死にたがりな美少女(ボク)と残念貴族
Ⅸ.試着室にて Side:蓮
「えっと……これでいい、のかな」
試着室内、昴から受け取ったメイド服を着て、小さく一回り。ロングのスカートがふわっと軽く浮き上がる。それを見た昴は、
「大丈夫」
小さく何度か頷き、
「ちょっと待ってて」
持っていたバッグの中を探る。
「えっと、何を」
「あった」
やがて昴は目当てのものを見つけたのか引っ張り出して、
「はい」
蓮に掲げて見せる。昴が取り出したのは、
「……それは、カツラ?」
否定。
「ウィッグというらしい」
「は、はあ……」
蓮ははっとなり、
「も、もしかして、それ、僕に付けろと?」
「そういう事」
「そういう事って……そもそも、それ、どうしたの?」
「雅に渡された」
「あの人か……」
昴は手に持ったウィッグを蓮に押し付けて、
「さあ」
「いや、さあ、じゃないって……」
「でも、蓮は女子校に通う」
「それは、まあ」
「だったら、今のままじゃ駄目」
そう言われた蓮はとっさに、試着室に備え付けられた鏡を見る。一応「髪が短い女の子」と言えばそう見えなくもない。しかし、それはどっちかというと着ている服に引っ張られての印象だ。これが制服や私服になったらどうだろうか。蓮の場合、疑われたらアウトなのだ。何せその体が動かぬ証拠になってしまう。服を全部脱がされたらその時点でアウトだ。だとすれば、
「分かった。分かったよ……」
蓮は覚悟を決めてウィッグを受け取る。
「他にも色々預かってきてる。パッドとか」
そう告げる昴。その顔はどことなく楽しそうにも見えた。
◇ ◇ ◇
ウィッグを被り、自然に見えるように調節し、蓮は鏡を見る。
「うわぁ……」
「似合ってる」
二人の感想は180度逆だった。鏡に映っているのはあくまで「メイド服を着て、ウィッグを被っただけの蓮」だ。それ以上でもそれ以下でもない。そのはずだった。
では、これは誰だ。少なくとも三菱蓮その人には見えない。今鏡に映っているのは「ロングスカートのメイド服を着た、黒髪ロングの正当派美少女が、ちょっぴり恥ずかしがっている様子」だ。決して「三菱蓮という男が、何を間違えたのかメイド服を着せられ、ウィッグを被らされた様子」には見えない。
昴はその姿をしげしげと眺めた上で、
「次は下着」
「まだあるの!?」
昴は全く動じず、
「勿論。雅に一式預かってきてる」
バッグを開いて見せる。その中には今蓮が付けている物以外のウィッグや、女性物の服、そして下着、更には、
「ねえ、昴」
「何?」
「水着が入ってる気がするのは僕の」
「はい、時間切れ」
逃げたな。という事は、
「水着今要らないよね!?」
有った。確実に有った。他とは色合いが違い目立っていたそれは間違いなく水着だったと思う。下着じゃない。しかも心なしか布面積が狭かった気がする。それは一体どこで必要になるというんだ。
昴は強引に、
「取り敢えず、下着を変える」
「いや、下着って……必要ある?」
昴は突然人差し指をぴっと立て、
「下着はね、凄―く重要なの。だって、そうでしょ?なんかのきっかけで、男物のトランクスとか履いてるってバレてごらんなさい?その瞬間怪しいってなるわよ」
そこで一旦止まり、
「……って、雅が言ってた」
「は、はあ」
どうやら今のは彼女のまねだったようだ。
「と、いう訳で」
昴は唐突にスカートの裾をがっしと握って捲、
「いやいやいやいやいや!」
必死で抑え込む蓮。しかし昴も負けじと、
「下着を付け替えるには、まず脱ぐ必要がある」
「そ、それは分かるけど」
「だから、脱がせる」
「何で!?自分でやるって!」
「でも、最終的に、きちんと付けたか確認する。だったら、全て確認しても変わらない」
「変わるよ!」
駄目だ。昴に「見られるのは恥ずかしい」と言った類の説得はまるで通用しない。それなら、
「と、取り敢えず一旦離して!これ、ここの服だから!」
「むう……」
流石の昴も一旦手を離す。取り敢えず、
「下着を付け替えるのは良いけど、昴が見てる必要は無いよね?」
