自害阻止スキルと自然治癒スキルを与えられた少年は、異世界転生からリタイヤ出来ない!

goro

急転




二つの魔法具を操るギアン。
そんな敵に対し、神宿が取った行動は実にシンプルなものだった。


「ウォーター《ホーミング》!!」


再び死角をつく攻撃を放つ神宿。
初め狙いは的外れの方向に行くも、すぐ様それらは修正され、ギアンを狙う。
だが、

「無駄だぜ?」

黒い盾、その表面に装飾されていた獣のような顔の顎が開き、そこから二つの魔法が飛び出した。

それは水と風の魔法だ。

そして、その二つの魔法はいとも容易く神宿の攻撃を相殺してしまう。


「っ!」
「この盾は妹が使ってたやつより優秀なんだよ。防いだ際にその魔法を吸収し、倍にしてその魔法を吐き出す。いわば、上位版ってわけだ」
「………」
「だが、お前の魔法は何でも弱すぎる。だから倍にしたところで上位の魔法にも至らない。よくそんな弱っちいくせに俺に歯向かおうとしたよなぁ?」


もし仮に神宿が上位の魔法を使えていれば、その倍の魔法が飛んで来ただろう。

だが事実、神宿は上位魔法は使えず、またプラスチェインといった特性を付与させる方法でしか攻撃手段を持ち得ていない。

だが、それが功をそうしたのだ。





「まぁ、っーわけだから、盾に期待するのは無理そうだな」

戦況が好転しないことに溜息を漏らしたギアンはそう言って小さく笑う。
そして、

「だが、剣に至ってはーーーまた別の話だぜ?」

その言葉を口にした直後。
宙を浮く鎧の腕が神宿に迫り、剣を振り下ろしたのだ。


「っ!?」

とっさの判断で真横に跳び回避する神宿は、そのまま流れるようにして攻撃の構えを作り、

「ファイアッ《ボム》!!」

炎の爆発矢を鎧に向かって放ち、直撃させた。

大きな音に続き、剣を持った鎧の周囲には煙が漂う。
ーーーーだが、

「なっ!?」


神宿が見つめた先で、そこには傷一つ付いていない剣と鎧腕の姿があった。
そして、攻撃をやり返すように振り下ろされ剣が神宿の衣服を切り裂く。


「ーーーー!?」


寸前の差で後ろに引いた為、直撃は免れた。
だが、それでも肩の衣服には一筋の切り裂かれた跡が残っていた。



(ッ、避けることは出来た。けど…)


攻撃が通った。

その事実を確かめ、神宿は歯を噛みしめる。
本来なら、今の攻撃に対して神宿が持つ、一つのスキルが発動する。
そのはずだったのだ。




それはーーーー『自害阻止スキル』

自身での自殺行為を防ぎ、また目に見える死の予感を身体が少しでも感じれば、防壁の魔法陣が展開される。
それが当たり前のはずだったのだ。


だが、

(この腕輪のせいか…っ)

神宿が睨みつけたのは、ここ最近につけられて腕輪に対してだ。


それは生徒の修行に加え、その身を守る役割を果たす一種の魔法具であり、また学園に通う間ずっと使い続けてきたものだ。



しかし、その装着を長く続けていた為に、神宿のスキルにある障害が生じてしまったのだ。


(……ッ)

それは腕輪をつけていればその身は守られると、神宿の身体が無意識に判断してしまった事だ。

安全面が長く確立されてしまった場合、それが当たり前だと錯覚するように…。


つまりは、死の予感が鈍ってしまっているのだ。







(どうする…)


女神のスキルが発動しない。
その為、確実に一撃は食らってしまう。そして、それが気絶するほどの威力を秘めた攻撃であれば、そこで決闘は終わってしまう。

(どうする……)

目の前に対峙する剣を睨み、対策を考える神宿。
このまま守りに出ていては攻撃に移らず、また攻撃しようにも、あの盾がある。


(どうする…ッ!)


攻撃の手段を考え、この弱い手札でどう勝つ道を作るかーーーーーーーーそう、神宿が考えた。



その時だった。


(ーーーーーーーいや、待てよ。そういえば、アイツ…)


弱い手札での攻撃。
それを防ぐ盾。
ーーーーーーいや、それは正確ではない。

そう、正確に言葉として表現するなら…。






(アイツは必ず、こちらの攻撃を防御する。それが、弱い攻撃であっても…)








