Lost Film
Film№16 満身創痍とグリーン・ガール
ー今回のエピローグー
結局、美來さんを取り戻すことは出来なかった。
つまりは、初めてのことだが、依頼は失敗したのだった。
あの後、パンドラの身体はすぐさま緊急搬送された。
さらには過も、あの光の影響で気絶してしまっていたため、一緒に搬送された。
過は直ぐに退院できたが、パンドラは流石にそうはいかなかった。
俺はパンドラのお見舞いには行かなかった。
彼女のあの傷のことだからきっと生きてはいけないだろうと分かっていたからだ。
ことぼりが褪め、やっとのことで事務所に戻ることが出来た俺らは、過を連れてヘスティアさんに今回の事件報告を済ませた。
その中で、気になる点がいくつかあった。
「エクストラ・フィルム」を故意に行う謎の組織の存在。
パンドラを光る弓で射抜いた謎の人物ー確か彼女は最後にそいつを見て、ヘパイストスと言っていたーはきっと組織側の人間なのだろう。
そして、俺の時間軸移転と彼女の超感覚的予知は一体どちらがより遠くを見ることが出来るのかということ。
俺が時間軸移転する前と後ではまるで結末が違ったように見えた。
もしかしたら彼女は最初から俺に時間軸移転を使わせて、あえて彼女のニセモノであるパンドラに未来を見せないようにしたのかもしれない。
このような憶測の中でしかし、一つだけ確かなことがあった。
彼女の超感覚的予知をもってさえ、自分の命を引替えに辛うじて一組織人を食い止められたということ。
つまり、俺らにはあの「エクストラ・フィルム」を引き起こしてしまうほどの組織に勝てる見込みが確かにないということだ。
だからパンドラは最後にあんなことを言ったのだろう。
組織の大きさや人員、更にはほかの能力者の有無は今では藪の中となってしまった。
「パンドラ」の死をもって。
先への不安を胸に、俺たちの未来は何か良からぬ方向へ進んでいくと思われたが、良いことも、あると言えばあった。
過がうちの事務所の手伝いをしてくれることになったのだ。
毎日、学校帰りに俺らと合流し、依頼人との面会に付き合ってくれるというのだ。
彼の能力で依頼人から何があったのかという事情は瞬時に把握できる。
当然初対面である依頼人に対しては、彼の存在はこちらも大いに助かっている。
そして、もう一つ。
                    ー7月7日日曜日ー
「みんな〜、聞いてちょーだい!」
予約のある依頼が珍しく一件もない折角の休日。
皆、朝からゆったりくつろいでいる所へ、ヘスティアさんが慌てふためいた様子で飛び込んできた。
「なんですかぁ?今、結構かなり取り込んでるんで…あとにして貰えます?」
初夏の暑さとジメジメとした湿気に堕落せざるを得なかった俺はそう答える。
「そんな軽いことじゃないのよ!ものすごく大きな朗報よ!」
「えっ!なになに!ものすごく大きなアイス奢ってくれるとか?」
食べ物ー特に甘いものーには食いつきが早いフォルティーナは夏の暑さにやられ、いっそうさらに頭がおかしくなっている。
「誰もそんなこと言ってないだろ、フォルティーナ。何でもかんでも食べ物せびっていたら太るぞ!」
「え〜、いいじゃん別に。私には関係ないもぉ〜ん!」
「いや、どストレートにお前の腹に来るけどな!」
まぁまぁと過。
ヘスティアさんに止まっていた話を促す。
「それがね、なんと!また新しく、うちの事務所にメンバーが増えることになりました〜!」
「えっ!まじですか!それってかなりの事じゃないですか!」
「えー!私のお仲間が増えるの?やった〜!」
「いや、お前みたいな頭のおかしな仲間が増えたら、これ以上は世界が持たんぞ。」
でも、確かに珍しいことで、おめでたいことではあった。
俺らの活動は、多くの一般人にはオカルトの類でしか見られていないのだろう。
街であることないこと噂され、あまりいいイメージを持たれていない。
その証拠に、依頼に来る人のほとんどが電話一本寄こしてから依頼に来るのだ。
つまり、人目につかない時間帯に面会を予約し、こっそりと俺らに会うことで自らの非難も避けようという魂胆だった。
俺はそんな非難など決して気にしない。
「エクストラ・フィルム」の犠牲者が一人でも減ってくれれば、それでいいのだ。
「で、誰なんですか?そんな、勇気ある人は!」
「実は今日、こちらにお呼びしてまーす!どうぞ!」
そう言って彼女は事務所の玄関の扉を開ける。
眩しい朝日。
初夏の風と共に現れたそれは、信じられない光景だった。
「はじめまして、こんにちは…」
通り過ぎて行く風と共になびく長い黒髪。
「これからここでお世話になります、日瑠星譲といいます…」
愛想の良い笑顔。
「皆さん、どうかこれからよろしくお願いします!」
間違いない。
彼女は…
「…美來さん!」
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