ZENAK-ゼナック-

ノベルバユーザー260614

4.スキル覚醒

……

目に見えるもの全てが凍ったように止まっていた。

店先でフライパンを振る人も、宙で踊る食材も、それを見る人も…

隣では、先ほどぶつかったと思われる男性が、驚いた顔で誰もいない場所を見ている。

時が…止まっていた。

「まじ……かよ」

俺はあわててステータスを確認する。




【ステータス/天笠照】

レベル:1

HP:30
MP:10

腕力:15
知力:10
技術:20
幸運:20

スキル:時魔法






最後に書かれている文字を見て、俺は驚愕した。…いや、歓喜した!

この世界に転生した時には、????だったスキル欄が、ついさっき初めて発動したのだ。

「やーっば!! え?おれ時間止めちゃったの? 俺がやったの?」

両手をまじまじと見る。特に変わった様子はない。

「ちょっと、失礼しますよー」

そう言って、恐る恐る隣に立つ男性の肩を触ってみる。

質感は変わらず、重量もある。そして何より「なにベタベタ触ってんだよ!」といきなり怒られない。

小石なんかも持って投げれるようだが、自分の力以上の物を動かすことはできないようだった。

「こんなチートな能力、使っちゃって良いんだろうか…」

まさかの展開に、驚きを隠せないでいた。

「そうだった、財布財布」

どうせ誰も聞こえないから、独り言も気にしない気にしない。

俺は追っていた犯人のところまでゆっくりと向かう。

突然動き始めても良いように正面に回り込むと、

そこにはフードを深くかぶり、盗んだバッグを必死に抱える犯人の姿があった。

俺は先にバッグを取り返してから、顔を見ようとフードをめくると、

ひったくり犯は、年端も行かない10歳ほどの少年だった。

俺は一瞬どうしようかと悩んだ結果、少年のポケットに入っていた財布を取り返し、

その代わりに財布の中の半分をポケットに戻した。ついでにバッグと同じくらいの木の板も少年の手に抱えさせる。

よし。これで暫くはすり替えられたことに気がつかないだろう。…多分。

「…さて、どうしたもんかなぁ」

俺はひったくられた女性のいる方向へゆっくりと歩きながら考える。

この魔法を有効活用する方法、この能力を隠すか否か、そもそもどうやって解除するのかどうか…。

「うーん…」

俺はあることに気がつく。時が止まった瞬間、俺は転んだんだ。

…もう一回転んでみたらいいのでは?

念のため先ほどぶつかった男性に、失礼します、と先に謝って――

「…がっ!」

盛大に転んでみた。

いやいや、さすがにそんなわけないよな…。

じゃあ、転ぶ前? 俺なんかしたっけな?

んー、と考えていると、

「あ、そっか」

あることに閃く。そして、「戻れ」とつぶやく。

すると、俺の苦労なぞ知る由もないといったように、何事もなかったように時が進み始める。

人混みの声や靴の音なんかの騒音が、一気に情報として耳に入ってくるのを感じ、俺は思わずクラっとする。

次からは、解除する時は建物に入ってからにしよう…。

俺は、はいどうぞ、と女性にバッグを返しリーナのもとへ戻る。

背中からは「え、あ?…え?」と何が起きたのか理解できていない女性の声がしていた。

「あ、照様! 犯人はつかまえられましたか?」

戻って来た俺にリーナはそう尋ねる。

「うん、この通り返してもらったよ」

そう言って俺は取り返した財布を見せる。

「さすが照様ですね! ところで、どんな人でした?」

「10歳くらいの男の子だったよ、なんでひったくりなんてしてるのかは聞けなかったけどね」

「そうでしたか…何か事情があったのでしょうか」

「それでですねリーナさん、お願いがあるんですが…」

「はい?」

「既に半分くらい財布から抜き取られてたみたいで…少し貸してくれませんか?」

「私たちの食材ですから、そんなことお安い御用ですよ!」

ふふふと笑いながら、さぁ行きましょうと、リーナは俺の手を引っ張る。

リーナの手の温もりが、俺はなんだか懐かしく感じた。

……




◇ ◇ ◇


__バルムダール/アルタン王国/東の街イール/関門__


2日後。ひと仕事を終え、トラブルはあったものの旅の準備を揃えた俺たちは、関門へと戻ってきていた。

「次の街は、南の街サウム…だっけ?」

「はい! 南の太古の街サウムです。私も行ったことはないので、道案内が欲しいところであるんですが…」

馬車に荷を運びながらリーナと話していると――

「照様」

声の主は教会の神父だった。

「これは神父様。他に何か御用が?」

「先日は貴重なレシピを頂き、ありがとうございました」

神父はそう言って深々と礼を言うと、

「次は南の街に行かれると聞きまして、よろしければ私たちがお送りいたしましょうか?」

「え? それは本当ですか?」

リーナも神父が来ていることに気づき、話に加わる。

「ええ。丁度私たちも南の街に用がありまして、何のお礼もできませんので、せめてご迷惑でなければ道案内をと思いまして」

俺はそう話す神父の顔を見る。目が線になるほど穏やかな表情で俺の返答を待つ神父。

「いかがですか? 照様が良ければなんですが…」

この神父は一体何を考えている? ただの善意なのか、それとも…。

用事というのは何だ? そして図ってたかのようなタイミング…。

「照様! ちょうど良いじゃないですか、お願いしましょうよ!」

俺は考え、神父にこう尋ねた。

「ところで神父様、テルナールの方はどうなされましたか?」

「え? あれは早速信者達に作らせてまして、今頃は病人の元へ運んでいるところでしょう」

「さすが、迅速な対応に感謝します」

「ええ。それに南の街でも感染者が出たと聞いております。早急にこのテルナールを届けるためにも道案内は必要だと思いますが…」

「確かに、道案内は必要だと思っておりました。ですが私だけでは決められませんので、ちょっと待ってください」

…俺は「不自然じゃないように」時を止めた。

静寂が訪れたのを確認し、俺はポケットから手鏡を取り出す。

「やっぱりおかしい。神父の言うことが正しければポイントはもっと増えているはず…」

頭の上の数字は、北の街を出たときと比べてかなりスピードが落ち、今はたまに1000ずつ上昇するくらいだった。

俺はある可能性を考えていた。

これまで上手くいきすぎているとは思わないか?

普通なら、薬のレシピを強奪して儲けようと思ったり、偽の薬が出回るなんてことが起きるはずだ。

実際、医者がまだ珍しかった時代は、ヤブ医者と呼ばれ、偽の医者が金目的に医者を名乗って出回ったほどだ。

だからこそ、やけに協力的な教会や神父が、俺はには怪しく思えた。

俺はポケットに鏡を戻しながら神父の方へ歩き、笑顔のまま固まっている顔をまじまじと観察してみる。

「特に、2日前とは変わっている様子はないな…」

俺は神父の服のどこかに武器があるのではと思い、身体を触ってみる。

そのとき、神父の帽子が脱げ――俺は驚くべきものを目の当たりにした。


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