とある物書きの辛口批評

蒼風

3.『太陽堕としの迷宮踏破』著: テイク ジャンル:異世界ファンタジー(No.009)

まず最初に断っておきますが、本文は『第37話 贈り物』までを読んだ上で書かれた物です。従って、内容もそこまでの話となります。ご了承下さい。


さて、本題に入りましょう。本作はファンタジー物です。小説情報にも書いてある事ですが、「迷宮」がテーマ。それもただ迷宮が一杯存在する、という世界では無く、この世に存在するありとあらゆる物――例えば道具――までもが迷宮である、という話。


で、本題。本作を読んでいて気になった所は三点。


一つ目は、「迷宮」の定義。迷宮、という言葉に対して抱くイメージは人によって違いますが、まあ大体同じような物でしょう。迷路の延長だとか、RPG的ダンジョンだとか。そういうイメージを思い浮かべる人が大半でしょう。


問題は、本作特有の「迷宮」です。当たり前では有りますが、現実世界に置いて、買ったばかりの道具に迷宮が付属(?)している、という事は有り得ません。フィクションなのですからそこは良いんです。


ただ、あらゆる物に迷宮が存在するという設定がある割には、その影が見えないなぁというのがちょっと気になりました。一応、従来の「迷宮らしい迷宮」以外の「迷宮」も出てくるには出てくるのですが、そこまでポンポンは出てきません。


勿論、作中に存在する道具や建物は既に「迷宮」を「踏破した後」と考えれば不思議は有りません。辻褄は合います。


でも、だからといって、そういった「迷宮らしからぬ迷宮」が余り出てこないのは、微妙に気になります。例えばちょっとした小話ついでに道具の迷宮を踏破するとか。そんな描写があるだけでいいんです。それだけで、世界観がぐっと広がってくれるんじゃないかなぁと思いました。


二つ目は、上と少し被るのですが、「世界の定義」です。


本作には巧みな文章と共に、様々な「オリジナル用語」が登場します。例えば敵の名前だって、現実世界に存在するものでは決してありません。それら一つ一つにもきちんと詳しい設定があり、解説もなされているので感心してしまいます。


ですが、それらの要素がどうも点と点、それぞれ孤立しているような、そんな印象を受けました。イメージとしては真っ暗な部屋の中、それぞれ十分に離れた場所を小さな灯りでポツン、ポツンと照らしているようなイメージ。


勿論、話を進める上で「この要素をここで開示するわけにはいかない」という事があるのは間違いないでしょう。そこは暗いままで大丈夫です。


でも、そう言った大筋に関わらない、いや、大筋を支えるべき要素はきちんと真っすぐ照らしてあげるべきなんじゃないかなぁと思うんです。例えな部屋の入口から出口まで、細―く道を作るようにまずは照らしてあげる。そうするだけでぽつぽつと周辺にある光が大分生きてくるような……何だか概念的で済みません。


具体的な所で言えば、作中特有の力や能力の強弱を何となく見える形にする、でしょうか。別にスカウターのように明確な数字にする必要はありません。しかし、個々の敵と対峙する段階で「こいつは強いぞ」と言われるよりも、事前にその敵の強さについて分かる指標を出しておく。これだけで大分「強敵感」が出せるのではないかと思います。そういう強敵を倒すのがワクワクするんです。


最後に三つ目。これは些細な事ではあるんですが、視点の問題。


本作の文体は基本的に三人称です。だから一キャラクターの目線からずっと物語が語られるのではなく、どちらかと言えば神の視点、キャラクター達が会話している上から見下ろし、その状況を書き留めている、というタイプの文体です。


で、その文体なのですが、時折キャラクターの中に入っている――より具体的に言うならば「神の視点から書かれた感想」と、「キャラクター目線で書かれた感想」が入り混じっている――のです。


三人称と一人称が入り混じる、というのは良いと思うんです。自分もそういう文体で書いているので。


ですが、その場合、「感想」に関しては基本的に「キャラクター」に限定したほうがいいような気がします。誰も見ていない時はあくまで「俯瞰」から述べた「事実」で文章を作る。「感想」を入れるならば「誰が述べたのか」をはっきりさせる。そうしないと、個々人の「感じた事」が微妙にぼやけてしまうような気がします。ただ、自分は文章・文体については余り明るくないので、これも味だと言われるとそれまでではあるのですが。


勿論、文章が上手いので「え、これは誰が思ったの?」とはならないのですが、この辺りは秋山瑞人文体が何らかの参考になる……はず。『イリヤの空、UFOの夏』とか。既にそれを受けているのであれば済みません。


と、まあ色々書いてはきましたが、基本的な設定と話の進みに関しては全くいう事が無いと思います。カナヤとゼスの対比。迷宮という設定。照明の当たり方が断続的なので、全体像は垣間見る事しか出来ませんが、そこからでも丁寧に作られているのはよくわかります。


だから、後は上記の事を意識して、起承転結の盛り上がりを、より伝わりやすくしていく事が重要ではないかと思います。でも、持ってる物が良いっていうのはそれだけで大きなリードだと思います。


(作品URL:<a href="https://kakuyomu.jp/works/1177354054883312325">https://kakuyomu.jp/works/1177354054883312325</a>)

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