自害阻止スキルと自然治癒スキルを与えられた少年は、異世界転生からリタイヤ出来ない!
受難
それは、あの決闘から数日が経ち、学園が授業を再開し始めた頃だった。
朝の準備運動を終え、学園の各生徒たちが校舎前のグラウンドにて日々慣れつつある授業を受ける中、
「トオル?」
魔法具の剣を展開させるカルデラは、ふとその時、皆が授業に集中する中で一人棒立ちのように立ち尽くす神宿の姿に気がついた。
そして、その当人たる神宿は、
「……………」
神宿は自身の手のひらを見つめながら、一人動揺した表情を浮かばせていた。
「魔力が纏えない?」
「…ああ」
そう言葉を口にしたのは、神宿の師匠でもあるアーチェだ。
現在の時刻は夕方頃を指す。
学園の授業を終えカルデラたちと一緒に男子寮へと帰ってきた神宿は、リビングの椅子に腰掛けながら自身の手のひらを見つめつつ、事の経緯を彼女に話していた。
「前と同じように魔力を纏おうしてるんだけど、なんか上手くいかなくてな…」
神宿はとくに変わったことをやろうとしたわけではなく、いつものように魔法を使おうと意識した。
ーーーーだが、何故か魔力を纏うことだけが出来なかった。
そして、その後。
何度も繰り返し、魔力を纏おうとしたが上手くいかず結果として今日一日、一人授業に参加する事が出来なかった。
…もしかしたら、今日はたまたま具合が悪かっただけかもしれない。
そう願う神宿だったが……不安の方がデカかった。
もし仮に、このままこの状態が続くのであれば、それは魔法を扱う彼にとっては大きな問題となる。
「はぁ…」
そんなわけあって、胸の内に溜まった不安を解消したく、神宿はこうして師匠であるアーチェに助けを求めたのだが…。
すると、その時。
そんな神宿の隣から、
「でも、トオルっていつも自分の修行をしてるじゃないですか?」
「確かにそうよね。…その時とかに違和感とかなかったわけ?」
制服から私服に着替えてリビングへとやって来た、カルデラとカフォンがそう尋ねてくる。
「いや、まぁそうなんだけど。…実はちょっと修行の中身が少し変わったんだよ」
「「え?」」
「ファーストに、常にアーチャーウィンドを使え、って言われてな。……だから、最近魔力を纏う練習自体やってないんだよ」
そう言って苦笑いを浮かべる神宿は、これが原因かな…、と若干思っていたりする。
……簡単にいうなら、他のを練習しすぎて基礎を忘れてしまった、のではないかと。
しかし、その話を側で聞いていたアーチェは口元に手を置きながら、
「アーチャーウィンド…」
その言葉に対し、密かに唸り声を漏らしていた。
『アーチャーウィンド』
それは先日、神宿がギアンとの決闘の最中で、風の特性を魔法に組み合わせた事で異分変質したある種の特殊魔法だ。
本来ならその魔法自体、存在するのが奇跡に近いものであるのだが…。
「ねぇ、もしかして、ただ単に練習してなかったのが原因なんじゃ」
「うっ…」
アーチェが考え込む中、一方でカルデラの指摘に苦い表情を見せる神宿。
当人自身、その可能性を考えてるため、否定ができず、
「…やっぱり、怠けてたから」
と、そんな言葉をぼやこうとした。
ーーーーその時。
「そんなわけないじゃろ」
と、突然とアーチェの隣に直後。
白髪の少女、大賢者ファーストがテレポートにて姿を現したのだ。
「うわっ!?」
「ふ、ファーストさん…!?」
カルデラは驚いた声を上げ、カフォンに対しては敬語的な口調を見せる。
だが、その一方で神宿は今の発言に対して眉間を寄せる表情を見せていた。
「師匠…まさか」
「うむ」
そして、何かがわかったのか、そう尋ねるアーチェに対しファーストは頷きながら神宿を見つめ、
「小僧、今からちょっとワシに付き合え」
詳細な説明をするため、場所を移すのだった。
修行場へとやってきた神宿たちは、そこで大賢者ファーストの説明を受けていた。
「まずはじゃが、魔法を纏おう動作をやってみろ」
「……ああ」
ファーストに言われたまま、神宿は魔法を意識し、
「ウォーター《オーラ》」
魔力を纏う、魔法を使おうとした。
だが、
「……………」
一向に待とうとも、魔力が神宿の体を包む気配すらない。
カルデラとカフォンが固まり、神宿は溜め息を漏らす。
だが、
「……やはりな」
その様子を見ていたファーストは、それで何か確証を得たかのように言葉を呟いていた。
そして、よし、声を出しながら、
「次にじゃが、アーチャーウィンドになってみるのじゃ」
「は?」
「いいから、やってみるのじゃ」
そう急かされ、神宿は訳もわからずながらも意識をある一点に集中させた。
それは、日々やる修行に取り入れた特殊魔法。
その名も、
「カスタムチェイン……アーチャーウィンド」
次の瞬間。
ブワッ!! という風が神宿を中心に吹き上がる。