「そう?」
「そうなの!要するにきちんと変えたって分かればいいわけでしょ?」
「それは、そうだけど」
「でしょ?それはちゃんと見せるから、付けるのは僕にやらせてよ」
「それは、良いけど……」
昴は抵抗する。
「でも、蓮に女性物の下着を付けられる?」
「そ、それは……」
言われてみればそうだ。流石にショーツは履くだけだろうから問題は無いだろう。しかし、ブラジャーはどうだ。あれは基本女性しか身に付けない下着だ。胸が膨らんでいないからという理由で付けない、という選択肢もあるにはあるが、それが女性として正しい選択なのかが蓮には分からない。
「やっぱり……」
再び、蓮の服を脱がせようとする昴を制して、
「と、取り敢えず、やってみる!それで駄目なら考えよう!」
昴は余り納得している様子では無い物の、
「……分かった」
取り敢えず引いてくれた。
◇ ◇ ◇
と、言う訳で。
「えっと……一応、付けてみた、けど」
付けられた。正直な所、ブラは結構悪戦苦闘した。途中昴に手伝ってもらうという選択肢も頭によぎったが、すぐにかき消した。
そして蓮は、何とかブラとショーツを身に着ける事が出来た。それは良いのだが、
(何これ……)
ショーツの柔らかく包まれるような感触。対してブラの、普段は決して感じる事のない、微妙に締め付けられるような付け心地。当たり前だが、どちらも蓮は未経験の物だった。
昴はそんな蓮を眺め、
「見せて」
「は、はい?」
「下着。見せてくれないと分からない」
「え、えっと……」
「早く。さもないと」
そう言って昴はじりじりと、
「わ、分かった!分かったから!」
蓮は慌ててスカートをたくし上げて、
「こ、これでいい?」
昴に見せる。そして、やってみて気が付く。これはとても恥ずかしい。単純なトランクス姿ならいざ知らず、今の蓮が身に着けているのは女性物のショーツ。しかも、雅が選んだのであろうそれは何とも可愛らしいピンク色。そんなものを履いているところを、出会って一週間も経っていない女子に見られる。何とも恥ずかしい。
「よっ……」
そして、昴はそんなたくし上げたスカートの下にもぐりこむ。
沈黙。スカートに隠れてしまい、蓮からは見えないが、恐らく今、昴は蓮の下半身、より正確にはそこを覆っているピンク色の布を眺めて、
「ふあっ」
瞬間。股間の辺りを触られるような感覚がする。突然の事に変な声が出てしまう。
「な、なにするの」
昴はスカートの下から、
「これは……?」
ふにふに。
「あっ……ふあっ……」
漸く分かった。昴は蓮の股間に付いているモノに触っているのだ。
「ちょ、ちょっと待って!」
「何?」
漸く昴が顔を出す。
「ど、どこ触ってるの!」
「陰嚢?」
「いや、そうじゃなくて……」
聞き方が悪かったらしい。蓮は改めて、
「何で触ったのさ!必要ないよね!?」
昴はこくんと頷き、
「でも気になったから」
「何で!?」
意味が分からなかった。そういえば、忘れがちだが彼女も年頃の女の子である。もしかしたら、そういう事に興味があるのかもしれない。
蓮は後ずさってスカートを下げ、
「と、取り敢えず、確認は出来たよね?はい、おしまい!」
「むー……」
昴は不満げに、
「まあいい。次は上を見せて」
そう言ってにじり寄、
『あのー……』
ろうとしたその時。外から声がする。
『えっと……何かお困りでしょうか?』
女性の声。恐らく店員だろう。そう言えばかなり長い間ここに居る気がする。しかも昴と二人で。きっと、外の店員さんはそんな事に気が付いて声を掛けたのだ。
「あ、えっと……大丈夫です」
『そうですか、それなら良かったです』
店員さんはそこまで言って、
『それで……つかぬ事をお伺いしますが、中にはお二人で……?』
「あ」
しまった。全く考えていなかった。試着室の外には昴と蓮。二人分の靴が有るはずだ。
『えっと……申し訳ないのですが、男女二人でのご利用はちょっと……』
そして、店員さんは、その靴から「男女二人」であるという事に気が付いてしまった。さあ、どうしよう。正直に申し出るか。蓮がそんな事を考えていると、
