Lost Film
Film№7 気になる口調とポーカー・フェイス
俺らは無言で見つめ合っていた。
「……。」
「…………。」
「………………。」
不言不語。
俺はその静寂を打ち切って口を開く。
「……考えてなかったなぁ。いや、どーするよ?これ。」
実は俺らは何をするべきか、迷っていた。
「知らないよ〜。カイトの仕事でしょ?てか、もういっそ、ピンポン押して、本当の身の上話を全部聞いてもらえば?」
「は?バカなの?『僕達は未来から来た者なんですけど、お姉さん、なんであなたは突然失踪するつもりなんですか?』なんて聞けるか!」
そう、依頼人の家に着いたは良いものの、美來さんに会ってどーするのか。
失踪する前の彼女にこれから失踪する理由なんて聞けない。
そもそも、失踪するくらいだから、もし仮に精神的にストレスが溜まっているのだとしたら、俺らみたいな赤の他人が介入すると自体を悪化させ兼ねない。
「あー。それもそうね。でも私は別に気にしないよ?」
「そりゃお前とは違うだろうけどさぁ…。」
そんなことを言い争っていると、玄関の扉が重々しく開かれて俺達は戦く。
そして咄嗟に玄関の前の草壁に隠れた。
だがそれは、人が2人隠れるには不十分すぎる大きさだった。
「ねぇ、なーにしてんの?」
「ギクッ!」
今どき、いきなり呼ばれてギクッて声に出すやつがここにいたのか、と思いつつ俺は両手を上げて大人しく投降した。
「君たち〜。何やってたのかなぁ?」
「はい!」
見ると、家の玄関に見えたのは、見るからに高校生と思しき女の子が仁王立ちしている姿だった。
「遅かったじゃな〜い。」
「あ、あの。本っ当に、すみませんでし……た?」
俺は勢いよく頭を下げて戸惑った。
だが彼女が俺と被るようにして放った言葉の意味がわからない。
遅かったじゃない?
なんだそのセリフは?
まるで俺らを待っていたかのような口ぶりではないか。
「遅かった…とは?」
俺はゆっくりと頭をあげる。
「あわ!あわわわわ!ごめん!なんでもない!」
「……!?」
随分、甚だしい焦り方だなぁと思った俺はそこでやっと気づいた。
顔立ち。
忙しない喋り方。
俺はこの人が依頼人日瑠星過の姉、日瑠星美來だと確信した。
だが一応、尋ねてみる。
「あー。えーと、もしかしてあなたは日瑠星美來さんですか?」
「あー、うん!そーだよ〜。それで、君たちはなんの用かね?」
彼女は落ち着きを取り戻すのが早いらしい。
さっきまで口からあわわという言葉が出るほど冷静さを欠いていたのに。
「…あ、そうですね。あなたに用事があって来たんですが、少し言い難いお話なんです。なんて言うか、その…」
と、彼女の失踪について直接触れていいものかと言葉を慎重に選びながら話そうとする。
だが、彼女は察したようにこう言った。
「あー、なにぃ?私が失踪する理由かね?その説はどうもご迷惑お掛けしましたぁ〜?あ、違うな。おかけする予定でありんす〜!弟もお世話んなっとります〜。」
淡々と意味のわからない言葉を並べられた俺は戸惑った。
「あー、……?」
何故急に京都弁なのか?
まるで彼女が二重人格を持っているかのような変わりようだ。
というか、話の内容から彼女は失踪する予定でいるのか?
そして、弟もお世話になっておりますという言葉が出てきたのは何故だ?
そういえば彼女は置き手紙にクロノスタのことを書いていたが、俺達がそこから来たことを知っているのか?
わからない。
俺一人考えていても仕方がない。
とりあえず、目の前に答えがあるのだから聞くしかない。
「あー、えーと。なんでそれを?」
「あわ!あわわわわ!ごめん!なんでもない!」
「……。」
(また、あわわか。)
「あー、とりあえず家に上がってよ。ここじゃなんだしさ。」
と彼女は仕切り直したようにそう言った。
そして玄関の扉を大きく開き、俺たちを迎えた。
(質問の答えが未だ返ってきていないのだが…)
というか、さっきから彼女は表情だったり話の内容だったりと、変わりすぎじゃないか?
奇怪千万。
色々気になりつつも、俺達はとりあえず、家の中に入っていった。
「ファンタジー」の人気作品
書籍化作品
-
-
55
-
-
6
-
-
70810
-
-
1
-
-
124
-
-
267
-
-
23252
-
-
111
-
-
4
コメント