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ノベルバユーザー260614

8.異端審問



◇ ◇ ◇


「おい!起きろ! 信者様たちが広場に来てるみたいだぞ!神父様も来てるってよ!」

それからさらに3日が過ぎた朝、ヴァンが耳元で叫ぶ。

俺はその言葉を聞いて思わず飛び起きた。

リーナに知らせなくてはいけない。

すぐに身支度を済ませ外に出ようとすると、驚いた顔をしたリーナと鉢合わせする。

「照様!神父様がスラムに来ているようですっ!」

俺はコクリと頷く。

聞くところによると、月に何度か、教会から何人かの信者がスラムの子どもたちに「施し」をしに来るのだと言う。

スラム中の子ども達が使い古された鍋を持って、広場に集まる姿が見える。

普段は顔を見せないが、今日は特別に神父も居るようだった。

…俺たちを探しに来たか。

「2人ともこんなところで何してんだ? 俺は先に行ってるからなー!」

ヴァンも鍋を持って駆け出していく。

「どうしましょう…。早くスラムから移動しないと…」

いや、姿を隠して奴の様子を見よう。確かめたいことがある。

俺はそうリーナに伝える。

「それは危険です! また捕まりでもしたら次はどんな目に遭うか…」

俺は、リーナにここで待っているよう伝え、広場へと向かった。

「ちょっと…照様!?」

……



◇ ◇ ◇



__バルムダール/アルタン王国/南の街サウム/スラム広場__


「…これは偉大なる神からの施しである。感謝して食しなさい」

「ありがとう…ございます」

大勢の子どもが順番に食べ物を受け取る中、俺は建物の影からその様子を見ていた。

「ねぇ神父様ー? 今日はどうして神父様も来られたんですか?」

「ん? あなたは…名前は?」

「ヴァンです!」

「そうかヴァン君だね。それはだね、ある人物を探していてね。そうだ、キミは知っているかな? 男は背丈がこのくらいで、女は修道服を来ているんだが…」

「いえ、そんな人知りません。泥棒とかですか?」

「いや、泥棒ではないんだが…ふむ、そうか…。もし見かけたら私か信者たちに教えて欲しい。いいね?」

「わかりました! それと神父様はこのご飯は食べないんですか?」

「あはは! キミは変わった子だねぇ。ありがとう。でもね、私はもうお腹が一杯でね…キミたちが食べなさい」

「いただきます! 神父様ありがとうございます!」

……

「ちゃんと聞いて来たぜ。あれで良かったのか?」

戻って来たヴァンに約束のパンを渡しながら、俺はコクリと頷く。

「まぁ俺はメシが貰えればそれだけで良いんだけどよー」

そう言いながら、パンを口に加えて家に戻るヴァン。

ヴァンの仕事は上出来だった。あとはこれを――。

次の瞬間、突然身体が固まり、自分の意思では動かせなくなる。

何が起きたんだ!?

