元賢者の最強剣士 〜二度目の人生は自由に冒険者ライフを送る〜

愛犬ロック

第3話 旅立ち

 月日は流れ、俺は15歳となった。
 15歳を迎えると成人したということになる。
 これで晴れて俺も大人の仲間入りを果たした訳だ。
 身体も大きくなり、今の身長は170cmぐらいだろうか。
 まだ伸びるだろうが、剣士として生きていかなければならないため少なくとも後10cm欲しいところだ。
 そして、今日は旅立ちの日。
 冒険者になることを告げたとき、少し親バカな両親は反対するだろうと思っていたのだが。


「お前にはピッタリだと思うよ。小さい頃からしっかりしていたからね」


「ノアちゃんならきっと凄い冒険者になると思うわ〜」


 ……と、普通に許してくれた。
 これが愛情ってやつなんだろうか。
 前世では、俺が幼い頃に両親は魔物に殺されため、親と一緒に暮らすというのは初めての経験だった。
 思えば、この15年間、俺はとても幸せだったのかもしれない。
 家を出ると、村の広場には多くの人が集まっていた。


「頑張れよー!」「死ぬんじゃねーぞ!」「応援してるよー!」


 みんなからたくさんの声援を受けた。


「ついにこの日がきたな」


 領主の息子であるブラントは俺の前に立ち、感慨深い表情をしていた。


「ああ、そうだな」


「少し寂しくなるけどよ、この村は俺がちゃんと守るから安心してくれ」


「はは、頼もしいな。お前がそう言うなら俺も安心だ」


「……ノア、頑張れよ」


「おう」


 ブラントは目に涙を浮かべるが、それを隠すように背を向けた。
 ブラントは最初こそ生意気だったが、根は素直で良い奴だったので好青年に成長した。
 何だかんだこの村で一番仲の良い奴はブラントだった。
 俺の剣術もついでに教えてやったので、俺が5歳のときに倒したアウルベア程度なら討伐出来るだろう。


 そして、村の中を歩いて行くと、出口には両親が立っていた。


「ノア、これを受け取りなさい。中には100万ペルが入っている」


「どうしたんだよ、そんな大金」


「父さんと母さんでね、もしもの時の為に貯めておいたのよ〜」


「そしてそれを使うときが今ってことだ」


 こればっかりは少し俺も泣きそうになった。
 全く凄いな親ってやつは。
 それに貯めた金全部を息子にあげようなんて親バカが過ぎるってもんだ。
 しかし、俺のアイテムボックスには、既に換金できる素材が結構な量入っている。
 ……それに加えて、前世のときにぶち込んでた物も沢山あったので金に困る事は有り得ないのだ。
 なので、この100万ペルは自分達で使ってもらいたい。


「その100万ペルは受け取れないよ。俺は一人で冒険者として生きていくって決めたんだから」


「そんなこと言わずに持って行きなさい」


「なら1万ペルだけ貰っていくよ」


 父さんが持っていた小袋の中から1万ペルだけを抜き取る。


「もう、ノアちゃんはいつも強情ね」


「まあ、それがノアらしいと言えばノアらしいな」


 俺が折れない事を理解している両親は、目に涙を浮かべながら笑っていた。
 ……良い両親を持ったな。


「それじゃ俺もう行くよ。二人とも身体には気をつけて」


「ああ、頑張ってきなさい」


「たまには帰ってくるのよー」


 俺はたくさんの人に見送られながら、村を旅立った。


 これから俺の自由を満喫する旅が始まる。
 そう考えると、凄くワクワクしてきた。
 村の人たちの別れは確かに悲しいが、それ以上に俺は世界を周りたいのだ。
 まず初めに目指すのは、この村から一番近くの街エールケだ。
 300年前は、エールケなんて街聞いたことなかったので比較的新しく出来た街だろう。
 そこの冒険者ギルドで登録を行い、晴れて俺も冒険者の仲間入りだ。
 両親からもらった1万ペルさえあれば、一週間は生活に困らないだろう。
 それでも念のため早いところ換金などを行い、金を稼いでおいた方がいいだろう。
 金はいくらあっても困らないだろうからな。


