自害阻止スキルと自然治癒スキルを与えられた少年は、異世界転生からリタイヤ出来ない!
進言
今更どうしようもない、この世界へと落としてくれた女神に対して神宿が疲れたように溜息をついた。
すると、そんな時だった。
「ん?」
今まで周囲で知人たちと和気藹々に話し合っていた貴族たちが、まるで何かに惹かれるかのように会話を止めたのだ。
そして、誘導されるように顔を向けたのは、会場の端。
そこは、二階へと上がるための上り階段がある場所だった。
「と、そろそろかな。それじゃあ僕は行くよ」
転生者でもあり、勇者候補の一人でもあるシグサカは何かを察したのか、神宿にそう言葉を送りその場を離れて行き、
「?」
神宿はただ一人わけもわからず首を傾げるのであった。
そして、その頃。
赤ずきんの姿で正体を隠すカフォンは一人その場に立ち尽くしながら、ある一人の少年を見つめていた。
側に側近であろう貴族の青年を連れる、その少年は周囲の空気をものともせず、ただ真っ直ぐと上り階段がある場所へと向かって歩いていく。
「カフォン、どうしたんですか?」
「え!? あ、いや………何でない…」
隣に立つカルデラにそう声をかけられ、カフォンは言葉を返しながら場を濁すように笑う。
だが、視界の端で一人少年ーーーーーーー選定された勇者、ガルアを寂しげに見つめながら、
「(本当に……勇者になれたのね…ガルア)」
そう、心の中で小さく言葉をつくのであった。
そして、周囲の空気が揺らぎ、それから数分が経った時。
「それでは皆さん、これより聖女様が御顔をお見せになられます。盛大な拍手でお迎えください!!」
司会を務めるかのような一人貴族の男がそう声を上げた直後。
「「「    」」」
周囲のざわついていた声がピタリと止み、会場が静寂に包まれる。
そして、そんな静かな空間の中で。
コツ、コツ、という小さな足音が上り階段から聞こえてきた。
その足音の主は、階段をゆっくりとした足取りで下りるーーーーーーー白一色に染められたような正装に身を包む一人の少女から発せられたものだった。
その容姿は小柄で、淡い茶髪の長髪、可愛らしい顔とは打って変わり何もかも見透かしているかのような瞳を持つ存在。
その者の名はーーーミーティナ。
この世界に生まれた『天然物の聖女』が、今まさにその場に登場した瞬間だった。
「…あれが、聖女か」
周囲の貴族たちがその少女の登場に神々しさを抱き言葉をなくす中、神宿は会場の壁際に寄りかかりながら、そんな彼女の姿を静かに見据えていた。
確かにその少女から漂う空気はどこ異質であることは、離れたこの場所からでも感じることが出来ていた。
ーーーーだが、それだけだ。
それ以上に、特に神々しさといった部分は感じられなかった。
もしかすれば、それは一度、女神にあっている経験があるからなのかもしれないが…。
(まぁ、俺には関係ないか……)
とはいえ、特に関わるつもりもない神宿は、そう内心で呟きながら視線を彼女から外そうとした。
ーーーーしかし、その時。
「……………ん?」
外そうとした視界の端で、聖女ミーティナの後ろに続くもう一人の少女に対して神宿は怪訝な表情を浮かばせた。
「こちらにおられますのが聖女こと、ミーティナ様です。そして、次にそちらにおられますのが」
代弁するように自己紹介をする司会の男がそう言いかけようとした時、
「っ!? せ、聖女さまっ!?」
それは突然だった。
その一人の少女は聖女ミーティナの横を通りすぎ、その場に集まる貴族たちの中へと入り込んだのである。
そして、驚くを貴族たちを遮りながら彼女は走り続け、
「やっと、見つけました!!」
選定された聖女、ミカナは貴族たちの波をやっとの思いで抜け出し、
「……お、お前…あの時の」
神宿 透の目の前へと辿り着いたのである。そして、彼女は。
ミカナはーーーーーーー進言したのだ。
「私の、勇者様!!」
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