自害阻止スキルと自然治癒スキルを与えられた少年は、異世界転生からリタイヤ出来ない!

goro

ストック




魔法具の発動には、それぞれ決められた法則がある。

それは精神力と魔力の供給。



これらが通らなければ魔法具は機能しない。それが、魔法具においての絶対でありりーーーーーー魔法具を扱う者にとって、なくてはならない代償だった。












ーーーーそこは、暗闇の中。
一つの映像を映し出す、光る水晶が置かれた密室で、

「っ、ぅぁ」

バタッ……と、音を立ててーーーーーーそこにいた一人の少年が死んだ。

「ひぃ!?」
「ぅぇ、うぇぇん!!」
「ぃゃだ、ぃゃだ、死にたくないっ!!」

まるで衰弱して死んだ少年の周囲には数十人の同じような年代をした子供たちの姿があり、皆恐怖で気がおかしくなりかけていた。

だが、ーーーーーーそれは無理もない事だった。


何故なら、既にこの密室では五人の子供たちが命を落としていたのだから。



ーーーーーーそして、


ドクン! ドクン!!


「!?!?」


まるで鼓動を打つように光を放つ水晶が、次の犠牲者を選ぶ。


それは、まだそう歳もとっていない、貴族ギアンによって奴隷とされ買われた少女、マヤだ。

「………そっか、私か…」

ボロボロの衣服を着る彼女は、そう弱々しい声を呟く。



ーーーー彼女がギアンに買われた理由。
それは、家族が掛けられた借金を返すためだった。

何の変哲も無い、平民として日常を過ごしていたマヤ。
だが、そんなある時。偶然道を通りかかったギアンにぶつかってしまったのだ。


そしてーーーーーたったそれだけの理由でマヤの平穏な日常は崩壊してしまった。






その次の日、マヤの両親の元にギアンが訪れ、


『この女をもらっていく。コイツは、この俺様の服に泥をつけたんだ。……何、この服を弁償できるだけの金が溜まったたら、返してやるよ』


泥なんて、目で確認すらできないほどの小さなものだった。
それなのに、ギアンはそれを理由にマヤの両親対し、平民で払えない金額を請求しーーーーそうしてマヤを奴隷として強引に手に入れたのだ。


『マヤーーっ!!』
『お母さん!!お父さん!!』










そして、連れ去られ、弄ばれーーーー


『お前たちにはここで俺様が使う魔法具の肩代わりをしてもらう。…逃げられると思うなよ?』


いらなくなった奴隷たちを選び、洞窟の奥深くに閉じ込めたのだ。
そして、ギアンは置き土産として自分が戦う様を見れるよう魔道具の水晶を置き去って行った。






ーーーーーーそして、そこから……地獄が始まったのだ。







より強力な魔法具は、より多くの精神力や魔力を吸収する。
子供一人分の命で数分。
強力な魔法具はそうやって、簡単に一つの命を摘み取っていくのだ。


「……………」

水晶に移る映像を見つめるマヤは、小さく唇を紡いだ。

ギアンと知らない少年が戦っている。
ーーーいや、そもそもこんな決闘さえ起きなければ、私たちが死ぬことはなかった、と思ったりもした。


(……うんん。そうじゃ、ない)


だが、そこでマヤは自身の考えを不定した。

そもそも、ギアンに捕まった時点で。……彼女たちの人生は終わっていたのだ。


奴隷を解放する金を……マヤの両親たちが稼げるわけがなかった。

そんなの、あるわけがなかったのだ。




「…………」




周りを見渡し、同じ年頃の子供たちを見つめるマヤ。
皆、恐怖に震えながら、泣いていた。

次に自分の番が来ないよう……祈る者もいた。



「ぅ、っ…………」



希望なんて、ない。
助かるわけも、ない。
そんなこと、わかっていた。


ーーーーだけど、それでも、


「ぁ…ぁぃたぃ……ょ………ッ……ぉとうさん、ッ! おかぁ、さんっ!!」


マヤはそう言わずにはいられなかった。
涙を流し、もう一度だけでもいい。

あの時の平穏な毎日を。
いつも笑ってくれる、怒ってくれる、慰めてくれる。


そんな大切な両親に、もう一度だけ、会いたかった。








「っ、……たくなぃ、死に、たくなぃ!!」



光る水晶を見つめながら、マヤはその願いを泣き叫んでいた……。



















ーーーーーーその時だった。




『ーーーーーーーー突き破れ、レイジェクト、リヴァイウサン!!!』





次の瞬間。
密室と化していた洞窟の壁が突き破られ、マヤを含めたその場にある物全てが水の龍に飲み込まれた。


ーーーそして、その数秒。当然のことに目をつぶっていたマヤが、


「大丈夫か、お主ら」


その声に導かれ、目を開けた。
そこには、



「ふぅ、間一髪といった所じゃたらしいな」



洞窟の出口。
閉じ込められていた子供たちの中心で、その場に立つ淡い水色の髪をなびかせる少女いた。



大賢者ファースト。
彼女はマヤを抱き抱えながらそう言って笑みを浮かばせていたのだった。


「っ、ぁぁ、ぁ」
「……もう、大丈夫じゃよ」
「ぅ……っ…ぅぁ、うああああああああああああああああんっ!! うぁあああああああああああああああああああああん!!!」






そうして、魔法具によって命を刈り取られていた子供たちを洞窟から救出した、大賢者ファースト。

魔法具から漏れ出た魔力を追い、何とか子供たちを見つける事は出来た。

ーーーーーーーーだが、



「アヤツ……よくもこんなデタラメなルートを刻んだものじゃな」



魔法具から水晶、水晶から子供たちへと繋げられた魔力のルート。
その細やかな線は念密に組み込まれ、下手に解除すれば子供全員の命を根こそぎ刈り取らかねんほどに、嫌らしく繋げられていた。

小さな唸り声を上げるファースト。

「ぁ、ぁの……」

そんな彼女を、ようやく泣き止んだマヤは、不安げ表情で見つめていた。

「む? どうかしたのか?」
「ぇ、ぁ……ぃぇ」
「…ああ、そうか。ワシが悩むもんじゃから、心配したのじゃな」

そう言って笑うファーストに対し、マヤは慌てて声を上げ、

「ぁ、ち、ちが」

そう言おうとした。


ーーーーだが、





「何。心配は無用じゃよ」





その直後。
ファーストの髪が、水色から桜色へと変色する。

そして、彼女の手に一冊の魔導書。
ーーーーー更には羽のついたペンが姿を現し、






「解除する手段がないのならーーーーー新しく作ればいいだけなのじゃから」





大賢者は宙にペンを走らせる。

それは不可能を可能にする力。
遠い異なる異世界。神の法則すら書き換えた、賢者になりえた魔法使いの力を使う。





プワンプワンと浮かび上がる文字の数々が、宙を飛び、まるで泡のように子供たちの周囲を飛び回る。

子供たちは、そんな初めて光景に驚きながら、次第に笑みを零していくのだった。









そして、そんな彼らを穏やかな瞳で見つめるファースト。
だが、その裏側。
子供たちに見せない、その内心で彼女は怒りを混み上がらせていた。



ーーーそれは、あまりに非道な手段で子供たちの命を奪い、その上で笑みを見せたギアンに対して、



(アヤツはワシを……賢者を怒らせたのじゃ。小僧の後、ワシ自ら手を下してやろう…)



そう心の中で呟き、ファーストはその瞳を赤く光らせていた……。





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