自害阻止スキルと自然治癒スキルを与えられた少年は、異世界転生からリタイヤ出来ない!
次の段階
学園の授業内容がガラリと入れ変わり、早五日が過ぎた。
ちょうどその頃には大方の生徒たちが腕輪に慣れ、また楽しげにボールを投げ合う微笑ましい光景が広がりつつあった。
ーーーーーーーその一方で、
「「……………」」
カルデラとカフォンの二人は今、バテていた。
授業内容についていけてない、というわけではなく授業後に行われる地獄めぐりの特訓メニューによってだが…。
「うむ、それじゃあ、そろそろ授業のレベルを上げるとするかのう」
「…お前、アレ見た後でよくそんな鬼みたいなこと言えるよな…」
倒れる二人を尻目に、気にする事なくそう宣言する大賢者ファースト。
そして、そんな彼女の隣に立つ神宿は不憫なそうな視線を少女二人に対して向けるのであった。
ーーーーそうして、その一時間後。
「えー、それでは今から皆さんには、模擬戦の授業をやってもらいます」
と、男性教師がそう通達する中。
棒立ちとなる生徒たちの目の前には…
『ゴゴゴゴゴゴォォォ』
全長3メートルほどとなる巨大な石で作られたゴーレムが健在していた。
しかも、それらの巨体はいくつもグラウンドに召喚されており、生徒がくるのを待っている状態になっていた。
「せ、先生? お、俺たち…あれに攻撃するの?」
「け、怪我とかしたら」
若干ビビり気味でそう尋ねてくる生徒たち。
だが、対する教師はそんな彼らを安心させるように説明を話し始める。
「それも含めて説明します。えー、まずこのゴーレムには基本反撃する機能はとくに備わっていません。しかし、このゴーレムらにはある一つの魔法を付与されています。今からそれを見せたいと思うのですが」
そう言って男性教師が、誰かに声を掛けようと周囲を見渡す。
そんな時だった。
「きゃっ!?」
その時。
そう一際大きな声を上げた少女がいた。
それはツインテールが特徴的な少女でもあるーーーーーーーカフォンだ。
正確には、ファーストに尻を叩かれ、反射的に声を上げてしまったのだが…
「えー、それではカフォンさん。よろしくお願いします」
「ぇ? えっ!?」
当然の指名にアタフタするカフォン。
流石に不憫と思い、神宿が手を上げようとしたが、
「今回はアヤツにやらせるのじゃ」
そう言って、神宿はファーストに止められてしまった。
そして、そんなファーストは続けて教師に対して声を上げ、
「先生ー!」
「っ!? は、はい!」
「この授業に武器を使っても良いんですかー?」
「え、ええ! もちろんです! はい!」
どうやら教師陣は既にファーストの正体に気づいているらしく、可愛らしく声を上げる大賢者に動揺した様子で問い答えていく。
ーーーーだが、それよりも、
「…お前、まさか」
「まぁ、黙って見ておれ」
何かを言おうとしたが、ファーストにそう言われ、神宿は渋々顔を顰めるのであった。
ーーーそうして、その数分後。
皆が見つめる中、
「…………」
カフォンとゴーレムにより、一騎打ちという現状がグラウンドの中央部にて作られていた。
更に加えて、カフォンの手には大賢者ファーストから使うように言われた純朱の銃が握り締められている。
「なぁ、なんだろう。あれ」
「さぁ、また汚い手を使うやつじゃないの?」
「そうだよな。だってアイツ、廃貴族だし」
カフォンが見たことのない武器を手にしている。
たったそれだけで、周囲に立つ生徒たちのうちの何人かが口々にそんな言葉を呟き始める。
以前に起きた一件のこともあって、未だ悪い印象は絶えず生徒たちの中に残っている。
だからこそ、噂は着実と広がり続けているのだ。
「………」
そして、そんな現状を黙って見つめていた神宿は、少しイラついた様子で隣に座るファーストに対して口を開く。
「なぁ、あれって」
「まぁ……確かに目立つ行いじゃろうな」
分かりきっていた言葉にそう言葉を返すファースト。
