不遇職テイマーの成り上がり 〜スキル【吸収】でモンスターの能力を手に入れ、最強になる〜

愛犬ロック

第3話 テイマーはちょっとスッキリした

 ゴブを使ったゴブリン誘導作戦は、実に効果的で安全に多くのゴブリンを討伐する事が出来た。
 ギルドカードで何体討伐したか確認すると――その数、41体。ゴブリン1体につき銅貨1枚の報酬金が出るため、俺の1日の給料は銅貨41枚だ。
 冒険者……なんて稼げる職業なんだ! 危険と隣り合わせと言え、新人冒険者でもこんな簡単に稼げるんだな。……いや、本来なら41体ものゴブリンを討伐するのはソロでは至難の技だ。
 ギルドで報酬金をもらおうとする時、4人パーティを組んでる奴らの討伐数は俺より少し多い60〜70体程度だった。
 俺と同じ新人冒険者といった風貌でそいつらも確かゴブリンを狩っていた。4人パーティなら当然報酬金は4等ぶんされることになるため――報酬は一人当たり銅貨15枚といったところか。それでも坑夫として1日働いていた俺の1、5倍稼いでいる事になるのか。


 もう日は沈み始めていて、夕焼けの空に薄っすらと夜の色が滲み出している。
 町に戻らないとな。
 ゴブをテイムしたまま町に戻ると、少し騒ぎになりそうだ。町の中で俺の横を歩くゴブリン。
 視覚的にも衛生的にも確実に見る人全員の気分を害す事になるだろう。
 テイマーが皆から嫌われている理由は、コレも含んでいるのかもしれない。


『ゴブ、お前も吸収させてくれるか?』
『もちろんッスよ。兄貴の為なら何でもするッス』
『……何か悪いな』


 今日1日、ゴブと共にゴブリンを討伐してきて俺は妙な仲間意識を持ち始めていた。
 それだけに……吸収することに罪の意識を感じていた。 


『何が悪いンスか?アッシらは一度、兄貴に倒された身。何をどのように使おうが兄貴の自由ッスよ」
『そういう物なのかな……自由を奪ったみたいで……実はちょっと嫌なんだ』
『兄貴は優しいッスね。でもアッシらはモンスターッスよ。また外に出れるみたいなんで、なーんにも不満に思ってないッス!』
『ゴブ……』


 ……ゴブリンなのにゴブは良い奴だな。
 ゴブの言葉に少し目頭が熱くなった。
 ――やばい。泣きそうだ。
 不遇職テイマーとなった約2年間、人の優しさに触れる機会なんてほとんど無かった為、ゴブの言葉が胸に染みる。


『ゴブゥゥゥゥー!』


 感極まった俺はゴブに抱きついた。
 ――ゴブの身体は木や土の臭いにアンモニア臭を加えたような臭いがした。
 横にいた時には大して気にならなかった臭いが、目と鼻の距離に接近した瞬間、大きく存在を主張した。


(く、くっ、くっ、臭えええぇぇぇ!!!)


 思わず俺は鼻を摘み、飛ぶようにゴブから離れた。
 ダメだ……鼻がもげる……。


『……兄貴……その反応はちょっとヘコむッス……』








 ◇






 ゴブを吸収した俺は、すぐさま町に戻った。
 41体倒して仲間になったゴブリンは9体。
 9体のゴブリンを吸収した俺のステータスは、今までの倍以上の値に成長していた。




 種族:人間
 名前:アレン=ラングフォード
 性別:男
 年齢:16歳
 職業:テイマー
 レベル:14
 HP:870
 MP:320
 攻撃:771
 防御:595
 魔力:324
 敏捷:643


