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ノベルバユーザー260614

14.自助から共助へ



◇ ◇ ◇





クロムと逢ってから、「約」半年が過ぎた。


「約」とわざと表現したのは、実際経過した時間はものの一ヶ月だからだ。


俺はあれから時間停止と過去鑑賞を繰り返し、まさしく「最短」で物事を進めていた。


何をしたかと言うと…それは順を追って説明していこう。


だがその前に、だ。


物事を進めるには順番というものがある。


子どもが産まれてから声を発するまでに、まず親の言葉を聞くことから始めるように、


二次関数の問題を解くには、四則演算ができないといけないように、


そして、


人を円滑に動かすには、お互いの利害が一致していないといけないように。


だから「約」3ヶ月の間、俺はひたすら過去鑑賞の能力で――人を観察した。


その中で分かったことは、この世界の3大権力の構図だ。


王族と貴族からなる「政権」

冒険者や商人を統括する「ギルド」

民を代表する「教会」


この3大権力のそれぞれトップである、


「アルタン王三世」

「ギルド長 ダリル・マークス」

「マリウス総主教」


俺はまずこの3人に近づき、過去を――拝見させてもらった。


別に過去を覗いて弱みを握り、脅そうって話じゃない。


その人の生き方や目的、人柄を知ることは「上手くやる」上で必要なことだからだ。


アルタン王は、先代の二世の意思をそのまま受け継ぎ、民のために尽力している善き王だ。


50年前の魔族襲来の被害から王国再建に力を注ぎ、争いのない平和のために努力を惜しまない。


ただ、貴族に限ってはそうはいかないようだった。


彼らは王の意向に従うフリをして、甘い汁をすすっている者も多い。


そして、その貴族と密接な関係にあるのが「ギルド」だ。


ギルド長であるダリルは、良くも悪くも資本主義的で、金の亡者というイメージがある。


各街にあるギルドの支部を統括する彼だが、同時に各商会も牛耳ってもいた。


国家を形成するのは人であり、金であり、経済だ。


言わば、経済を支配することは、そのまま国を支配することにも繋がる。


その抑止力として貴族の存在が大きいのだが、その貴族もまた――金の力には抗えない、といったところだろうか。


ただもう一つの抑止力として動いているのが、「教会」である。


総主教であるマリウスは、各所に点在する教会を運営し、民に教育を行なっている。


民の声を王の耳に届ける役割を持ち、時には王でさえもマリウスの言葉に抗う術を持たない。


それは「聖典」と呼ばれる絶対の規約が存在するからであり、その規約を犯す者は、たとえ王であっても処罰の対象になるからである。


この3勢力が常にバランスをとることで、秩序は保たれ、平和が構築されている。


そう…表面的に見ればとても「平和」なのだ。


例えば、だ。


もし、悪意を持った転生者が、この3人の誰かに成り代わったとしたら?


王が独裁心を持ち、聖典が意味を無くし、紙幣がただの紙切れになったとしたら?


魔王でなくとも、この国が崩壊することなんて容易い。


人の手で作られている以上、人が壊せないことなんてないのだ…。


とまぁ、ここまで話してもう一度言うが、別に俺はこの国を乗っ取りたいという訳ではない。


俺にとっては仮の世界。


言わば――娯楽なのだ。


では、俺はどうしてこの3人の過去を観たのか…。


それは――







◇ ◇ ◇





__バルムダール/アルタン王国/南の街サウム/ヴァンの家__




「…生命保険?」


「はい。今日から生命保険会社を設立しようと思うんです」


「カイシャ? ってなんですか?」


リーナが目を点にしながら、?マークを浮かべる。


「会社っていうのは…うーん、何て説明したら良いんだろう」


俺はどう説明すればリーナに伝わるか考える。


「簡単に言うと、共助の組織のことですね」


「組織って人が集まることですよね?」


「うん。例えば俺とリーナさんが、このスラムを毎日掃除します!と目標を立てて、毎日掃除したとします」


「は、はい…」


「でもそれだと、ただ働きになってしまいますよね?」


「そうですね」


「でも俺たちが掃除をする代わりに、他の人は掃除をしなくて良いってことになりますから、その分お金を貰うという風に話し合って決めたとします」


「お金を…貰う」


「そうすれば、俺たちはお金を貰えて、スラムの人は掃除をしなくて済む。お互いに良いことになるんです」


「それは何となくわかりますけど…つまり会社ってどういうことなんですか?」


「一番は、俺たちは会社に雇用されて、働くことができるってことです」


「こ、雇用? また私には難しい単語が出てきました…」


「1人で働くとなると、色々なリスクがありますよね。例えば、リーナさんが突然病気にかかってしまったらもう仕事はできないし、そうしたら当然生きるためのお金も稼げなくなります」


