ZENAK-ゼナック-

ノベルバユーザー260614

2.その病の名は

__バルムダール/二代目勇者の街/広場__



ここは、どこだ…?

最初に視界に入ったのは、中世ヨーロッパに似た町並みだった。

ここはどうやら、どこかの町の広場のようだ。

「ここが、異世界・バルムダール…」

あのセールスマン、ロバートが俺に紹介したのは高額な憑依先ではなく、転生先だった。それも異世界の。

生前よく異世界転生モノのラノベを読んでいた俺にとって、どんなにイジーモードで現世に転生するよりも魅力的だった。

なぜ、安いからといって紹介されたのがこの異世界だと言うと、こんな理由があったから。

俺は、何度も読み返した案内パンフレットを広げ、もう一度内容を確認する。

概要
1、転生期間:無限
2、転生先:異世界・バルムダール
3、転生費用:50徳ポイント
4、転生者が死亡した場合は記憶と獲得したポイントを抹消した上で、自動的にバーヌムへと帰還されます。

特別事項
1、転生者は契約時点での記憶を維持したまま転生することができます。
2、転生者は転生特典として、スキルがランダムで1つ付与されます。
3、転生者は魔王を討伐した報酬として、200万徳ポイントとスペシャル特典を帰還時に手に入れることがきます。

……

転生費用がたったの50徳ポイントっていうのと、巨額な報酬があるっていうのは試す価値があると思ったし、

そして、記憶は維持されるというのがこの異世界を攻略する上での最大の武器になると直感したからだ。

普通の現世転生とは違い、最初からチート並みの容姿や学力を持てない異世界転生はあまり人気がないらしく、その分客寄せの為にこういった特別事項が設けられたのだとロバートは言っていた。

スキルについては、まぁ期待してないが…一応確認しておくか。

「ステータスオープン」

俺はお決まりの台詞を唱えると、視界にウィンドウが表示された。

「やべー。マジで異世界きちゃったよ」

異世界とか言っておきながら、どうせ現世のどこかの国なんだろうと思ってたが、いま確信した。

とりあえず見てみるか…





【ステータス/天笠照】

レベル:1

HP:30
MP:10

腕力:15
知力:10
技術:20
幸運:20

スキル:????





「…ふつーすぎじゃね!?」

つい口から出てしまった。周りの視線が痛い。

俺はとりあえず場所を移動しようと、人気のある広場を離れることにした。

……

ステータスについては大した面白味はなかったが、

「スキルが隠されているってことは、どういうことなんだ?」

何かの手違いか、それともわざとなのか…

…というか唯一のワクワクを返せよ!