考える間もなく、身体が引っ張られる感覚がするも、全く抵抗ができない。

自分の意思とは無関係に、足が前へと動いていき、やがて広場の方へ姿を出してしまう。

「おやおや、やはり近くで見ていましたか…」

「「あれが…みろ…異端者…あれが異端者か…」」

ざわざわと人が集まり、俺に向かって視線が集まる。

「そうです、あれが神を冒涜した者です。言ったでしょう? 神の前では逃げも隠れもできないのだと」

「「本当にこのスラムにいたのか…異端者め…コソコソと隠れていたのか…」」

衆人たちは、汚らわしいものを見るような目で、俺を睨みつける。

注目を浴びながら、意思に反しながらもゆっくりと神父の元へと足が歩いていく。まるで自分の足ではない感覚に恐怖を覚える。

「久方ぶりですね。…照クン?」

不気味な笑顔を浮かべながら神父は言う。

「それはもう探しましたよ。どこに、誰に、かくまってもらっていたんですか?」

「………」

「おや…私としたことが、そうでしたね。神が発言を禁じていたのでした。…まぁ良いでしょう。抵抗できないよう、この者の手を縄で縛るのです」

そう言うなり、数名の信者がロープを持ち出し、俺の両腕を縛りあげる。

「……っ!」

「さぁ教会へ戻りますよ…」

「お待ちください!!」

無抵抗なまま雑に連行されようとした時、声をあげたのは――リーナだった。

「その方を離してください! 連れていくなら私を…!お願いします!」

「おやおやまぁまぁ。わざわざ出てこなければ逃がしてあげたものを…ククッ!」

「お願いです! 照様は異端者なんかじゃありません! 私が彼に命令しただけなのです…!」

必死に俺をかばうリーナ。俺は何も言えない代わりに、目でリーナに訴えかける。

「そいうことなら、尚更あなたも連れていかなければならないですねぇ」

「私が代わりに…!だから照様を離してください!」

「それは無理なことですよ。あなたたち、彼女もお連れしてあげなさい」

「そんな…! キャッ!」

「異端者を庇うなど、異端者のすることでしかない。恨むなら罪を犯した彼を恨むのですね」

…くっ!

俺を助けようとしたリーナも、なす術なく縄をかけられてしまう。

考えろ…考えるんだ! この後起こるであろう出来事と、この場を切り抜けるための最後のピースを…!





◇ ◇ ◇



__バルムダール/アルタン王国/南の街サウム/教会地下__



「今より、神を冒涜したこの愚か者達に、裁きの時間を与えん――」

俺とリーナは数名の信者に囲まれ、後ろ手に縛られ、身動きを封じられたまま棺の上に立たされている。

目の前では、忌々しい神父が仰々しく聖書を片手に、不気味な笑みを浮かべている。

「離してください! これは何かの間違いです! そうに…決まっています…!」

リーナが必死に抵抗するが、もう半ば諦めているのだろう。先ほどよりも語気が弱くなっている。

「照様…」

リーナが俺の顔を見る。

「わたし…短い間でしたけど、照様と会えて…ほんとに…」

それ以上言うな。俺は良いんだよ。そう、死んだとしてもまたあの死後の世界に戻るだけなんだから…。

俺はただ虚しさだけが残っていた。

俺のせいで…。俺は関係の無いリーナを苦しめてしまっている。

例えここが現世でなく、仮の世界だとしても…何一つ救えない罪悪感で一杯だった。

「汝らは、まがい物を神の力と偽り、民を苦しめ、欺いたのだ。それはまさに神への冒涜である!」

だからこそ、リーナを死なせるわけにはいかない。

俺は目の前でつらつらと話す神父に――殺意を覚えた。

善意なんてどうだって良い。

ただコイツがいなくなれば…それだけで良い。

「何だ貴様…。神に背いた上に、まだ反抗する気か?」

ぐは…っ!!