「そうなりますね」


「でも会社という形にすることで、俺が働けば、リーナさんの給料…つまりお金になるんですよ」


「んん? つまり私が病気の間は、照様が働くから…私のお金になる?」


「そうです」


「分かるようで分からないです…うう」


リーナは、頭を抱えながら必死に理解しようとしていた。


「1人はみんなのために稼ぎ、みんなは1人のために稼ぐ。その支え合う仕組みを共助と言って、働く人が多ければ多いほど、貰える給料は少なくなりますが、その分働けなくなった時のリスクを補うことができるんです」


「確かに、スラムの人は人数が限定されてますから、稼げるお金は一定ですね」


「なので、事業を拡大――つまりスラムだけでなく、例えば南の街全体にエリアを拡大すれば、もっとお金を稼ぐことができますし…」


「その分、雇用する人も増やさないといけない、ってことですね!」


「お、やっと理解できたようですね」


「えへへ」


俺に褒められ、嬉しそうにニヤけるリーナ。


「そしてその共助の最たるものが、この生命保険なんです」


「それはどういうものなんですか?」


「生命保険というのは、死んだ時に自分の家族にお金がいくようにするためのものなんですよ」


「…ごめんなさい、よく分からないです…」


「例えばそうですね…俺とリーナさんが夫婦だとします」


「ふ、ふうふですかっ!」


突然顔を赤らめて慌て始めるリーナに、俺も思わずドキっとする。


「た、例え話ですから、ね?」


「そ、そうですよね…! 大丈夫です、つづけてください!」


「う、うん。俺とリーナさんが夫婦で、子どもがいるとします」


「こ、こども…」


聞いているのかいないのか分からないリーナだが、俺は話を進めることにした。


「それで俺がリーナさんとその子どもを養うために、毎日仕事をしているとしますよ?」


「はい!大丈夫です、ちゃんと聞いてますので!」


「大丈夫かなぁ…。ただ、ある日突然、俺が事故で死んでしまったとします」


「照様、死んじゃダメです~!」


「話しが進まなくなるからやめて…」


「えへへ、すみません」


「そうすると、リーナさんはまだ小さな子を抱えながら、その子のために仕事をしなくてはいけなくなりますよね」


「そう…なりますね。でも私テリちゃんのために頑張ります!」


テ、テリちゃん?


「えっとそうじゃなくて…。でも俺が生命保険に入っていたら、その会社からリーナさんにたくさんのお金が入るんですよ」


「つまり……どういうことですか?」


再び?マークを頭に浮かべるリーナ。


「俺はその生命保険の会社に、毎月少しずつお金を払っていたんです」


「…と言われましても、いまいちピンとこないです」


「俺と同じように、毎月少しずつお金を払う人がたくさんいれば、その会社にたくさんのお金が集まりますよね?」


「はい」


「そのお金は、誰かが死んだとき――この場合俺になるわけですけど、その人にお金が支払われる。言わば、死ぬとお金が戻ってくるシステムなんです」


「な…なるほど! 分かったような気がしてきました!」


「そうすれば、リーナさんも子どもも、お金のことは心配せずに安心できるわけです」


「良かったでちゅねー、テリちゃん」


いつの間にか架空の子どもを抱えながら、しかも名前までつけてあやすリーナ。


「でも…大切な人が死ぬのは辛いですけど、大切な人を守れずに死ぬのはもっと辛いです…」


そう言って、リーナはふっと目を細め、哀しい顔をする。


「…そのためにも、生命保険というシステムが必要だと俺は思うんです」


「はい! 照様ならきっと作れますよ、いえ必ずです…」


さっきまで陽気だったリーナが、力強い目で俺を見つめる。


その真剣な眼差しに、俺は最後の背中を押されたような気がした。


「でも…」


「ん?」


「そんな頻繁に事故が起きるとは限りませんし、平和なこの国で、自分が死ぬ時のためにわざわざお金を払ってくれる人っているのでしょうか…?」


そう尋ねるリーナに、俺は――微笑んで返事をした。




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