それにしても、主人公補正というかそういうのがあったら良かったのになー。

死後の世界。バーヌムにとっては、これもあくまでもいちエンターテイメントってことなんだろうか。

なんたって50徳ポイントなんてあまりにも安すぎる。

スキルもどうせしょうもない奴なんだろう、という不安を抱えながら、俺はとりあえず街を探索することにした。

………



◇ ◇ ◇


__バルムダール/二代目勇者の街/商店街__


とりあえずこの街で活気のある場所にきてみた。

歩いているだけで分かったことは、まず言葉は日本語と簡単な英語だけであるということ。

同時に、人々が話す言語も日本語と簡単な英語のようだった。これはありがたい。

通貨に関してはこの世界独自の通貨があるようで、所持金のない今の俺には買い物はできない。

さてさて、どうしたもんか。

ふと窓に映る自分を見てみる。

28…。

転生した分のポイントが消費されている。このバルムダールでも徳ポイントは存在するようだった。

ちなみにこの世界にいる住人は、この頭の上の数字は見えないようだった。

「…ちょっと試してみるか」

俺はあることを試すために、適当に害のなさそうな人を探す。

「あのー。ちょっと良いですか?」

「あーなんだい? 若い人」

「この階段を登りたいんですよね?よかったらその荷物、持ってあげますよ」

「ええ本当かい? そりゃ助かるよ、なんせこのところ腰が痛くってねぇ」

……

「ふぅ、どうもありがとね、助かったよ。あんたは良い人だ。これはほんの少しだがお礼だよ」

「いやいや、困っている人を助けるのは当たり前のことなので」

「そんなこと言わずに受け取ってくださいな、ほんの気持ちなんでね」

「ありがとう、じゃあ遠慮なく頂いておきます」

……

さて。

俺はすぐに自分の頭の上のポイントを確認する。

…30。先ほどより2ポイント増えていた。

確かに、あの老人が言っていたことは本当だったようだ。

ちゃりん。

そして運の良いことに、お金も手に入った。

「次に試すのはっと…」

俺はちょっと迷ったが、とりあえずやってみることにした。

「…カタログ、オープン!」

すると視界には「徳カタログ」と書かれたウィンドウが表示される。それは転生される前に見た雑誌と同じものだった。

俺はふと商店街に並ぶ出店を見渡すと、リンゴが売られているのが見えたので、先ほど貰った硬貨でそれを一つ購入する。

そして、カタログの中からリンゴを表示させ、購入を選択する。

するとどこからともなくリンゴが空から落ちて来て、右手に収まった。

俺は商店で買ったリンゴと落ちてきたリンゴを見つめ、

「特に変わった感じはないな。…うん、味も変わりがない」

これで、バルムダールで売られているものはポイントを使ってカタログでも購入ができることが分かった。

頭の上のポイントは29に減っていた。

「よし」

一度現状を整理してみようと思う。

死後の世界バーヌムでは、善いこと、善行がポイントとして還元される世界だということ。

そしてこの異世界バルムダールにもそのシステムが引き継がれていることが分かった。

あの老人は言っていた。悪いことはせずに善い行いをすればするほど死後にポイントとして還元される、と。

そして、溜まったポイントを消費して、カタログにあるものなら何でも購入することができる。

「じゃあやることは一つしかない…よな?」

俺は身を震わせながら心の中で盛大にガッツポーズをし、この新たな人生に期待を胸に膨らませていた。

……




◇ ◇ ◇


__バルムダール/二代目勇者の街/ギルド__


俺はギルドの受付にいた。

「…では、これでギルドへの登録は完了です。そしてこちらがギルド手帳になります。紛失した場合の再発行はできませんので、大切に持っていてくださいね」

異世界といえば冒険、冒険といえば…そう、冒険者ギルド。

「依頼があちらの掲示板に貼られていますので、ご自由にご覧ください」

「ありがとうございましたー」

ただ俺の目的は冒険者になるだけじゃない。

冒険者になることで貰えるこの手帳。この手帳があれば無条件で他の街や国に入ることができる。

こっちにはカタログというチート並みのブツを持ってるんだ。ちんたら冒険なんかして無駄な時間を過ごす意味はないね。

俺には考えがあった。

まずお金を貯めてここよりもっと大きな街に行く。そして何をするかって?

