えにして、ゆっくりと何とか立ち上がる。


「……大丈夫だ……心配するな……助けてやるから……絶対に」




 私に笑みを浮かべながら少年はそう言った。






 ――綺麗。






 私は心からそう思った。
 あれだけの力の差を目の前にしても戦意を失わない心の強さ。
 私を助けてくれるといった彼の優しさ。
 そして、私に向けてくれた……あの笑顔。






 ――この少年は、こんなところで死んではいけない。






 私の命に代えても……この少年は――守ろう。








 ◇






「――剣を貸して」


 高くて透き通った心地の良い声。
 首を動かして、声のする方を向いた。
 絶世の美少女はそこにいた。
 エルフの容姿より少し角が取れた風貌をしていて、ほっそりとした尖った耳に短く切り揃えられた艶のある白髪。碧色に輝く目は、どこか悲しそうだった。




 ――そんな表情かおするなよ。






 剣を地面に突き刺し、それを支えに倒れた体を起こす。
 負けられない。
 頭にドンドンと鈍痛が響く。頭からは血が流れていて、頰を伝い地面に垂れる。
 それでも俺は彼女を安心させようと笑顔浮かべながら言う。




「……大丈夫だ……心配するな……助けてやるから……絶対に」




 視線を目の前のホブゴブリンに向ける。
 余裕が出来たのか、奴はこっちをジッと見ている。
 好都合だ。その油断が命取りになるってところを教えてやる。




 だが、そうなる事は無く――。




 ドテンッ。




 支えを無くした俺は地面に倒れる。






 そして――。






 のだと理解する。






「……なに……してんだ」






 思うように喋れなかった。
 ホブゴブリンのショルダータックルが大分効いているようだ。








「貴方を守る」








 彼女はそう言って、剣に手をかざした。








 ――《職業スキル》【魔剣作成:レベル1】










 手をかざした所から徐々に剣は変わっていった。
 そして、全体を手でかざし終えたとき、粗悪な剣は御伽話に出てくるような禍々しい魔力を纏った剣に変わっていた。


(何だ、これは……)


 俺は空かさず、彼女に鑑定を使った。




 種族:ハーフエルフ
 名前:シャルレ=ハーティスメル
 性別:女
 年齢:15歳
 職業:魔剣士
 レベル:1
 HP:10
 MP:2800
 攻撃:10(3000)
 防御:20
 魔力:2400
 敏捷:3200


 《職業スキル》
【魔剣作成:レベル1】


 《攻撃スキル》
【剣舞:レベル1】




 ステータスを見て、俺は息を呑んだ。
 真っ先に目に入ったのが、この歪な値だった。HPや防御が2桁なのに対し、それ以外は4桁。紙防御にも程がある。そして、この強さでレベル1。




 職業は――
 一瞬、俺はの間違いなんじゃないかと思ったが、《職業スキル》の【魔剣作成:レベル1】を発見して間違いではないと悟った。


(聞いたことねえぞ、魔剣士なんて職業)










 彼女は、魔剣を見つめてから――駆け出した。
 ホブゴブリンに向かって、一直線に駆けていく。


 ホブゴブリンの目の前まで来ると、彼女は地面を蹴り、飛び上がった。
 そして、宙に舞いながらホブゴブリンの肩に斬撃を入れる。




 しかし、ホブゴブリンは怯まない。
 宙に舞う彼女に向かって、ショルダータックルを繰り出した。




(やばい。あの状態で避けるなんて無理だ!死ぬぞアイツ!)










 ――《攻撃スキル》【剣舞:レベル1】










 彼女は、ホブゴブリンのショルダータックルを空中にいながらも受け流した。
 剣を巧みに使い、衝撃を流し、彼女は更に高く舞い上がる。
 クルリと一回転してから、落下の勢いと共に剣が振り下ろされる。




 ――まさに一刀両断。




 ホブゴブリンの頭から股にかけて、剣は軌跡を描き、真っ二つにした。
 二つに別れた身体は、次第に粒子へと変わり……消えて行く。




 レベル1の少女がホブゴブリンを倒した。




 ホブゴブリンを倒した彼女もそこでプツリと意識が途切れるように倒れた。
 剣がカランカランと地面に落ちる。




「――おい!」




 身体を起こして、駆け寄る。
 自己再生の効果か、身体は先程より動く。
 駆け寄った俺は彼女の頭を手で支え、上体を起こす。
 すると、彼女の閉じていた目は、ゆっくりと開き、俺の顔を見つめる。
 そして、右手を俺の頬に触れ、


「――よかった」




 と言い再び意識を失った。






 彼女の圧倒的な勝利。
 助けに来たはずが、助けられてしまう結果になってしまった。
 ……情けねえなぁ……。






 ◇






 彼女を背負い、家に戻ってきた。
 布団の上に彼女を寝かせる。


 スー、スーと規則正しい寝息を立てながら眠っている。
 その姿は、さっきの凛とした雰囲気とは違い、普通の15歳の少女のようだった。


 うっ、顔が熱を帯び、ドクンドクン胸が高鳴る。
 ……もしかすると、俺の顔は今少し赤くなっているかもしれない。
 だって仕方ないだろう。こんなに可愛い女の子が俺の布団の上で眠っているんだから。






 ……それにしても何でこんなに強い子が捕まっていたんだろうか。
 色々考えようと試みるが、中々集中出来ない。






「――とりあえず、外に出よう。うん、そうだな。冒険者ギルドに行って報酬金を貰ってこよう」






 弱っている彼女を家に一人で残すのは少し気が引けた。だが、危険因子など存在しないだろう。
 報酬金を手に入れ、食料を買ってくるのが今出来る最善の行動なはずだ。
 彼女を家に一人残す罪悪感にかられながらも俺は冒険者ギルドに向かった。





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