自害阻止スキルと自然治癒スキルを与えられた少年は、異世界転生からリタイヤ出来ない!

goro

思いの一矢




ダブルボム。
二つの爆発の特性を一矢に込めて放った一撃は、盾諸共ギアンを後方へと吹き飛ばした。

ーーーーそして、その時。
神宿の瞳は、


「ウォーター」


倒れるギアンの首から垂れる、一種の魔法具でもある銀色の首飾りをしっかりと捉えていた。



「《ダブルホーミング》」



その次の瞬間。
標的を射抜くため、補足の一矢が宙を一閃する。

主を守るべく剣を持つ鎧腕が道筋を遮るが、それを規則的な動きでジグザグに移動するかのように矢は避け、突き進む。
しかし、標的の手前で最後の砦ともなる宙を浮く盾が主を守るべく、前に立った。

だが、



「行け」


ダブルホーミング。
その名の通り、ホーミング作用はこれまでとは違い、二回矢に付与されている。
例え二度、進行を遮られたとしても、矢は再び対象を補足し、盾を避けながら標的へと到達する。

「ッ!?」

そして、その直後。
矢は銀色の首飾りを射抜き、一つの魔法具を破壊する。



ーーーーー銀色の首飾り。
それは、ギアンでは扱いきれない二つの魔法具。それを補助するために装備していた操作用の魔法具だった。

しかし、神宿自身、それが魔法具かどうかは半信半疑だった。
だが、ギアンが身につけているそれには、妙な違和感があった。

貴族がつけるには不釣り合いな代物、のように神宿には見えたのだ。
だからこそ、神宿は一種の賭けを掛け、それを射抜いたのだ。



そして、その賭けは的中した。





ガタン! ゴトン!! と、音を立て地に落ちる盾の鎧腕。

それはまさに、これまでギアンを守ってきた鉄壁の防壁が完全に無力化された瞬間でもあった。



ギアンの視界で、無力化させられた二つの魔法具。
自分の手にあったものが、簡単に奪われた。その結果にギアンは怒りの感情を爆発させる。

「クソッ!クソクソクソッ!!!」
「…………」
「平民のくせにって!! そこらに落ちてるゴミのクセにッ!!俺をッ! 俺を見下しやがってッ!!!」

暴言を吐き、神宿を睨みつけるギアン。
だが、そんな言葉に対し返答は返ってこない。

何故なら、神宿は無言のまま地に落ちたギアンを見据えていたからだ。


「…殺してやる…殺してやるッ!! 殺してやるッ!!!」


ギアンはふらふらした動きで立ち上がり、ズボンのポケットから何かを取り出した。

それはこれまで扱ってきた魔法具に比べ、あまり貧相な、鎖で繋がれた小さな銀箱だった。


ーーーだが、


「ッ!?」
「ッ、アヤツ!?」


決闘の審判でもある教師。
そして、大賢者ファーストが、その箱を見た直後に顔色を険しいものにへと変化させる。


「ギアン! それは」
「うるせぇッ!!」


教師の声に反発するギアン。
その一方でファーストは、直ぐ様結界近くに駆け寄り、神宿に言葉を飛ばす。


「小僧! 今すぐそこから逃げるのじゃ!」
「……は?」
「あれはロジックデスモという魔法具なんじゃ! あの中に、上位クラス、いやそれ以上のモンスターの一撃が封じ込められておる!」

ロジックデスモ。
それは上位クラスの冒険者たちだけが持つことを許された魔法具であり、強敵、もしくは危機的状況に陥った際にのみ使用が許可されている。
しかし、

「じゃが、あれはマズすぎる。そもそも広範囲に放出するように作られたものなんじゃ! それがもし、こんな閉じ込められた場所で解き放たれたとすれば、そのダメージは計り知れないものになる!」
「………」
「お主のスキルで完全に防げるかも定かではないのじゃ!そもそも、殺し前提の決闘は認められておらん!じゃから逃げたとしても負けにはならん!じゃから」