もちろん、商売を始めようと思う。それも金の木になる『人の為になる』商売をね。

……

異世界に転生されてから思ったのだが、この世界の文明レベルは現世よりもはるかに低い。

そしてこの世界にはない物を売って、バカみたいに金とポイントを稼いで、カタログ使ってチートする…。

「…ふふっ」

想像するだけでヨダレが出てきそうだ。

やばい、変な目で見られる前に早くここを出るとするか。

……

ギルドを出てすぐ、何やら広場の方でざわつ
いている声が聞こえた。

「…何があったんだろう?」

俺は様子を伺うため、野次馬の集まりに紛れる。

「これで8人目か…」

「この病気にかかった者は1人残らず死んでしまっているらしいな」

「とりあえずはずれ村にある小屋へ運ぶぞ! 誰か手伝ってくれ!」

人だかりの中心には男が倒れており、それを何人かで運び出そうとしているようだった。

俺は隣にいる大柄な男に尋ねる。

「あの人、どうしたんですか?」

「ん? あぁ、最近流行している得体の知れない病気でな、この街でも何人かがあれにやられてるのさ。かわいそうに」

「それって、どんな病気なんですか?」

「それが、身体の一部が黒く変色して、首のところがやたらでかく腫れるんだと」

…黒死病。

17世紀の欧州で蔓延した死の伝染病で、人口の60%が死んだと言われている病気だ。

感染したネズミや、その血を吸ったノミを媒介にして人へ伝染するため、貧しく不衛生な生活をしている貧民から多くの死者が出たという。

俺はその場を離れながら、カタログを開き、黒死病に効果のある薬を探した。

……あった。

抗生物質。それに感染を予防するワクチンも。

ただ、一つ300ポイントも消費するらしく、今は買うことができない…。

チャンスだと俺は思った。いきなりこんなイベントがやってくるなんて、俺はツイてる。

まずこの薬を大量に揃えるとするか。

……



◇ ◇ ◇



異世界に転生して7日目。

俺はひたすらアルバイトをして衣食住を確保しながら、ポイントを貯めるために善いことをした。

一日一善ならぬ、一日百善…は言い過ぎか。

とにかく、無報酬での荷物運びや街の掃除、子ども達への教育など、時間さえあればボランティアに奔走した。

その度に頭の上のポイントをチェックし、より効率の良いポイントの稼ぎ方を覚え、一日に200ポイントは稼ぐことができた。

そしてある程度のポイントが溜まり、俺はついに目的の薬を購入することにした。

「これが黒死病に効く薬か…」

俺はそれを持って感染者が隔離されているというはずれ村へと向かった。

……


__バルムダール/2代目勇者の街/はずれ村__


街を出て一時間ほど歩いた場所にその村はあった。

窓のない木造の家、枯れた井戸、破れた服を着た村人…

街での風景とはうって変わって貧しい村だとすぐに分かった。

村人に場所を尋ねると、村のさらに森に入った場所に隔離されている小屋があるという。

俺はつい口元を手で覆いながらその小屋に入る。

その光景を見て俺は思った。

10人ほどの感染した人々が、うめき声をあげながら腕を伸ばし、必死に苦しみから逃れようとする姿は、

――まるで地獄だった。

目を背けたくなるような光景に、俺は思わず引き返そうとも思った――が、

その中に1人、賢明に治療を施そうとする女性がいた。

「大丈夫ですから、神様はあなたを見放したりは絶対にしません! だから今は横になって…!」

シスターの格好をしたその女性は、この地獄のような場所に咲く一輪の花のように美しく見えた。

「どなたかは存じませんが、ここにいると感染してしまいます。早く出て行かれた方が…」

俺の存在に気づき、その女性は優しく、しかし力強く、そう声をかける。

「いきなりお邪魔してすみません…俺は天笠照って言います」

「では照さん、ここに何か用でしょうか? 用がないなら…」

「いえ、あの…」

俺は少し考えた結果、こう切り出した。

「俺が育った村では、この薬草を練り込んだ丸薬がその病気に効くんです」

「…丸薬? それってどういう…」

「いいから、すぐにこれを水と一緒に飲ませてあげてください」

「あっ…はい!」

俺は少し強引に薬を渡し、それを受け取った女性は患者に飲ませる。

「…こんな小さなもので、本当に良くなるんですか?」

「ええ、絶対に良くなるはずです。そして、あなたにはこの――」

そう言おうとした瞬間、疲労がピークに達したのか、女性は倒れ込んでしまった。

「…ひどい熱だ。早くどこかで休ませないと…!」

……


◇ ◇ ◇


__バルムダール/2代目勇者の街/はずれ村__


「……ん」

「目が覚めましたか?」

「…ここ…は?」

「はずれ村です。今日だけ民家を借りさせてもらいました」

「わたしは……。ごめんなさい、ご迷惑をかけてしまって――」

そういって女性は起き上がろうとするが、すぐに横になってしまう。

「無理しすぎですよ。もうしばらく休んでください」

「…いえ。お気遣いありがとうございます。ですが私は戻らなくては…」

「何か食べられそうですか? 口に合うか分からないですけど、よかったら」

俺は戻ろうとする彼女を制止し、カタログにあったシンプルなお粥を差し出す。

「あの、これ以上良くされても、わたし…お金なんてどこにも…」

「そんなの気にしないで、何ならお口に入れてあげましょうか?」

「へっ? …あの、あの」

冗談まじりで言ったつもりが、女性は顔を赤らめて俯いてしまった。

「冗談ですよ。そこに置いておくので少しでも食べてくださいね。俺は小屋の様子を見に行ってくるので」

そう言い残して部屋を出ようとすると、

「…あの!私! メイ・リーナといいます!」

リーナと名乗る女性に、俺は手だけで返答し、小屋へと向かった。




◇ ◇ ◇



――3254。

俺の頭の上の数字はさっきよりもかなり増えていた。

きっとリーナを介抱し、それが彼女にとって善意と受け止められたからなのだろう。

そう考えながら俺は残りの分の薬を購入し、それぞれ飲ませる。

…数分後。先ほどまでのたうち回っていた患者が、みな安堵した顔で眠るほどまで落ち着いていた。

ポイントはと言うと、

554。

…思った通りだ。

実際に善意を施した対象を視認、もしくは間接的にでも特定しない限り、ポイントにはならないということか…。

ちょうどその時、小屋から人が入ってくるのを感じた。

「そんな…」

「リーナさん。もう大丈夫なんです――」

「あんなに苦しんでいたのに、その薬のおかげなんですね! どこにっ、いや、どうやれば作れるんですか!?」

言いかけた途端にリーナは俺に近づき、タ
ネ明かしするまで離しませんよと言わんばかりの眼差しを向ける。

「ちょ、…その、近いって!」

「あ、ごめんなさいっ…つい」

興奮するリーナをなだめつつ、嘘だがあながち間違っていない言い方で薬のことを教えた。

「……そうなんですね。そんな特効薬があるなんて分かったら、もっと多くの人を救えるかもしれないのに…」

「それに関しては同感です。でも俺の村の村長は言ってました…。人を助けるにはちゃんとした順番があるって」

「……順番? 王様にお伝えすればすぐにでもこの薬のことを広めてくれるのでは?」

「ただ、この薬には希少な薬草が入っています。なので生産するためにはその分高額になってしまうんですよ」

「それは十分理解できます」

「そうなってくると、この薬を独り占めして利益を独占しようとする人が現れてもおかしくないですよね」

「そう、かもしれません」

「だから、王様がこの薬の流通を徹底的に管理できない限りは、慎重に動くべきだと思うんです」

「……ある程度は分かりました。でもどうすれば…?」

「そこで俺に考えがあるんですが、リーナさんにも協力して欲しいんです」

「協力…ですか?」

……




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