自害阻止スキルと自然治癒スキルを与えられた少年は、異世界転生からリタイヤ出来ない!
弱点
勝手に言葉を切ったファーストに声を上げそうになる神宿。
だが、そんな悠長な時間を相手が与えてくれるわけがなく、
「わっ!?」
再びアーチェによって、魔力を帯びたボールが投げつけられてくる。
しかも、ボールは後ろに張られた結界に当たって跳ね返り、アーチェの元に戻っていく始末…。
(っ! とにかく、アイツが言った言葉の意味を考えないと)
神宿はスレスレの感覚を意識しながら動きと思考を両立させ、何とか思考を巡らした。
そもそも何故、大賢者ファーストはアーチェが纏う魔力の色を見ろ、となど口にしたのか?
この腕につけた腕輪のせいもあって、常に均等に魔力を纏わなくてならない状況にあるのだ。
………だから、纏っているという点については考えを省くことは出来る。
………じゃあ、何故。
それを除いた結果、色を見ろ、となどを言ったのか?
そして、最後に何故。
アーチェが炎の魔法を得意としている、という情報を置いていったのか?
「ッ!?」
顔面擦れ擦れでボールを掠め、何とか回避する神宿。
だが、その投げられてくるボールの正確さが徐々に調整され始めてきている事に彼は気づいた。
(ヤバイな…。もうそろそろ、当たるかも…)
頰に伝う汗を流しながら、神宿はゴクリと唾を飲み込む。
対するアーチェは次で決めようとしているのか、ボールに込める魔力の量を底上げし始めた。
(……何か、弱点とかないのか…っ)
危機感を抱きながら、神宿は賢者アーチェの弱点を考える。
だがーーーーーーーそんなものが無いことぐらい、弟子である彼には、とっくの昔に分かりきっていた。
(アーチェじゃなくてもいいっ!! その他に何か、弱点は)
だからこそ、神宿は視点を入れ替えた。
アーチェにないのなら、その他となるもの。
彼女の姿や服装、グラウンドやボールへと…。
ーーーーーーーーそして、
(後は、あの赤い魔力…………ん?)
神宿が、アーチェが身に纏う魔力を思考の視点を置いた、その時。
ーーーーーー不意に、大賢者ファーストの言葉が脳裏に蘇った。
『後、アヤツが得意なのは炎の魔法じゃ』
「トオルくーん? これで終わらせるよー?」
ニッコリと笑うアーチェは、多大な魔力を纏わせボールをガッシリと掴みーーー大きく振りかぶる。
そしてーーーーーー
「ふん!!」
猛スピードでボールを投げ放ち、赤い魔力を帯びたボールが神宿の顔面を捉えようとした。
ーーーーーーーーその時。
「ウォーター《オーラ》!!」
神宿が手を前に突き出した、その直後。
全身に纏っていた彼の魔力の色が突如として変色をし始めた。
それもーーーーーー水を表す、青色へと。
神宿がたどり着いた答え。
それはーーーーーーー『属性』だった。
確かに魔力を纏うことだけを見れば、それ自体が特段レベルの高い技術に思われる。
防壁や攻撃の強化などに対しても、同じ事だ。
だが、魔法においてーーーー何も全てが魔力と強さで勝敗が決まるわけではない。
……例えるなら、槍と剣に該当とするリーチの差があるように。
……相手が炎ならーーーーーその弱点となる属性で対抗すればいいのだから。
「っ!?!」
バン!!! ギリュギリュギリュッ!!! と手のひらでボールを勢いを何とか止めようと踏ん張る神宿。
水のオーラを纏っていたおかげもあって、炎威力は相殺まではいかずも、多少の威力半減には成功することが出来た。
仮に、単に魔力を纏っていただけなら、今頃そのまま吹き飛ばされていただろう。
(っ、よしッ、こ、このままッ!!)
そして、一瞬の安堵が生まれた。
だからこそ、神宿は口元を緩ませながら思ったのだ。
何とかボールを受け止める、その目処がたった。
後はどう反撃をするか、と。
だがーーーーーーその時。
「《スピン》」
アーチェの口から、そんな単語が聞こえてきた直後。
グルン! と手のひらの表面を転がるようにボールが前へ前へと進んでいきーーーーー
「ぇ、ちょッブッ!?!?」
バコン!!! と。
ボールは見事に彼の顔面へとぶち当たり……バタン!! と音をたて神宿は鼻血を垂らしながら気絶のするのであった。
(あ……そう、いえば…忘れてた……)
そして、意識が遠のく最中。
あっかんべー、と舌を出すアーチェを見ながら、神宿は思い出すのだった。
弟子である神宿が出来るようにーーーーー師匠であるアーチェもまた、魔法に特性をつけることが出来るのである、という事に……。
ーーーーーーこうして、勝敗はアーチェの圧勝により、今日の授業は幕を閉じるのであった。
「ちょ!? あ、アイツ、やられちゃったんだけどっ!?」
「まぁ、あれぐらいで済んだんじゃから、まぁまぁ上々じゃろ。……しかし、アヤツ…本当に大人気ないのう……」
「あははは……確かに…そうですね。って…あれ? 何か、アーチェさん……またボールを手に」
「ちょっ!? 何かあの人、アイツの急所狙おうとしてないっ!?!?」
「と、止めるのじゃ!!! アヤツ、その小僧の息の根を止めようとしておるぞっ!! 大人気ないにもほどがあるじゃろっ!?」
ーーー後、寸前の差で神宿(大事な所)の生死が免れるのであった。
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