 エールケまでの道中、何度か魔物に襲われるが、ここらへんは弱い魔物が多いので威嚇するとすぐに逃げ去って行った。
 そして暫く歩いていて気付いたが、エールケまで結構な距離がある事に気付いた。
 このペースだと到着する頃には日が暮れてしまうだろう。


「しゃーない。走るか」


 ただ走るのではなく、身体強化魔法を付与する。
 身体強化魔法は攻撃魔法のように階級が存在しないため加減が出来る。
 この身体で身体強化魔法を付与するときのコツは、出来るだけ強化しないように強化することだ。
 身体強化魔法を付与して、足踏みをする。


「うーん、こんなもんかな」


 少し身体が軽くなるぐらいの変化だ。
 その状態で思いっきり走ってみると、地面が抉れた。
 どうやら強くかけすぎてしまったらしい。


「加減が難しいな」


 軽く走り出すと、10分ほどでエールケが見えてきたので走るのをやめた。
 ここらで走るのやめとかないと驚かれそうだからな。
 走るのをやめた俺は、歩いてエールケに向かった。
 そして昼頃に俺は無事にエールケに辿り着いた。


 エールケは、10m程の石の壁に囲まれた街のようだ。
 随分と立派な街だな。
 こんな石の壁があるなんて昔は王都ぐらいだったような気がするぞ。
 街の規模もそれなりにでかいようだ。


「そこの君、もしかして冒険者になりに来たのかい?」


 街の入口である門を通ろうとすると、警備している衛兵に話しかけられた。


「そうだが、よく分かったな」


「格好がそれだからな。村から冒険者になりにやって来たって感じだ」


「まさにその通りだ。丁度いい、冒険者ギルドがどこにあるのか教えてくれないか?」


「ああ、最初から色々アドバイスしてやろうと思って声をかけたんだ」


「それは有難い」


 俺の知っている衛兵は、愛想がない奴らばっかりでこんなに親切なのは考えられない。
 やはり300年も経つと色々変化があるみたいだ。


「まず、冒険者ギルドだがこの街の真ん中にある。この道を真っ直ぐ進んでいけば大きな建物が見えてくるだろうから、それが冒険者ギルドだ」


「へぇー。冒険者ギルドってのは結構な大組織みたいだな」


「今じゃ冒険者を目指す奴は沢山いるからな。色んな仕事を受けてくれるから人手が多くて困ることはないんだろうさ」


「なるほどな。じゃ、ありがとな衛兵さん」


「おう。困った事があったらギルド職員に色々聞くといい。頑張れよー」


 衛兵と別れた俺は冒険者ギルドを目指して街を歩く。
 当たり前だが、村とは考えられないぐらいに人も多く活気づいてるな。
 食べ物を売っている露店が多く見られる。
 香ばしい匂いがするなと思い、その方を見るとたこ焼きという丸い食べ物が売られていた。


「なあ、これを一つくれないか?」


「はいよ。400ペルね」


 400ペルを払い、たこ焼が8個入った小袋とすごく小さな先の尖った木の棒をもらった。
 なるほど、これでたこ焼きをさして食べるんだろうな。


 たこ焼きを1つパクッと口に入れた。
 モグモグ。
 少し熱いが、かなり美味い。
 柔らくて口の中でとろけるような味わいで中に入っている具はタコか。
 あー、だからたこ焼きという名前になるのか。
 こんなに美味いものがあるなんて感動したぞ。
 時の流れというのは偉大だな。
 せっかくだからもう1つ買っておこう。


「おっさん、これもう1つくれ」


「はっはっは、気に入ったか坊主。サービスで1個おまけしといてやる」


「サンキューおっさん」


 もう1つ購入した俺は、たこ焼きを食べながらギルドに向かうのだった。

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