「えいっ」
「わっ」
昴がカーテンを勢いよく開け、
「女性二人です」
と言い張る。幸い、蓮の着替えは見えにくいところに有った。
「ええっと……」
店員さんは戸惑いつつも、メイド服を着た蓮をしげしげと眺める。そりゃそうだ。何せ蓮の履いていた靴は男物のスニーカーだ。女性が履いたらおかしいという訳ではないが、それを見たときに男が居ると思うはそう、変な事では無い。
そして、現実問題として、蓮は男だ。ここだけは変えることが出来ない。女装しなれている訳でも無い。男からみたら気にならない部分でも、女性の目から見たら分かってしまうかもしれない。そう考えると落ち着かない。蓮は身も心も縮こまって、その視線に耐える。心なしか顔も熱いような気がする。
やがて、彼女の中で一つの結論が出たのか、昴に向き直り、
「そう……ですね。でも、試着室は出来る限りおひとりでご利用ください。分からない事が有りましたら、私共に聞いていただければお答えいたしますので」
店員さんはそれだけ言ってその場を去る。やがて蓮はその場にへたり込み、
「き、緊張した……」
正直な所、生きた心地がしなかった。今の蓮がやっている事は単純にメイド服を試着しているだけだというのに。
「大丈夫?」
「一応……と、いうかありがとう」
昴は首を傾げ、
「何が?」
「さっきの事。ああいうのって、反応が遅れると怪しまれると思うからさ」
「そうなの?」
「そうだよ」
沈黙。
やがて、蓮は立ち上がり、
「取り敢えず、服買って帰ろうか。流石にこれ以上ここに居るのはまずいでしょ」
「分かった」
流石の昴もこれには同意して、
「それじゃあ、はい」
バッとワンピースを掲げる。
「……はい?」
「女装。しないと出られない」
「な、なん……で」
蓮は否定しかけて思い出す。先ほどまでの会話を。自分が店員に「女性」として認識されているという事実を。
「……はい」
昴が差し出したそれを、蓮は苦笑いで受け取った。
試着室内、昴から受け取ったメイド服を着て、小さく一回り。ロングのスカートがふわっと軽く浮き上がる。それを見た昴は、
「大丈夫」
小さく何度か頷き、
「ちょっと待ってて」
持っていたバッグの中を探る。
「えっと、何を」
「あった」
やがて昴は目当てのものを見つけたのか引っ張り出して、
「はい」
蓮に掲げて見せる。昴が取り出したのは、
「……それは、カツラ?」
否定。
「ウィッグというらしい」
「は、はあ……」
蓮ははっとなり、
「も、もしかして、それ、僕に付けろと?」
「そういう事」
「そういう事って……そもそも、それ、どうしたの?」
「雅に渡された」
「あの人か……」
昴は手に持ったウィッグを蓮に押し付けて、
「さあ」
「いや、さあ、じゃないって……」
「でも、蓮は女子校に通う」
「それは、まあ」
「だったら、今のままじゃ駄目」
そう言われた蓮はとっさに、試着室に備え付けられた鏡を見る。一応「髪が短い女の子」と言えばそう見えなくもない。しかし、それはどっちかというと着ている服に引っ張られての印象だ。これが制服や私服になったらどうだろうか。蓮の場合、疑われたらアウトなのだ。何せその体が動かぬ証拠になってしまう。服を全部脱がされたらその時点でアウトだ。だとすれば、
「分かった。分かったよ……」
蓮は覚悟を決めてウィッグを受け取る。
「他にも色々預かってきてる。パッドとか」
そう告げる昴。その顔はどことなく楽しそうにも見えた。
◇ ◇ ◇
ウィッグを被り、自然に見えるように調節し、蓮は鏡を見る。
「うわぁ……」
「似合ってる」
二人の感想は180度逆だった。鏡に映っているのはあくまで「メイド服を着て、ウィッグを被っただけの蓮」だ。それ以上でもそれ以下でもない。そのはずだった。
では、これは誰だ。少なくとも三菱蓮その人には見えない。今鏡に映っているのは「ロングスカートのメイド服を着た、黒髪ロングの正当派美少女が、ちょっぴり恥ずかしがっている様子」だ。決して「三菱蓮という男が、何を間違えたのかメイド服を着せられ、ウィッグを被らされた様子」には見えない。