 《恩恵》
【獲得経験値上昇(小)】


 《耐性》
【痛覚耐性(小)】
【物理攻撃軽減】
【魔法攻撃軽減】
【状態異常軽減】


 《職業スキル》
【テイム:レベル2】
【鑑定(ステータス限定):レベル1】


 《攻撃スキル》
【ショルダータックル:レベル2】


 《強化スキル》
【身体強化:レベル1】


 《通常スキル》
【棒術:レベル1】
【剣術:レベル1】
【斧術:レベル1】
【槍術:レベル1】


 《ユニークスキル》
【吸収:レベル1(MAX)】
【自己再生:レベル1(MAX)】
【意識共有:レベル1(MAX)】




 見違えるようなステータスになり、通常スキルの武器スキルも4つ覚えることが出来た。当分、剣を使っていく予定のため、自然と剣術のレベルを上げることになるだろう。
 レベルと言えば、自身のレベルも2上がった。レベルが上がってもステータスの上昇値は雀の涙程しかないため、飾りに過ぎないが……。


 ステータスの上昇と41枚の銅貨が貰えることを思うと、冒険者ギルドに向かう足取りは疲れて重いはずなのに軽いように感じた。


 冒険者ギルドについた俺は報酬金を貰うために窓口向かう。
 そこにいた受付嬢は……あの口の悪い奴だ。
 現在、冒険者が報酬金をもらっている最中で俺はその後ろに並ぶ。
 嬉しい気分から一転。何とも言えない微妙な気分になった。


 目の前の冒険者の報酬金受け取りは終了し、俺の番がやってきた。
 俺の姿を見た受付嬢は、一瞬露骨に眉を寄せて、見下しているような目で睨んできた。
 いやいや、おかしいでしょって。
 ――あんた一応、仕事で給料もらってんだろ。
 決して口には出せないが、俺は心の中で叫んでいた。


「はい、ですか?」


 ニッコリ。
 受付嬢は春風のように爽やかな笑顔を見せるが、その反面、口から出てきた言葉は嫌味だった。
 ……だが、俺が今日狩ったのはスライムじゃない。
 ――ゴブリンだ!


「違いますよ……あ、レンタルした剣お返ししますね……えーっと、で、はい、ギルドカードです」


「お預かりします」などの声はなく、無言で嫌そうな顔を見せながら、仕事をこなす受付嬢。
 しかし、ギルドカードの討伐モンスターを見て目の色が変わった。そして、俺の後ろを見る。
 この行為は俺がパーティを組んだのか、を確かめる行為のように思えた。
 ――悪いな、俺はソロだ。


「……えっ、えーっと……ゴブリンを41体討伐しましたので……報酬金として銅貨41枚をお渡しします……」


 受付嬢は、ゆっくりとした口調と敬語で話す。
 その姿は何とも間抜けだった。
 渡された銅貨41枚の入った麻袋を受け取り、受付嬢に向かって……ニヤッと笑みを浮かべた。
 意図的に出たわけじゃなく、自然と表情筋が動いた。
 ――どうだ、見たか。
 そんな俺の気持ちがこもっていたのかもしれない。






 ◇






 銅貨41枚を受け取った俺は酒場に来ていた。理由は、少し美味しいものが食べたかったから。
 おばさんのパンと自作の野草スープの味には、もうとっくの前に飽きていた。


 カウンターに座り、上の看板に書かれたメニューを見る。
 ソーセージパン……銅貨10枚。
 スープ……銅貨7枚。
 いつもと変わらないメニューだが、酒場に置いてある料理というのもこれぐらいしかないようだ。


 注文したい。
 が、何て注文すればいいか分からない。
 酒場に来たのなんてもう2年ぶりぐらいだ。
 あの時は母さんに連れて来てもらったから、一人で来るのは初めてだ。
 そう、困っているとき。


 とんっ。


 俺の前のテーブルの上に赤いワインの注がれたグラスが置かれた。


「エルさん亡くなったんだってな……辛いかもしれないが、お前もエルさんみたいに気高く生きろよ。その赤ワインは俺の奢りだ」


 カウンター越しにマスターが語りかけてきた。
 俺のこと……覚えててくれたんだ。それに母さんのことも。
 目頭が熱くなる。
 強くなろうって決めたのに……どうして俺はこんなに弱いのだろうか。