危険だから結界から出ろ。
そうファーストは言おうとした。
ーーーーだが、


「ファースト」
「!?」
「結界、もう一つ張っといてくれ」


その言葉にファーストは目を見開き、驚きの表情を見せた。
そして、

「トオル……」

近くにいたカフォンもまた、その言葉に驚きを隠せずにいた。





目の前で凶悪な笑みを浮かべるギアンは、危険な魔法具を開けようとしている。
だが、

「悪いな、これは俺個人のわがままなんだ」

神宿はそう言って、再び構えた。
そして、

「例え、試合に勝てたとしても」

ーーその言葉と共に、力は強くなる。

「他の奴らが、それを認めたとしても」

ーーーその決意と共に、風の力は上昇する。

「俺自身が、認められねぇんだ」


ーーーーそして、その覚悟と共に、



「アイツだけには、絶対に何が何でも負けたくねぇんだッ!!」




ーーーアーチャー ウインドは、更なる高みへとランクアップする。

左腕に備わる大弓がまるで妖精の翼を生やしたかのよつに、四枚の風羽を出現させる。
そして、同時に神宿の右手に備わる風は力場を増し、その手を守る防具へ変質する。


ーーー神宿自身、それがどういう原理で出現したのは理解していない。
だが、この時。


「これで、終わらせてやる」


この負けられない決闘に勝つためなら、理由など関係ない。

「ウォーター! ウィンド!」

神宿の言葉と共に、右手に水と風の魔法が出現する。
そして、それが混ざり合うようにして一撃の矢として形成される中で、



「《トリプルボム》」



限界を越えた三つの特性付与。
爆発の特性が備え付けられた水風の矢がその手に形成させられる。

「ッ!?」

だが、アーチャーウィンドによって強化した状態でも限界があった。
右腕から不気味に音が聞こえ、それがどこかの部位、いや骨が軋んだ音が聞こえた。

だが、それでも、

(アイツらの苦しみに比べたら……こんなの怪我のうちに、入るかッ!!)


共を助けるために、奮闘した者がいた。
何も出来ないことに、涙を流す者がいた。
大切なものを守るために、自身を犠牲にする者がいた。

ーーーそんな彼女たちの、思いを、その目で見た全てをこの一撃に注ぎ込み、




「死ねぇええええええええええええええええええええええ!!!!!!」




ロジックデスモ。
ギアンの手に持つ魔法具から放たれた、莫大な衝撃波。
それを前にして、神宿は目を座らせ、


「ぶちかませ」


その必殺の一矢を射ち放つ。





「『イグニッションボムッ!!!』」







ーーそれは、一瞬の出来事だった。

驚異的な衝撃波は結界全体を軋ませ、神宿に襲いかかろうとする。
だが、それは一対の矢によって対峙する。

大きさだけで比べるなら、それはあまりに小さな攻撃だった。


だが、直撃の瞬間、風の力は爆発する。
それは段階を踏むように、大きく、より大きくーーーーー衝撃波を包み込むほどに巨大なモノへと拡大した。
そして、衝撃波を喰うようにして、風は魔法具の一撃を自身の内に閉じ込め中でーーーー水の力は連鎖爆破を引き起こす。


衝撃波の力すら利用した、大爆発を巻き起こしながら。







ーーーーその次の瞬間。
強烈な水飛沫の爆発が結界内で飛び散った。
ファーストがとっさに張った二枚がけで結界のおかげもあり、何とは外への被害は及ぶことは無かった。
だが、最初に張られていた結界はすでに見る影もない。


それほどに、強大な力がその場で巻き起こったのだ。




ーーーーそして、水蒸気によって結界内が包まれた中で、




「は、ハハ……勝った、勝ったッ!!!」




ギアンだけが、その場に立っていた。
その瞬間、その光景を見ていた者たちの顔に驚愕が走る。

しかし、そんな最中でギアンは笑い続けた。



目の前にいた神宿の姿がない。
今の一撃で姿残らず消し飛んだのだと。




ーーーーそう、錯覚したのである。

「かっ」

真横で水蒸気が晴れた中。
歯を噛み締め、力強く拳を握りしめる、神宿の姿を見るまでは、


「これで」


神宿の言葉の最中、ギアンが何かを言おうとしていた。
だが、そんな言葉を聞く必要すらない。
何故なら、


「ーーーーー終わりだッ!!!!」



この一撃で、全てが終わるのだから。




ガッ!!!! と音と共に、ギアンの顔面か神宿の拳がめり込んだ。
そして、そのまま全体重を乗せた重い一撃はギアンの頭蓋骨。
その骨の音を軋ませながら、突き進み、


「ッ!!!!」


神宿が振り下ろした拳が離れた時、ギアンはその場に崩れ落ちるようにして倒れたのであった。




ーーーーーーそして、その場に沈黙が流れた中で、


「勝者! トオル!!」


教師の一声と共に、その場にいた全生徒から盛大な歓声が轟いた。
手を取り合いはしゃぐ者や、また拳を上に上げ、神宿の名を叫ぶ者もいた。



「はぁ、はぁ、はぁ……ふぅ…」



歓声に包まれた中、神宿がそっと息を落ち着かせた。
その時。

「トオル!!!」
「うぉ、わっ!?」

背後からカフォンが飛びつくようにして神宿も駆け寄ってきた。
その為、神宿の体はカフォンと共に倒れ落ちる。

「っ、お前なぁ」

小さな痛みに顔をしかめながら、神宿は口を開こうとする。

だが、神宿の懐でカフォンは頭を擦りつけながらーーーー泣いていた。
ーーーしかし、それは、


「ぅ、ぅぅ、っ……ぁ……ぁりがとぅ……ぁりが、とぅ…っ!」
「…………」


悲しみに染まった涙ではなかった。

嬉しさや感謝、諸々詰まった、勝者にふさわしい涙だった。

ーーーーだから、神宿はしばし無言でカフォンを見つめ、


「……」


そっと笑みをこぼしながら、



「……ああ」



彼女の頭を優しく撫で、神宿はそう小さく答えるのであった。



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