Aprikosen Hamlet ―武蔵野人狼事変―

スライダーの会@μ'sic Forever

とある同窓の追憶日記 第1回「一年の復讐」

キミとつながる?ラノベADV
『Planet Blue geographia』



 メシア暦2016年3月1日、火曜日。今年もまた、卒業と別れの季節がやって来た。思えば私もつい数年前は、中等学校の生徒であった。先日、私の母校である大森貝塚中等学校で、生徒が授業で創った作品などを飾る展覧会行事が、小規模ながらも開催された。卒業生である私も、特に予定がなかったので、これを機に見に行く事にした。「大森」という地名の通り、東京市とは思えない台地上の山林に、我が母校はある。何度訪れても、やはり懐かしい景観だ。今年度の展覧会では、卒業生らによるプラネタリウム上映企画もあるという。なんとなく想定してはいたが、果たして会場の教室に到達すると、そこには「彼女」がいた。

「本日は冬の星座を…あら、久し振りねぇ。まだ生きてたの?」

「あ! あ…あああ亜紀さん? そんな、まだ死んでなかったの?」

「もう…勝手に殺さないで頂戴。貴方を殺すわよ?」

「亜紀さんも、この学校には思い入れが深いんだね」

「貴方に言われるまでもないわよ。ヒトは、記憶から逃れられないの」

「ところで亜紀さん、そこに展示してある鉱物って…誕生石?」

「そうよ。ザクロ石・紫水晶、それにブラッドストーン」

「ブラッドストーン? あ、思い出した! 僕らがここの生徒だった頃、亜紀さんに教えてもらったような気が…」

「ええ、あの時の碧玉よ。貴方も少しは、物分かりが良くなったじゃない。私達の思い出も、この中に刻み込まれているかも知れないわね」

 私がその誕生石を凝視した刹那、年上の男性?らしきお客さんが声を発した。

「サザンクロスは大森から見えないから、プラネタリウムで観る! ん…あれ、この遺影みたいな写真に映ってる少女は、もしかして…」

「本校の卒業生で、私やこのヒトにとっても、大切な親友です。名は…」

 亜紀さんに続いて、私も反射的に口を開いた。

「彼女の名前は、十三宮とさみやめぐみさんって言います」



  第1回「一年の復讐」



 思い返せば、それは甘く切ない夢物語。当時、この学校の一年生だった私は、幼馴染みの仁さん、そして不思議クール系な亜紀さんと同じクラスに在った。

「じゃあ、今日のイングリッシュはここまで! またね☆」

 どう見ても空母なのに、何故か英語教諭をやっているマーシャル先生の授業が終わり、昼休み。私はいつも仁さんと一緒にご飯を食べるが、孤独を愛する亜紀さんは、どの班にも入らずに居た。そんな彼女に、仁さんが声を掛ける。

「あっちゃんはいっつも一人っきりだね?」

「貴女達も、いつも二人っきりね」

「でもね、あっちゃんは寂しくなんかないの! だってね、めぐちゃん達が一緒に居てあげるんだもん^^」

「どういう意味よ?」

「私達三人で、一緒にご飯食べようよ! あなたも、いいでしょ?」

「あ…亜紀さんと? まあ、仁さんがそう言うなら…」

「仕方ないわねぇ…好きにしなさい」

「あっちゃん、その宝石なあに? とっても綺麗だね^^」

「これはブラッドストーン、今月の誕生石よ。二酸化珪素の石英に酸化鉄の不純物が混入した碧玉で、インド産の物が有名よ。ローマ帝国では、天体観測鏡に使われたとか」

「相変わらず、亜紀さんはそういう話に詳しいなあ…名前の由来は?」

「この赤い斑点は、十字架に磔られた救世主の血とかいう伝承よ」

「そうなんだね! やっぱりあっちゃん、凄いね^^」

 そう言われて、亜紀さんは少しだけ微笑んだ。私達三人は、地元の小さな私塾にも通っていて、あの年の3月1日は確か、数学講師が別の奴に変わる時期だった。彼女達と、その未来を守り抜く…それが私と友との約束だと、胸に誓った。

「放課後から塾まで、少し時間があるわね。どこか寄ろうかしら?」

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