 ぽろぽろ。


 涙が頬を伝って、こぼれ落ちる。テーブルには1つ、2つ、涙の粒によって丸い染みが出来ていく。




「……男が泣いていい時はな、親が死んだときだけだ。親が死んだってのに涙を流さない奴もいっぱいいるが、俺はお前さんみたいに鼻水垂らしながら泣いてる奴の方が好きだぜ……ほれタオルだ」




 じわー。っと、目から涙が溢れてくる。
 マスターからタオルを受け取り、タオルを顔に当てる。
 涙といつのまにか垂れていた鼻水を拭く。


「フッ、注文は?」


 マスターが気を利かせ、注文を聞いてくれた。


「……ソーセージパンとスープを1つずつ」




 出てきたソーセージパンとスープは……とても美味しかった。
 肉を食べたのなんて久しぶりだった。
 スープも自分で作る野草を煮ただけの味のないスープと違って、出汁が出ててコンソメの味がした。
 マスターからもらったワインを飲んでみると、ワインの香りが口いっぱいに広がった。苦い。普通の飲み物と比べたら重く、胸のあたりがじんわりと熱かった。
 正直、あまり美味しくないな……と思った。






 ◇






 翌朝、バンバンとドアを叩く音で目を覚ました。


 バンバン、バンバン。


「おい!開けろや!」


 バンバン、バンバン。バンバンバンバン。


 ――何だよ……朝っぱらから……。
 少しキレながら、布団から出る俺。
 バンバンと何度も叩かれている家のドアを開ける。


「おいテメェ、坑夫の仕事サボってんじゃねぇぞ?舐めたことしてると、痛い目に合わすぞ?」


 ゾロゾロと3人の坑夫が俺の家の前に着ていた。


「坑夫の仕事は日雇いの仕事だ。それに参加するのは俺の自由であるはずだが?」


 いつもと違う口調。
 もう坑夫の仕事をするつもりはない俺にとって、こんな奴ら相手に敬語を使う必要などない。
 ステータスも高くなり、万が一騒ぎになっても負けることはないだろう。


「舐めた口聞いてんじゃねぇぞ!お前に自由なんて無えんだよ!不遇職のお前は一生俺たちより安い給料で馬車馬のように働く運命なんだよ!」
「――は?」


 口から出た声は、想像してた以上に低く……冷たい声だった。
 どうやら、堪忍袋の尾が切れたみたいだ。
 もう恐ることも我慢する必要もないのだから。


「は?……じゃねーよ。その舐めた態度、叩き直してやるよ。やるぞオメェら!」
「「おう」」


 どうやら三人で俺のことをボコボコにしてやろうという魂胆らしい。
 三人で来ているところを見ると、俺がどんな態度を取っていようが、こうなる予定だったんだろうな。


「オラァ!」


 さっきまで俺が話していた男がパンチを繰り出す。
 ……遅い。
 スローモーションかのように拳が見える。
 ゆっくりと動き、俺の顔面に向かって進んできている。
 これがステータスの差。
 戦闘職と他職では埋められない程のステータスの差がある。
 まさかそれを実感出来る日が来るとはな。


 男のパンチを避けて、腰を低くした俺は顎目掛けてアッパーを繰り出す。


 ドンッ


 当たった。
 アッパーをくらった男は、上方向に少し浮き上がり宙を舞う。
 少し浮いた体は重力によって、地面に倒れた。
 男は白目を剥いて気絶している。


 その光景を見た後ろの二人は、互いに顔を見合わせている。驚愕といった表情をしていて、戦意は無くなったと思われる。
 見合わせた二人は、コクリと頷き、


「すみませんでしたああああああああああああ!!!!!!」


 と言って、気絶した男を連れて逃げて行った。



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