とある物書きの辛口批評

蒼風

1.『潜水艦に、さよならを』著: 異島工房 ジャンル: 現代ドラマ(No.005)

まず最初に断っておきたいのですが、本作に対して「ランク分けをする」という行為は余り褒められた物ではありません。ただ企画の性質もあり、一応「ここだろう」という形でランクを付けました。その点に関してはご了承ください。


さて、何でそんな事を言うのかというと、本作が非常に独特な作品だからです。独特、という表現からは掴みにくいと思いますが、個人的にはプラスイメージで使っています。


内容に関しては概ねタグや作品紹介の通りです。もうちょっと踏み込んで書くならば「異世界転生する前の主人公と、した後の主人公って同一人物?」とかそういう哲学的な話をふんだんに使った、ちょっと不思議な物語となっています。哲学的ゾンビとか、その辺りの話を思い出しました。結局あの辺を広げた作品はまだきちんと立てていませんが。


良い部分は単純です。キャラクターの心理とか、そのまわりの動きとか、その辺りが丁寧に描かれているという事。概ね、良作とされる作品はここがしっかりしています。ある意味ここが勝負といって良いでしょう。


後は、着眼点、でしょうか。哲学的な話って掘り下げれば掘り下げるほど面白くって、本当にその断片だけでも一つの話が出来る位なので、その辺りを拾って話にする、というのは良いと思います。何の疑いもなく行われていた異世界転生に対して、違う視点を持ち込んだ、というのも面白いです。


さて、ここまでが良い部分。ただ、ここからは別に「悪い部分」を上げる訳ではありません。どちらかと言えば「より良くするために、こういうのはどうだろう」という提案みたいなものだと思ってください。


ひとつめが「哲学的な話の扱い方」。これは何も哲学だけに限定した話では無く、ちょっとした専門知識が出てくる作品では大体該当すると思うのですが、基本的に専門知識は「はっきりと表に出す」か「下地として明確に後ろに下げる」か、どっちかにするのが良いと自分は考えています。具体例を挙げるとすれば前者が「シュタインズ・ゲート」で後者は「君の名は。」でしょうか。


どちらも規格外の売れ方をした作品ですが、その「専門知識の使い方」は実に対照的です。前者はTipsとして、常に確認できる形を取りつつ専門知識をガッツリと入れています(ちなみに制作にあたって大分勉強したらしいです)。一方後者は専門用語なんてほぼ出てこなかったと思います。でも、どちらも良く出来ているし、面白い。まあ前者に関してはそれ以外の要素、具体的には「起こりうるかもしれない未来に遭遇した人間」が繊細に書かれていた、というのもあるにはあるのですが、それでも専門知識を出しまくっているのは事実です。

で、本作。自分が見る限りだとやや「哲学的な話」が中途半端に前に出ていたかなぁと思いました。いっそのこと用語も使ってしまった方がすっきりして良いのかなぁという感じもしました。用語も出てて、長くないってのだと「紫色のクオリア」辺りでしょうか?


それと、もう一つ。上の事と関係していくるのですが、ちょっと主人公の実年齢と思考が乖離しているかなぁという風な感じを受けました。作品終盤ならともかく、作品の序盤は小学校、しかも低学年です。そんな年齢でこんな事を考えるかなぁとか思ったりもしました。この辺りは「そういうキャラクターだ」とか「小学生だって色々考えている」と言われればそれまでなので、あくまで個人的な「感じ」でしかないのですが。


と、まあ色々書いてはきましたが、自分にも「これ!」という明確な答えが存在していないというのが正直な所です。問題提起(という表現が正しいのかは分かりません)からして今までにはない物で、そこからさらに違う要素も付け加えて、となると、自分としてもどこに置いたら良いのか。そして、どうしていけばいいのか。その辺りに迷いが出るというのが感想です。


ただ、一つだけ言えるのは、着想としては間違いなく新しいですし、自分が知る限りでは今までにない物だと思うので、パイオニアとしての可能性は秘めているのではないか、と思います。新しい物を作る方法を理論づけて、後から洗練する事は出来ても、新しい物自体を提示出来る人って少ないですから。


(作品URL:<a href="https://kakuyomu.jp/works/1177354054883047467">https://kakuyomu.jp/works/1177354054883047467</a>)

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