神宿の全身には風の魔法が包み込み、右手にはバツ印のグローブのような風、左手には大きな弦の風が備わる姿へと変わった。
そして、ゆっくりと開かれた神宿の瞳が淡い光を帯びた緑色となり、その瞳にドキッとなるカルデラとカフォン。
そんな中で、
「よし、それじゃあその力の主力を弱めてみよ」
「お、おう」
ファーストに言われ、神宿は意識を集中させながら、さじ加減を調整する。
「もう少し」
「……………」
「まだじゃ、もう少し、もう少しじゃ」
ファーストは簡単にそう言ってくれるが、実際にはかなりの神経を消費する調整だった。
例えるなら、膨らみ続ける風船をある一定の膨らみで維持し続ける、そんな感じだったのだ。
……まさに、ファーストに言われて修行に取り入れてなければ出来なかっであろう。
「………」
神宿は頰に汗をたらしながら、集中する。
と、そこで、
「よし、そこでストップじゃ」
ファーストから、ストップの合図がおりた。
「ふぅ…」
慎重に息を吐きながら、その状態を維持し続ける神宿。
ーーーーーすると、その時。
「トオル…」
「ん?」
側で事の成り行きを見守っていたカルデラが話しかけてきた。
そして、彼女は驚いた様子で口を動かしながら、
「魔力、纏えてますよ…今…」
その言葉を伝えたのだ。
そして、その言葉通り神宿の全身には、今までと変わらない微弱ながらも魔力が纏われていた。
「……な、なんで」
「まぁ、簡単に言えば結合してしまったんじゃろ」
驚く神宿に対し、ファーストはそう言って事の経緯を語り始める。
「お主はアーチャーウィンドという魔法を無茶苦茶な方法で成功させてしまったのじゃ。まぁ、それ相応のデメリットがあってもおかしくはなかったんじゃろう」
「で、デメリット?」
「そうじゃ。……そして、検証した通り、そのデメリットという形は『オーラ』と『アーチャーウィンド』が結合してしまったという形で現れたのじゃろう」
神宿が魔力を纏う際、プラスチェインとして付け足していた特性。
それが『オーラ』という特性だった。
「本来ならそんなに問題視する事はなかったんじゃろうが、お主の場合は特性を使うことが体に染み付いていた。……じゃから、皆がやっているように魔法を纏おうとした際、無意識に特性を使ってしまっていた」
「………」
「そして、その結果。デメリットとかち合ってしまい、今回のようにお主が魔力を纏えなくなってしまったのじゃ」
結論から言えば、アーチャーウィンドという強力な力を手に入れた神宿は、その結果として、基礎ともいえる魔法を使えなくなってしまったのだった。
「………」
そして、その事実に神宿自身も動揺を隠せずにいた。
「じゃ、じゃあ、トオルはもう魔力を纏えなくなっちゃったってことなの?」
今回の経緯に少なからず関わるカフォンは、そう言って不安げな表情を浮かべる。
ーーーーーだが、
「いや、纏う方法はあるぞ?」
「「「え?」」」
平然とした様子で、そう言うファースト。
「出来んくなったのは、コヤツの方法だけなんじゃ。なら、正規の方法で魔力を纏う練習をすれば、自ずとできるようになるじゃろう」
「っ、そ、それじゃあ」
「じゃが、今の現状じゃとその練習は悪手になるじゃろう。なんせ、また一から習えと言っておるようなものじゃし、それに何も全然出来んというわけじゃないのだから。…現に今も風の魔力は纏えておるんじゃし」
そう言って、皆の視線が神宿のアーチャーウィンドに集中する。
だが…。
しかし……。
「……い、いや……この状態って、結構シンドイんだけど…」
冷や汗を流しながらそう訴える神宿。相当辛いのか、その頰がピクピクと震えているのが見えた。
……しかし、そんな彼に対して、ファーストはニッコリと笑顔を浮かばせながら、
「問題ないじゃろう。単なる自業自得なんじゃから」
「うっ…」
「まぁ、心配するな。ワシの言った通りの修行をして、なおかつ増量の修行を付け足して」
「ぇ、ちょ!?」
どん底に落とす勢いで、そんなセリフを言ってきたのである。
そして、何故かファーストから修行内容のレベルアップが確定した事を告げられ焦る神宿。
……だが、すでに手遅れなのである。
……….何故なら、他三名が一斉に助けを求める神宿の視線から顔を背けのだから。
ーーーそして。
ダラダラダラダラ、と汗を流す神宿。
ニコニコ、と笑うファースト。
そんな二人が向かい合う中で、
「喜べ。大賢者であるワシ直々に鍛え直してやろう」
大賢者ファーストはそう言って笑のであった。
それはまるで悪魔の笑みのよう……。
ーーーーーこうして、神宿の受難が、始まるのであった。
「「「が、頑張って……!」」」
「お前らなぁ〜っ!!!」
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