「………………」
「おいおい、どうしたよぉ? なんだ、ビビっちまったのかぁ?」

ゲラゲラと笑うギアンは、既に勝ちは確信しているかのように、優越な表情を顔に表していた。

だが、そんな彼に対し、神宿はーーー小さく笑った。



「ーーーーあ?」



その小さな笑い声に、陽気に笑っていたギアンの声が止まった。
そして、再び苛立ちを覚えたギアンは宙を浮く鎧の腕に攻撃で命じようとした。


だが、その時。


「ウィンド《カッター》」

神宿の手から放たれたカマイタチに似た攻撃が、ギアンに迫り来る。

しかし、それは盾によって簡単に防がれてしまう。
だが、

「ウォーター《スプレッド》」

神宿は再び攻撃の手が休まる事無く、攻撃が放つ。
しかし、盾はまた同じように防ぐ。

ーーーーだが、




「ファイア《スプレッド》」





再び攻撃が放たれる。
それも、まばらに撒かれたような攻撃であり、盾一つでは防げない攻撃でだ。

「っ!? も、戻ってこい!!」

ギアンはすぐ様鎧腕をこちらに戻らせ防御の姿勢を構えた。

ーーーそれも、対してダメージも与えられない弱小の攻撃に対して…。



火の球を剣と盾で防ぐギアン。
そんな彼に対し、


「……確かに魔法具が凄くても、使い手がそれじゃあ本当に意味がないんだな」
「ッ!!」


神宿は身体を起こし、再び弓の構えを作る。
そして、こちらの動きを察し怒りの形相を露わにさせるギアンに向けて、




「防御一択しか知らないお前に教えてやるよ。ーーーー攻めの防御ってやつをな」





その言葉と共に、神宿の反撃を始まった。














「はぁ、はぁ、はぁ、っ!!」

荒い息を出しながら学園のグラウンドへとようやく辿り着いたカフォン。

男子寮からこの学園までかなりの時間がかかり、裸足で走ってきた為、足の裏からは血が滲み出ていた。

痛みはあった。
動きもそれに応じて鈍くなっていた。

だが、それでも、



「ーーーーーーーーぇ」



カフォンはその目のまで起きていた光景に驚きを隠せずにいた。






「ウォーター《スプレッド》ウィンド《スプレッド》ファイア《スプレッド》!!!」

連射のごとくそれぞれ違った魔法の矢を放つ神宿。
対するギアンは迫り来る攻撃に、ただただ防戦する一方だ。


「ッ! この」
「アース《ホーミング》」
「ひっ!?」


優秀な魔法具を有しているはずなのに、ただ防御する事しか知らない。

自身の手は汚さなず、悪事に行ってきた行ギアン。ーーーーいや、そんな男だからこそ、己の身を守ることしか出来ないでいたのだ。





そして、その一方で神宿は、

(狙うなら、ここだ…ッ)

ギアンではない、魔法具自体に揺さぶりをかけていた神宿は、その手に魔力を込め、土の魔法を矢として作り上げる。
そしてーーーーー、




「アース《ボム》!!!」




両サイドに離れた魔法具。
その中間の背後に立つギアンに向けて、爆発の特性を備え付けた一撃を放った。



「と、とめろぉ!!」



ギアンは魔法具に防御を命じる。
何の考えもなく、ただ目の前の盾であれと、そう強く念じた。

だが、それが悪手だった。






ガン!!! と、その時。

「!?」

甲高い音と共に鎧の腕と盾が互いにぶつかり合い、反対方向へと跳ね返ったのである。
そして、僅かに空いた隙を矢が通り抜け、


「まーーーッ!?」



次の瞬間。
神宿の一撃が、ギアンに初めて命中した。


至近距離での爆発によってギアンの体は後方に吹き飛び、その顔からは鼻血や絶叫が弾け飛ぶ。


「ぃたい!?いぃ、いたいぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいーーーーッ!!!」


幼い子供のように泣き叫ぶギアン。
ーーーーだが、だからといって、神宿が手を止める事はなかった。




「これで終わりだ」




ーーーーカフォンやラフリサ、ギアンによって苦しめられてきた、そんな彼女たちの為に。
神宿はその両手に力強く魔力を溜め込み、最大の一撃を構える。


そして、その場にいた、誰もが神宿の勝ちを確信した。


















ズブッ…。













ーーーーーーその時だった。


それは当然だった。
決着がつくと思った矢先で、矢を構えていた神宿が魔法を解いたのである。
そして、結界の外にいた生徒たちがその動きに疑問を抱く中、


「っ? ッ…?」


神宿は震える手を腰元にやり、そこからーーーーーーズブリッ、と何かを抜き取り、地面へと放り投げた。

カランカラン…、という金属が地面に落ちた際に鳴るような音が聞こえた。


「え?」


だが、そんな事すら気に止められない事態が神宿の身に起きていたのである。


「ねぇ、ちょっと…あれ」
「おい…嘘だろ…」


観客側にいた生徒たちから、そんな声が聞こえる中。


「…ッ、ぅ」

それは、神宿の腰元。
その上に着せられた衣服から、まるで内側から染め上げられるようにして真っ赤な染みが徐々に広がっていく。


そして、ついには地面にまで、その真っ赤な液体が零れ落ちていたのだった……。









「……ぃゃ」

結界の外。
観客側に集まる生徒たちから、沢山の悲鳴が聞こえる。
そして、結界の中。一人の少年が大量の血を流しながら地面に崩れるようにして倒れた。


「…ぃゃ…っ」


その量は致死量に至るほどに、彼の足元には小さな血の湖が出来ていた。
また神宿からは倒れていこう、声が全くとして聞こえない。







そして、また。
ーーーーー大切な人がまた、カフォンの目の前でいなくなってしまう。





「ぃゃ…ぃゃ…ッ、いやぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」





ーーーー泣き叫ぶカフォンにとって、それは到底受け入れない、現実そのものだった。



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