「じゃが、今の段階で見せておかなければ、後々難癖をつけられることになるじゃろ。……いかに数ヶ月先のダンジョンを突破したとして、アヤツが持っているそれが怪しい、とな」
「………」
「気に入らんやり方なのは分かる。じゃが、先にあの武器の性能を見せつけ、周りの者たちが知った上でダンジョンを突破した方が、後々の難癖が多少軽減するとは思わんか?」
「…………」
確かに、仮に一人の選手が大会当日に目新しい物を使えば、皆の視線はそれに集まるだろう。
そして、仮にその選手が優勝などすればーーーーおのずと皆の視線は選手が使っていた物へと集まっていくだろう。
「アヤツの悪評含め、立場的には不利じゃ。しかし、じゃからこそ今回お初目として出す必要があった……そうワシは思ったんじゃよ」
「…………」
大賢者ファーストの考えは、わかった。
今回の事もふくめて、カフォンのためにわざと行った事も。
だが、
「なんじゃ? まだ不服か?」
「……ああ、お前の言い分はわかったさ。…けど、あの銃は」
カルデラの持つ剣とは違い、カフォンの持つ銃には強大な一撃を放つ仕掛けが施されている。
ーーーだとするなら、今回のお初目は逆に目立ち………逆効果になるのでは、とそう神宿は考えたのだ。
ーーーーーーだが、しかし、
「その事についてなら、大丈夫じゃ」
大賢者ファーストは、そう言ってーーー無茶苦茶悪い笑みを浮かべた。
「っ、えっと、確かに風の魔法で弾を作って」
そう言ってカフォンは魔力を練り、一つの銃弾を作り出す。
最近の修行でやっと一弾を作り出すことができるようになったのだ。
そして、カフォンはそれをオドオドとした様子で銃のシリンダーに装填し、
「そ、それじゃあ、行きます!」
教師にそう返事を返し、カフォンは銃口をゴーレムにへと向ける。
そしてーーーーーートリガーを引いた、その直後。
《バレット魔力量ヲ確認》
《魔力測定、完了。魔弾ーーーーウィンドバレット。発射ヲ許可シマス》
銃本体から機械的な音声が流れ、銃口からーーーーーードォン!! という音と共に風の弾丸が発砲される。
『ガゴン!!』
次の瞬間。
風の弾丸はみごとにゴーレムに直撃した。
ーーーーーその時、だった。
「ーーーえ?」
バコン!! という音と共に、倒れると思っていたはずのゴーレムとは反対的にカフォンがその場から吹き飛ばされた。
そして、ゴロンゴロン、バタン! となって、地面に倒れるカフォン。
「「「………」」」
ーーーこれには、周囲にいた者や、また彼女に対して悪評をついていた生徒たちでさえも言葉をなくてしまう光景であり、
「えー、今のようにゴーレムには魔法反射の魔法が付与されています。そして、また皆さんに取り付けられている腕輪にも防壁を強化する魔法が付与されていますので、大きな怪我を受ける心配はありません」
教師は至って平然とした様子で、そう説明するが、
(心配はありません…って、今目の前で一人の生徒が吹き飛ばされたんですけど…)
その時。
皆の心の声が今、シンクロした気がした。
しかし、なおも説明は続き、
「はい、それでは皆さんにはこのゴーレムとの模擬戦をしてもらい、戦闘時における攻撃魔法含め、反射神経の強化に励んでもらいたいと思います」
こうして次のステップとなる、地獄の特訓授業第二段が開始される事になるのであった。
そして、
「カフォンさん!? 大丈夫ですかっ!?」
「ぅ、ぅにゅ〜」
「き、気絶してるんですけどっ!? 鼻血も出てるっ!?!?」
ぎゃあぎゃあ、と騒ぐカルデラを眺めながら、神宿がファーストに尋ね、
「…つまり、下手をこいた印象を先に植え付けとけば、後々ズルとか言われる可能性が低くなるってことか?」
「うむ、正解じゃな」
「……はぁ。……あ、ところで何日も見てないけど、師匠は」
「っ!? ぅ、うむ。ま、まぁ………まだ気絶しとるんじゃよ…………ワシの料理で」
「は!?」
その日。
やっと悲惨な目にあった師匠の状態を知る神宿なのであった。
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