ZENAK-ゼナック-

ノベルバユーザー260614

9.善意と悪意


俺の残りポイントは4670。神父のポイントは6665908だ。

これは検証だ。どのような時にポイントが増加され、減少するのか。

俺は神父の顔面を――軽く、とても軽く殴ってみた。

――バキッ!

4612

俺は自分の頭のポイントを確認すると、減少していた。

神父の右頬が少し歪んでいた。

うん。これだとせっかくの顔が台無しだな。

次に、より「悪意」を込めて左頬を殴る。

――バゴッ!

あくまでこれは検証ですからね?

ポイントは先ほどよりも減少し、4305と表示される。

両の頬が晴れ上がっている神父を見て、俺は気分が良かった。

人を殴るという行為がこんなにスカッとするなんて。

「…大分我慢してたんだな俺」

なるほど、悪意の量に比例してポイントの減少量が変化するということか。

ただ、これでは俺は殴ってもいないのに、さっきコイツが俺の抱いた悪意を読み取った理由が説明できない。

俺は無表情のまま、冷酷で、残酷に、ただ「死ね」と目の前の汚物に吐き捨てる。

数秒して鏡を確認すると、

――4006と表示されていた。

あまりにも冷徹でサイコパスな表情をする自分の顔がチラっと見えたが、何も感情が湧かなかった。

俺は今と同じようにあのとき殺意を抱いた。コイツは俺の頭の上を見て、そう捉えたのだろう。

俺はカタログを開く。

購入履歴を確認すると、最後の欄には、

リンゴ×86880

とだけ表示されており、カタログから何かを購入したことによる減少ではないことが分かる。

ここまでで分かったことを整理したい。

善意や善行は、相手が「善意である」と認識した時に初めてポイント付与として行使者に還元される。

反対に悪意や悪行は、行使者が「悪意である」と認識した時にポイント消費という形で還元される…ということだ。

では、

相手が「悪意ではない」と認識した上で悪行が行なわれた場合はどうなるのか――。

俺はある方法を思いつく。

その準備として、俺は再度麻酔銃をポイントで購入し、まずリーナに眠ってもらった。

これから俺がすることを彼女に見られてたくなかったからだ。

そして、「戻れ」と言葉にし、時を戻す。

……

「――戻っている!?」

「おい神父」

俺はリンゴに埋もれ、化け物でも見たような表情で驚く神父に吐き捨てる。

「貴様…何をした! どんなスキルを使ったんだ!」

「今から10秒、時間をやる」

「何を言って…おい!信者ども! こいつを…奴を取り押さえろ!」

「お前が選択できるのは2つだけだ。ここでゲームオーバーか、ここで一生を過ごすか」

「貴様、覚えてろよ…今にもう一度、私に指一本触れなくさせてや…」

「止まれ」

俺はふぅと息をつき、リンゴの山を必死にかけわけて俺を取り押さえようとする信者たちを、麻酔銃で全員眠らせる。

「…戻れ」

「――る! おい信者ども!何をもたついて…!?」

神父が辺りを見渡すも、誰1人起きて異端者を捕まえようとする信者はいなかった。

「おいガース! め、メリウス! ルーク! 急にどうしたんだ! 何故寝ている!」

「もう一度言う。ここで俺に殺されてバーヌムに戻るか、死ぬことも生きることもできずにこの棺桶の中で過ごすか…だ」

「ヒッ…」

顔を引きつらせる神父に、ありったけの悪意を込めて俺は告げる。

俺の頭の上のポイントは、おそらくとてつもない早さで減少しているだろう。

「そ…そんなことしてみろ! お前のポイントがぜ、0になるぞ!」

「10、9…」

「お前は俺の信者に――」

ガッ!

俺は神父の首をつかみ、言葉を封じる。

「無駄だ。そのスキルは俺には二度と通用しない」

「…がはっ!」

手を離し、カウントを続ける。

「ま、まて! 一生をか、棺桶でって…そんなことできるはずがない!」

「俺は時を止めることができるスキルを持っている。でなきゃ一瞬でお前の信者を眠らせたりはできない」

「…そ、そんなバカな…!」

「4、3…」

「わ、わかった! お前の言う通りにする! だからもうカウントは止めてくれ!」

「2…」

「まて! こ、殺してくれ! 頼む!」

「1」

「お願いします! 殺してください!」

神父がそう願った瞬間――。

ぐしゃり。

頭上から降って来た鉄球にトマトのように潰され、神父は絶命した。

……




◇ ◇ ◇



__バルムダール/アルタン王国/南の街サウム/教会__



「…ん ここ…は」

睡眠薬の効果が切れたのか、リーナが目を覚ます。

「リーナさん。良かった、目が覚めて…」

「ここは!? ハッ…照様! 声が…大丈夫なんですか!?」

ガバッと起き上がったリーナは、身に起きたことを把握しようと次々に質問する。

「安心してください。全て終わりましたから」

「終わった……そうなんですね。 ……ッ!」

ホッとした瞬間、リーナは頭を抱える。突然降って来たリンゴの衝撃が残っているのだろう…。

「そうだ、たくさんのリンゴ…! あれは照様がやったんですよね!?」

「う…うん。あれしか方法が思いつかなくて、リーナさんにも被害が…。ごめんなさい」

「いえ、そんなことは! こうして照様の声も元に戻ったことですし…生きているだけでも奇跡です」

そう言ってニコッと笑うリーナに、少しドキッとする。

本当に、リーナが生きてて良かった。

「よかったです……本当に、照様が生きていて…」

そう言ってリーナは俺の胸に抱きつく。

…その目からは涙が流れていた。

「…うん。リーナさんが無事で良かった」

俺はそっと髪をなでる。手からはリーナの温もりと不安が伝わってくる。

「それにしても、どのようにしてあの方の呪縛を破ったのですか?」

リーナが涙を拭い、顔を上げる。

「これがアイツの、神父のトリックだったんだよ」

そう言って俺はポケットからテープを取り出し、再生する。


「あなたハ……もう……シンジャ……でハ……ナイ」


「これって…あの方の声? ですよね?」

「うん。テープレコーダーって言って、人の声や音を録音して再生できる道具なんだ」

「テープ、レコーダー?」

「アイツは言葉で強制的に信者として操っていたんだ」

「言葉で…ですか?」

「そう。リラク街道でアイツと話をしていた時、『あなたが私の信者になれば』って俺に言ってたでしょう? あの時既に俺は信者になっていたんですよ」

「声が出なくなったのもあの方の能力…のせいなのでしょうか?」

「うん」

「そうだったんですね…。それで、その不思議な道具で解くことができたのですね…」

リーナはまじまじとレコーダーを見ながら言う。

「この声はアイツがスラムに来た時に、ヴァンに協力してもらって録音したんだよ」

「それではヴァンにも、とびきりお礼をしないといけないですね…ふふ」

そう言ってリーナは俺に近づき――。

頬にキスをした。

「え…り、リーナさん!?」

「今のは…その、お礼……です」

頬を赤らめて言うリーナに、顔が熱くなるのを感じる。

「ささ! 私はもう大丈夫なので、早くヴァンとグランおじさんのところに戻りましょう!」

リーナは立ち上がり、出口に向かって歩く…。

俺がした選択は、間違ってはいなかったのだろうか。

もし、俺が神父にしたことをリーナが見ていたら…

それでもリーナは今のように、俺に感謝してくれるだろうか。

俺は右頬に感じる温もりをそっと確かめながら、リーナの背中を追った。


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