昴はその姿をしげしげと眺めた上で、
「次は下着」
「まだあるの!?」
昴は全く動じず、
「勿論。雅に一式預かってきてる」
バッグを開いて見せる。その中には今蓮が付けている物以外のウィッグや、女性物の服、そして下着、更には、
「ねえ、昴」
「何?」
「水着が入ってる気がするのは僕の」
「はい、時間切れ」
逃げたな。という事は、
「水着今要らないよね!?」
有った。確実に有った。他とは色合いが違い目立っていたそれは間違いなく水着だったと思う。下着じゃない。しかも心なしか布面積が狭かった気がする。それは一体どこで必要になるというんだ。
昴は強引に、
「取り敢えず、下着を変える」
「いや、下着って……必要ある?」
昴は突然人差し指をぴっと立て、
「下着はね、凄―く重要なの。だって、そうでしょ?なんかのきっかけで、男物のトランクスとか履いてるってバレてごらんなさい?その瞬間怪しいってなるわよ」
そこで一旦止まり、
「……って、雅が言ってた」
「は、はあ」
どうやら今のは彼女のまねだったようだ。
「と、いう訳で」
昴は唐突にスカートの裾をがっしと握って捲、
「いやいやいやいやいや!」
必死で抑え込む蓮。しかし昴も負けじと、
「下着を付け替えるには、まず脱ぐ必要がある」
「そ、それは分かるけど」
「だから、脱がせる」
「何で!?自分でやるって!」
「でも、最終的に、きちんと付けたか確認する。だったら、全て確認しても変わらない」
「変わるよ!」
駄目だ。昴に「見られるのは恥ずかしい」と言った類の説得はまるで通用しない。それなら、
「と、取り敢えず一旦離して!これ、ここの服だから!」
「むう……」
流石の昴も一旦手を離す。取り敢えず、
「下着を付け替えるのは良いけど、昴が見てる必要は無いよね?」
「そう?」
「そうなの!要するにきちんと変えたって分かればいいわけでしょ?」
「それは、そうだけど」
「でしょ?それはちゃんと見せるから、付けるのは僕にやらせてよ」
「それは、良いけど……」
昴は抵抗する。
「でも、蓮に女性物の下着を付けられる?」
「そ、それは……」
言われてみればそうだ。流石にショーツは履くだけだろうから問題は無いだろう。しかし、ブラジャーはどうだ。あれは基本女性しか身に付けない下着だ。胸が膨らんでいないからという理由で付けない、という選択肢もあるにはあるが、それが女性として正しい選択なのかが蓮には分からない。
「やっぱり……」
再び、蓮の服を脱がせようとする昴を制して、
「と、取り敢えず、やってみる!それで駄目なら考えよう!」
昴は余り納得している様子では無い物の、
「……分かった」
取り敢えず引いてくれた。
◇ ◇ ◇
と、言う訳で。
「えっと……一応、付けてみた、けど」
付けられた。正直な所、ブラは結構悪戦苦闘した。途中昴に手伝ってもらうという選択肢も頭によぎったが、すぐにかき消した。
そして蓮は、何とかブラとショーツを身に着ける事が出来た。それは良いのだが、
(何これ……)
ショーツの柔らかく包まれるような感触。対してブラの、普段は決して感じる事のない、微妙に締め付けられるような付け心地。当たり前だが、どちらも蓮は未経験の物だった。
昴はそんな蓮を眺め、
「見せて」
「は、はい?」
「下着。見せてくれないと分からない」
「え、えっと……」
「早く。さもないと」
そう言って昴はじりじりと、
「わ、分かった!分かったから!」
蓮は慌ててスカートをたくし上げて、
「こ、これでいい?」
昴に見せる。そして、やってみて気が付く。これはとても恥ずかしい。単純なトランクス姿ならいざ知らず、今の蓮が身に着けているのは女性物のショーツ。しかも、雅が選んだのであろうそれは何とも可愛らしいピンク色。そんなものを履いているところを、出会って一週間も経っていない女子に見られる。何とも恥ずかしい。
「よっ……」
そして、昴はそんなたくし上げたスカートの下にもぐりこむ。
