Lost Film

いのまん。

Film№13 彼女の帰還とアンシールド・ボックス



結局、この日は何一つ打開策は思いつかず、過は姉のいない家に帰って行った。

「ん〜、もぅ…なぁに落ち込んでるのよ!シャキッとしない!」

「は?お前に何がわかるってんだよ…『エクストラ・フィルム』で呑まれた人間は、もう元に戻って来ないんだよ…」

何一つ事情を理解していない彼女は、そんな抜かしたことを言っている。
まぁ、でも、顛末を説明したところで暗愚魯鈍な彼女には諒解なんか出来ないとは思うが…

「フォルティーナちゃんが何も知らないことは確かだわ。でも、落ち込んでいても何も始まらないこともまた、確かなのよ。」

そう言ってヘスティアさんは俺にお茶を出してくれた。

「あなたが聞き流したっていう彼女の言葉、もう一回確認してみればいいんじゃない?」

「…。」

今思えば、確かに美來さんの言葉には不可解な点がいくつもあった。

「『誰か』に…追われている…?」

彼女は箱を前にして、そんなことを言っていた。
だが、実際のところ彼女は「ロスト・フィルム」としてこの世界から消された。
それならば彼女を追っていたのは「誰か」ではなく、「何か」では無いのか?
何故最初から人に追われているとわかるのか。
能力者である俺らにとって「エクストラ・フィルム」を得体の知れないものとして表現するとしたら「何か」とするだろう。

そして彼女が時折発していた謎の虚言。
俺らが最初にあった時、何故だかか彼女は、俺達が尋ねてきた目的を把握していた。
まるで、過が能力を使った時のように…

「彼女は一体、何が言いたかったんだ?」

考えれば考える程に彼女が分からなくなる。
そうこうしているうちに3日ほど経った。




            ー6月24日日曜日(一回目)ー


「姉が…帰って…きました!」

粗く息を上げて事務所に駆け込んできた過は、三日前と同じく汗だくで、息を吸うのも惜しんでいた。

「今朝起きたら、姉が…リビングに居たんです!」

「…!?」

「まぁ!それは良かったじゃない!」

と、ヘスティアさんは僕の方を見てニッコリと笑いかけてくる。

(良いわけがない。)

「『ロスト・フィルム』から帰ってきた…だと?」

そんなわけがあるか。
一度、人々から彼女の記憶が消えた時点でもう既に世界は書き換えられている。
彼女なしで当たり前のように回っていた世界にいきなり彼女が戻ってくるなんて、有り得ない。

「美來さんは…今まで一体、何をしていたんだ?」

「それが…僕がどこに行っていたのかと尋ねても、彼女はどこにも言ってないと言うのです。」

彼女についての記憶が戻っているとは分からないのか。
というか、彼女は自分がこの数日間消えていたことを知らないのか?
今ここで考えていても仕方が無い。

「とりあえず、美來さんに合わせてくれ。」




夕方

「やぁ!また会ったね!」

「…!?」

そこに彼女はいた。
前例に違わぬように彼女は俺達を出迎えた。

「美來さん…なんですか…?」

「そーよ?どこからどう見ても、あなたの知ってる美來さんじゃない!」

と、彼女はドヤ顔を示す。

「…。」

俺は目の前の事実を受け止めきれなかった。
俺は今まで、「ロスト・フィルム」から帰ってくることなどないと頑なに信じてきた。
消えた両親のように…

俺の両親は「エクストラ・フィルム」の初めての犠牲者だった。
ある日突然帰らなくなった親。
自分を育ててくれた両親の存在を誰も周りは認めてくれなかった。
そんな絶望を今まで、仕方がないことだと自分に言い聞かせて生きてきた。

なのにそれが今、全否定された気分だった。

「…この三日間、あなたは何を?」

「えっ。えーと…普通に過ごしてたけど?普通に朝起きて、普通に学校に行って、おじ様たちと戯れて、いつもの時間に寝たけど…どうかしたの?」

(おじ様たちと戯れてって…)

「信じられません。あなたが戻ってきたなんて…」

「いいじゃん、別に。カイト!これにて一件落着でしょ?」

「そういう問題じゃないんだよ、フォルティーナ。」

「え〜。そういう問題だよ〜。」

「あっ。パ、パンドラの箱は?美來さん。あなたは確か、アレにひどく酷くしたよね?今は平気なんですか?」

隠された証拠でも見つけるかのように、浮いた足を全力でとるかの如く、彼女の矛盾を指摘する。

「あー、アレね。うん、怖いねぇ。」

(怖いねぇって…)

「ほんと!帰ってきてくれてよかったよ〜。ね!あやまちくん!」

「うん!…お姉ちゃん!」

過はいつもの調子ですましている彼女が帰ってきた喜びに感極まったのか、忽然とその身体に抱きつく。

「ん!ちょっと〜、もう、いきなりどうしたの?」

「あ、会いたかったよ…」

彼は彼女の胸に顔埋める。

「あはは〜、よしよし。なんだか分からないけど甘えん坊だね、過。」

頭を撫でる。
そして彼女が過を見下ろした瞬間、過は彼女の胸に埋めていた顔を上げる。
2人は目が合う。

「…箱の…人?」

過は何か言いかけたが、フォルティーナは2人の雰囲気を察知して言った。

「じゃあ、私達はこれで!姉弟愛も程々にね!ほら、カイト!行くよ!」

(何故今なんだよ…)

肝心な時だけは無駄な空気を読むフォルティーナ。
放心し切った俺を引っ張りその場をあとにする。
一方俺は頭の中で疑念と混迷が渦をまいていた。
俺は彼女が帰ってきたことに素直に喜べなかった。









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