自害阻止スキルと自然治癒スキルを与えられた少年は、異世界転生からリタイヤ出来ない!
詮索
数分前となる、魔法学園にて。
「ふむ、なるほどなるほど〜」
コクコクと頭をうなづかせる大賢者ファーストは、カルデラたちから事の一件を聞いたのち、
「それ、デートじゃ」
「「「違う!!」」」
アーチェ、カルデラ、カフォンの三人から同時に声が飛んできた。
「しかしじゃな、そのキャロットという小娘と小僧とは、少なからずも面識があるのじゃろ?」
「ぅ、そ、それは…」
「ちょっとした出会いが恋の始まりになるパターンもある、別に可能性がないという話ではないのじゃから」
「そそ! それだったら、私とトオルくんだってあると思うんだー! だってー! 一緒に暮らしていたわけだしー!」
「んにゃ、お前のは、何という母親の立ち位置じゃと」
「聞こえないー!! 聞こえないーー!!」
師匠の言葉に耳を塞いでそう喚く賢者アーチェ。
ファーストは溜息を吐きながら、視線をカルデラたちへと戻し、
「とはいえ、そのキャロットという奴とあの小僧がどこかへテレポートしたのじゃろ?」
「は、はい」
「なら、手掛かりがない以上、探しようもないじゃろうし、気長に待つしかないじゃろうな」
「…………」
もし、仮にデートだとして、そんな二人の間に割って入るのは、やはり暑がましい行いだと思う。
カルデラが沈んだ表情を浮かべ、アーチェもまた同じように顔を暗くさせていた。
そんな中で、
「確かに、そうね……キャロットさんについては私もよくわからないし…、それにシグサカっていう男子と一緒にいる事ぐらいしか」
カフォンが、そう言葉をついた。
「待て、今何といった?」
その時、大賢者ファーストが怪訝な表情でカフォンが言った言葉をもう一度尋ねた。
そして、その場にいるアーチェもまた表情を一転させ、深妙な顔つきを浮かべる。
「え? いや、だから、シグサカっていう男子と一緒にいること…ぐらいしかって」
「……………」
シグサカ。
彼女たちは知らないが、彼はこの世界に転生されたもう一人の勇者候補でもある。
そして、そんな彼と行動を共にしていた女子生徒が神宿に接触してきた。
もう一人の、勇者候補である彼に……
「…し」
「わかっておる、馬鹿弟子が。仕方がないからワシが調べる」
そう言葉を発したファーストは指をパチンと鳴らす。
その直後、彼女の容姿に変化が起きた。
髪の色は白から桜色へと変色し、また顔には眼鏡らしきものが現れる。
そして、ファーストの目の前には突如として、宙を浮いた一冊の魔導書が姿を現した。
「な、何んですか……そ、それ」
「ほ、本?」
「しっ、ちょっと静か」
アーチェに指摘され、口元を抑えるカルデラとカフォン。
そんな中、ファーストは開かれた本のページに指をつけーーーーキャロット、という名の文字を記入した。
その次の瞬間、ページは羽ばたくように自動でめくりを始め、そして、あるページを見つけるとピタリとその動きを静止させる。
「うむ、あったぞ」
ファーストはそのページに書かれた文字を見据える。
ーーーーそして、ある一文に対して、彼女は目を細めながら唇を開いた。
「封印素体、じゃと?」
封印素体。
聞きなれないその言葉にカルデラたちが首を傾げる中、アーチェだけは目を見開かせ、驚愕の表情を露わにしていた。
「…な、何で、そんな…」
「ふむ、まぁ不思議な事はないじゃろ。何も、一つとは限らんのじゃから」
パタン、と本を閉じ、元の姿へと戻るファーストは息を吐き、
「しかし、シグサカとなると………おそらく、アヤツが十中八九絡んでおるな」
「っ……!」
「全く……手に入れたものだけに目を向けておればいいものを、欲張りよって」
隣で苛立ちを露わにするアーチェを横目で見つめるファーストは、溜息をつながらその場の話に取り残されつつあるカルデラたちに視線を向ける。
「して、お主らはどうするのじゃ?」
「え?」
「今からこの馬鹿弟子と一緒にあの小僧を連れ戻しに行ってくるのじゃが、お主らは付いてくるか、とワシは聞いておるのじゃが?」
「っ、い、行きます!」
「わ、私も行くわ!」
「うむ、了解じゃ」
カルデラとカフォン、二人の返事を確認したファーストはもう一度指をパチンと鳴らす。
その次の瞬間。
カルデラたちを含んだ四人を囲うように、中規模の魔法陣が地面に展開される。
「ぁ、あの」
「うむ? なんじゃ?」
魔法陣を見つめるファーストに、そう声をかけるカルデラ。
「トオルを連れ戻しにって、言いましたけど、一体どこに」
「あー……確かに、お主らにはまだ言ってなかったのじゃな」
ファーストは心配げな表情を浮かばせるカルデラに対し、口元を緩ませながら言う。
「今から行く所は、ここにおる馬鹿弟子と同じ魔法使い。ーーーーーー賢者バルティナの館じゃよ」
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