沈黙。スカートに隠れてしまい、蓮からは見えないが、恐らく今、昴は蓮の下半身、より正確にはそこを覆っているピンク色の布を眺めて、
「ふあっ」
瞬間。股間の辺りを触られるような感覚がする。突然の事に変な声が出てしまう。
「な、なにするの」
昴はスカートの下から、
「これは……?」
ふにふに。
「あっ……ふあっ……」
漸く分かった。昴は蓮の股間に付いているモノに触っているのだ。
「ちょ、ちょっと待って!」
「何?」
漸く昴が顔を出す。
「ど、どこ触ってるの!」
「陰嚢?」
「いや、そうじゃなくて……」
聞き方が悪かったらしい。蓮は改めて、
「何で触ったのさ!必要ないよね!?」
昴はこくんと頷き、
「でも気になったから」
「何で!?」
意味が分からなかった。そういえば、忘れがちだが彼女も年頃の女の子である。もしかしたら、そういう事に興味があるのかもしれない。
蓮は後ずさってスカートを下げ、
「と、取り敢えず、確認は出来たよね?はい、おしまい!」
「むー……」
昴は不満げに、
「まあいい。次は上を見せて」
そう言ってにじり寄、
『あのー……』
ろうとしたその時。外から声がする。
『えっと……何かお困りでしょうか?』
女性の声。恐らく店員だろう。そう言えばかなり長い間ここに居る気がする。しかも昴と二人で。きっと、外の店員さんはそんな事に気が付いて声を掛けたのだ。
「あ、えっと……大丈夫です」
『そうですか、それなら良かったです』
店員さんはそこまで言って、
『それで……つかぬ事をお伺いしますが、中にはお二人で……?』
「あ」
しまった。全く考えていなかった。試着室の外には昴と蓮。二人分の靴が有るはずだ。
『えっと……申し訳ないのですが、男女二人でのご利用はちょっと……』
そして、店員さんは、その靴から「男女二人」であるという事に気が付いてしまった。さあ、どうしよう。正直に申し出るか。蓮がそんな事を考えていると、
「えいっ」
「わっ」
昴がカーテンを勢いよく開け、
「女性二人です」
と言い張る。幸い、蓮の着替えは見えにくいところに有った。
「ええっと……」
店員さんは戸惑いつつも、メイド服を着た蓮をしげしげと眺める。そりゃそうだ。何せ蓮の履いていた靴は男物のスニーカーだ。女性が履いたらおかしいという訳ではないが、それを見たときに男が居ると思うはそう、変な事では無い。
そして、現実問題として、蓮は男だ。ここだけは変えることが出来ない。女装しなれている訳でも無い。男からみたら気にならない部分でも、女性の目から見たら分かってしまうかもしれない。そう考えると落ち着かない。蓮は身も心も縮こまって、その視線に耐える。心なしか顔も熱いような気がする。
やがて、彼女の中で一つの結論が出たのか、昴に向き直り、
「そう……ですね。でも、試着室は出来る限りおひとりでご利用ください。分からない事が有りましたら、私共に聞いていただければお答えいたしますので」
店員さんはそれだけ言ってその場を去る。やがて蓮はその場にへたり込み、
「き、緊張した……」
正直な所、生きた心地がしなかった。今の蓮がやっている事は単純にメイド服を試着しているだけだというのに。
「大丈夫?」
「一応……と、いうかありがとう」
昴は首を傾げ、
「何が?」
「さっきの事。ああいうのって、反応が遅れると怪しまれると思うからさ」
「そうなの?」
「そうだよ」
沈黙。
やがて、蓮は立ち上がり、
「取り敢えず、服買って帰ろうか。流石にこれ以上ここに居るのはまずいでしょ」
「分かった」
流石の昴もこれには同意して、
「それじゃあ、はい」
バッとワンピースを掲げる。
「……はい?」
「女装。しないと出られない」
「な、なん……で」
蓮は否定しかけて思い出す。先ほどまでの会話を。自分が店員に「女性」として認識されているという事実を。
「……はい」
昴が差し出したそれを、蓮は苦笑いで受け取った。
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