自害阻止スキルと自然治癒スキルを与えられた少年は、異世界転生からリタイヤ出来ない!

goro

三種の枠組み





赤ずきん言うなーっ!! と騒ぐカフォンと共に、カルデラたちは少しその辺りを見回ってくると言って離れている。
そっと息をつく、神宿は壁際にもたれながら、慣れない衣服の首元を息苦しそうに手で緩ませていた。

すると、そんな時。




「やぁ、久しぶりだね」
「げっ」




神宿にとって、あまり遭遇したくない一人の少年と再会を果たしたのである。
……いや、勇者という言葉があった分、その少年がこの場にやって来そうな気はしていたのだが、

「久々の再会で、げっ、って酷くないかい?」

その少年はかつて、神宿の反応に対して苦笑いを浮かべる。
神宿と同じタキシード姿に加え、見るからに優男らしい容姿を持つ少年。


そう、彼は神宿と同様の体験の果てに、この世界へとやってきた転生者。



勇者候補の一人、シグサカがそこに立っていたのだった。









共に壁際に立ちながら、軽い言葉を交わす神宿とシグサカ。
どうやら彼もこの聖勇舞踏会に呼ばれた口らしく、また以前師匠としてついていた賢者バルティアとは変わり、新しい師匠である賢者様は大変厳しい、などを愚痴っていた。

そして、彼と共に付き添っていた少女、キャロットもまた日々その賢者の元で修行に精進しているという。


「ふ〜ん……」

神宿は軽く聞き流す様子で、そんなシグサカの説明を聞いていたのだが、

「ところで、君はこの舞踏会について、どこまで知っているだい?」



そんな矢先で、シグサカがまるで試すようにそんな質問を投げかけてきた。

「は? どこまで、って勇者と聖女が来るってことぐらいだけど」

そう言って、口元にコップを添える神宿。
対するシグサカは小さく笑いながら、頭を頷かせ、

「それじゃあ、その勇者と聖女について。今回ここに集まる彼らたちには三種の枠組みがある、ということは?」


そんな言葉を口してきたのである。


「三種の枠組み?」


その言葉に眉をひそめる神宿に対し、シグサカは口元を緩ませながら話を続ける。



「勇者と聖女は本来女神によって、召喚された者につけられる名称なんだけど、この世界ではそれ以外にもその名称をつけられる者たちがいるんだ」
「…………」
「一つはあそこにいる青年」


そう言ってシグサカが指差した、そちらには周囲な貴族たちを従わせた、若々しい一人の青年の姿があった。

髪は赤く、また目つきは鋭い男。
一見して老け顔だが、タキシードでは隠せない筋肉質なその出で立ちから戦士の雰囲気を醸し出している。
だが、何より気になったのはその青年の顔、その両サイドから生える人族らしからぬ少し尖った耳に対して、だ。

「……彼はここから東の地に住む獣人族、その中で強靭な実力から勇者として選定された男、ガルア」
「獣人族…」
「ここらではあまり見かけない種族だからね。君にとって、初めての遭遇だろうけど」

シグサカはそんなガルアを見据えながら、語り続け、



「女神でない人々の中で生まれた勇者、その者を皆は選定の勇者として呼んでいる。それが一組目の枠組みでもあるんだよ」
「………」
「そして、今はまだこの場に姿を見せていないが、後々に出てくるであろう彼女。人々や女神ではない、世界によって生み出された天然物の枠組み。それに該当する存在こそが聖女、ミーティナという女性なんだ」
「…………」

『選定』と『天然物』
並び続く、聞き慣れない言葉に眉をしかめる神宿だが、

「でも、この場にはもう一人、選定された聖女が一人いるんだよ。まだ顔を見せてはいないが」


しかし、それでも最後に残された枠組み。
その言葉だけは容易に想像がつく。


「そして、最後が」
「女神から選ばれた、転生者……ってわけか?」
「……正解」



女神によって転生者となった存在。
神宿とシグサカ。


「一応、僕も女神から転生させてもらって、勇者という名称を授かっている。だが、何よりも女神から与えられたスキルを持っていることが、その証明でもあるんだよ」


女神のスキルを持つ者。
それこそが、勇者、である。

そう世界は認識しているのだと、シグサカは語る。

「……………」
「だけど、選定と転生は揃ってはいるが、肝心の天然物の勇者だけは見つかってないみたいなんだ。今も躍起になって、国やら賢者たちがその勇者を探しているみたいだけど」
「そりゃあ、ご苦労さまな事だな」


神宿はそう言って相槌をうつ。
天然物の勇者がどういう人物なのか、とくに興味がないのだ。

ーーーしかし、それはそれとして。


「俺は前に出るつもりはねぇよ」


例え勇者であったとしても、それを名乗るつもりはない神宿。
それはシグサカにとっても、元より既にわかっていることであった。




だが、しかし。


「知ってるさ。だけど、君は聖女とは必ずしも言葉を交わさなければならないだろう?」
「は?」

その言葉に、神宿は今度こそ強く疑問の声を上げる。
ーーーーーー何故なら、




「だって、転生した時。君も聖女の目の前で召喚されたんだろう?」




初めて聞いたその内容に、神宿は驚きを隠せなかったからだ。

「………は? いや、なんだよ、それ」
「………え? いや、君もそうだったんだろ? 僕と同じで」
「いやいやいや、俺の時はどこかもわからない森の中だったんだけど」
「……………」
「……………」


どうやら、あの女神の適当さは筋金入りだった、ようだ……。

その事実に顔をひきつるシグサカの手前、その場に座りこむ神宿は、その知りたくもなかった事実に大きな溜め息を漏らすのであった。


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