元賢者の最強剣士 〜二度目の人生は自由に冒険者ライフを送る〜

愛犬ロック

第22話 禁術

 夜道を月明かりが照らす中、俺は気配を感じ取った。
 ――動き出したか。
 いつから。
 そう問われるなら、こう答えよう。
 ここ3日、起きているときも寝ているときも何者かに監視されているような感覚に陥っていた。
 気づいたのは昨日。
 俺のことを飽きもせずにずっと見ていたからか、奴はボロを出した。
 それは俺が眠っていたときだ。
 シンディの屋敷から約500m先の家屋の上。
 俺を対象とした魔法――監視魔法《静寂なる瞳サイレントアイ》。それの魔力跡が残った。


 そのミスさえしなければ、俺は存在を確信出来なかっただろう。
 この俺をここまで誤魔化す程の使い手。


 そいつは、今この瞬間を狙い、俺に急接近してきた。




 騎士と姫が進む道の暗闇から街頭の光の下に姿を現した。


 黒い外套を身に纏っており、薄っすらと見える口元から奴の殺気、魔力が溢れていた。




「だっ、誰ですか?」




 姫は俺の腕にしがみつき、怯えた声をあげる。
 俺の腕にぎゅっ、と力を込める姫の頭を優しく撫でる。
 この子は、力を持たない一般人だ。巻き込んでしまったからには、指一本も触れさせやしない。




 姫の問い無視して、奴は言う。




「……その女、邪魔だね」




 高く透き通った女性の声。
 奴が右手をかざすと、氷の槍が2本、一直線で姫に向かって飛んでいく。


 ――中級氷魔法《氷結槍アイスランス


 氷魔法は、五代属性の水と火を複合させた応用魔法だ。
 しかもそれを無詠唱で使用したようだ。




 俺は腰に携えている鞘から剣を抜き出す。
 今日、姫にプレゼントしてもらった業物。
 それに魔力を流し、より強固な剣に仕上げる。




 ――身体強化。




 氷の槍の動きは止まって見えた。ゆっくりと、スローモーションで姫の顔と心臓に向かっている。
 姫を庇い、2本の氷の槍が刀身に当たるように剣の位置を調整する。


 キィン。


 金属と氷が衝突し、高い音が響く。


 この一連のやり取りは、一瞬のうちに行われた。
 姫からすれば、何が起こったのかサッパリ分からないだろう。


「……凄い」


 ぼそっ。と、姫は声を漏らした。
 俺は、姫の手の甲を自分の口元に持ってきて、そこにキスをした。
 気分はさながら姫を守る騎士ナイトだ。




「どうだ?騎士ナイトっぽいか?
「ふふふ、ノアさんは本当にくだらない事が好きですね」




 ――ああ、そうだよ。


 自分のしたい事はノータイムで実行していくのが今世だからな。
 姫の表情からは、不安が消えニッコリと眩しい笑顔を見せる。




「……調子に乗るなよ。それはただの小手調べにすぎない」
「怒るなって、さん。お前ともちゃんと遊んでやるからよ」
「――なっ、お前……いつから気づいていた」
「3日前かな」
「ククク……お前は私が見込んだ以上の男だったよ。お前の魔力頂くぞ!」




 奴は、そう言うと俺に向かって駆け出した。左右に高速で動きながら。


「離れるなよ」


 そう言って、姫が俺の背後に来るように腕を動かす。


 奴との距離はもう間近。
 そこで奴は外套の中から、一本の短剣を取り出した。
 それを俺の顔面に向かって――突く。




 シュッ。




 顔と体をズラし、短剣を避ける。


 シュッ、シュッ、シュッ、シュッ。


 短剣は小回りが利きやすい。
 奴は何度も短剣を抜き差しする。
 それをギリギリで避ける俺。


 防戦一方なのは好きじゃないな。
 奴の腹に向かって蹴りを入れる。
 ――が、奴は後ろに飛び交わした。




「……いくよ……影魔法《陰湿なる手シャドウハンド》」




 影魔法だと?
 それは禁術になっているはずだろう。


 街灯の光によって伸びていた影から手の形の影が飛び出した。
 手の影はグングンと伸び出し……暗闇を伝って、俺の足元にまで到達した。
 《陰湿なる手シャドウハンド》は、対象の身動きを封じる魔法だ。


「あれ……ノアさん。体が動きません」


 不安そうな姫の声。
 確かにこの魔法は、対処法を知らない者からすると、無敵に見えるな。


 ――だが、この魔法には致命的な欠点がある。





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