思い切り脇腹に蹴りを入れられ、激痛が走る。

「照様! …照さまっ!」

「これは異端審問だ。罪を認めれば苦痛なく楽になれるものを…」

「……っ!」

「ん? 貴様、いま私に悪意を抱いたな? それとも…殺意か?」

見透かしたように俺を見下す神父。

「だとしても、私には逆らえないのだから、そこで大人しくしているんだな…!」

再び足蹴りされ、体勢を崩した俺は棺の中に倒れ込む。

「さて、そろそろ終わりにするとしますか」

そう言って信者に命令を下そうとした時――。

「お待ちください、神父様」

予想だにしなかった人物の声とその内容に、この場にいた全員が止まる。

「ガースか。何故止める? くだらない理由なら貴様も異端者として裁きを受けるのは覚悟しているんだろうな?」

「神父様、これを…」

ガースと呼ばれた男が神父に何かを渡すのが見えた。

キラキラと輝くそれは、俺が牢から脱出した時に忘れてきたネックレスだった。

「…このネックレスがどうかしたのか?」

「これは、牢屋で倒れていた信者の近くで転がっていたものです。おそらく奴らが持っていたものだと…」

「それは本当か?…ふむ、なるほど。そういう手もあったな」

何か閃いたのか、神父が俺に近づき、耳打ちをする。

「おい転生者。カタログで金を買えるだけ買え。そうすれば女の命だけは助けてやる」

…くくっ。

俺はその言葉を聞いて、思わず笑みがこぼれる。

あぁいいぜ。

「我が誠実なる信者たちよ! 今、神よりお告げがあった! 天から我々に贈り物が与えられるとな! みな一つ残らず受け取るのだ!」

神父の言葉を聞き、信者たちが一斉に天井を見上げる。

その瞬間…

ボトッ――。

「ん? なんだこれ?」

信者の1人が呟く。

「…りんご?」

その声を皮切りに、次々と天井から大量のリンゴが降り注ぎ、信者たちに襲いかかる。

数百、数千、いや数万というリンゴの雨が、教会を埋め尽くす。

呆気に取られた神父とその信者たちは、リンゴの波に押しつぶされながら必死に抵抗するも、圧倒的な数の暴力になす術がない。

その隙に俺はナイフを購入し、手の縄を切断する。

「貴様――! よくもやってくれたな!」

そう言って神父がリンゴの山から顔を出した瞬間――。



「あなたハ……もう……シンジャ……でハ……ナイ」


「これであんたは終わりだ」

イチかバチかの賭けだったが、この賭けはギリギリで俺が勝ったようだった。

「ま、まて…なぜ言葉が――」

「時よ…止まれ」




◇ ◇ ◇




カチッ

キュルキュルキュル――

……

カチッ

「あなたハ……もう……シンジャ……でハ……ナイ」

どうやら上手くいってくれたようだ。

俺はテープを巻き戻しながら、頭の上のポイントを鏡で確認する。

「にしても、さすがに買いすぎたかな。ポイントほとんど残ってねーや」

そうだ…リーナ!

俺はリンゴの山のに埋まっているリーナを救出し、縄を切る。

幸いリンゴは俺を避けて落ちてきたのか、近くにいたリーナには外傷もなく、無事なようだった。

「これがリンゴじゃなくて鉄球とかだったら、マジでヤバかったな…」

俺はそうつぶやきながら、リンゴを一つかじる。

うん、甘くて美味い。

さて、コイツをどうするか…だな。

リンゴの山に埋もれてかろうじて顔を出している神父をまじまじと見下ろす。

一つ気になったことがある。

それは、この「善意」こそが中心である世界で、正反対の「悪意」は存在するのか、ということだ。

いや、存在はするのだろう。現にさっき俺は神父に対して殺意を抱いたのは確かだ。

善意は徳ポイントとして還元される、とバーヌムの老人は言っていた。

それならば、人に危害を加えるといった「悪行」は、どのようにして俺に還元されるのだろうか。

俺はこの異世界・バルムダールにくる前からずっとそれが知りたかったのだ。

そしてもう一つ、俺が神父に対して殺意を抱いた時に、奴は気付いていたこと。

そして最も重要な点は――。

奴のポイントが極端に増えているわけでもなければ、極端に減っているわけでもない。ということだ。

俺は神父の元に近づき、改めてコイツのポイントを見る。

「やっぱりおかしいよな…」

最初にコイツに会った時と多少増えてはいるが、そう多くはない。

…考えられることは二つ。

一つは、神父はここ数日、ほとんど善行をしていない。言うなれば、信者たちを利用して善意を集めていないということ。

もう一つは、増加はしているが、カタログで購入をして消費したか、もしくは何かしらの形で減少もしている為、あまり変化していないように見えているということになる。

俺は二つ目の可能性が高いと思っている。

そして、それを検証するにはもってこいなシチュエーションだという事も…ね。


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