自害阻止スキルと自然治癒スキルを与えられた少年は、異世界転生からリタイヤ出来ない!

goro

裏の言伝





シグサカの師匠からの招待。

その事の発端となったのは数日前に遡り、シグサカのある一言から始まった。





「そういえば、学園で面白そうな生徒とあったんですよ」


そう言葉を語るシグサカがいるのは、魔法学園から数十キロと離れた位置に建つ、豪勢な館のディナールーム。

赤い布が引かれた横幅の長いテーブルの上には豪華な食事が並べられた、彼は丁寧な手つきで食事を口にしている。
そんな中で、



「ヘぇ……貴方がそんな事を言うなんて、珍しいわねぇ?」


彼の言葉に返事を返す者がいた。

それはシグサカと向かう形で席に着く、綺麗なドレスに身を包んだ女性。
そして、背後にはシグサカと同じく魔法学園に通っているはずのキャロットを従わせる魔法使い。


その名は賢者ーーーバルティナ。



「貴方がそう言うぐらいですもの。もう少し、話を聞いてみたいわ」



そうして、バルティナは口元を緩ませながら、シグサカの話に耳を傾けるのであった。








「魔法に対して特性をつける………確かに聞いた事のない魔法の使い方ね」


シグサカとキャロット。
二人の説明を聞いて、バルティナはその話の主役でもある少年、神宿 透について真剣な表情で思考を巡らせていた。


「………」

一見、オリジナル感のある魔法の使い方は、確かに賢者でもある彼女にとっても初耳に等しい方法だった。

だが、知らなかったという事自体、おかしなことではなかった。
というのも、それにはちゃんと理由があったからだ。





そもそも、魔法に特性を付け加える。
その作業自体、魔法使いにとっては必要なかった。



何故ならーーーーー魔法が劣っているなら強い魔法を使えばいい。
それがこの世界においての常識だったからだ。

だが、しかしーーー



(…いや、もしかしたら……そうしなければいけない理由があったのかしら?)


バルティナは、そう簡単に答えを出しはしない。

その行為自体に何か裏があるのではないか? 
そう彼女は推測を立てた。

そして、それと同時に彼女の脳裏には、興味という名の思考が、電気のように彼女の頭を刺激していた。
そんな中で、


「あ、あの。師匠様、どうしたのですか?」

さっきから黙り込んでいたバルティナに対し、心配した様子で声を掛けるシグサカ。


「…ん、いえ、何もないわ。……それより、他にその少年に対して何か気になったことはなかったのかしら?」
「……え。ああ、そうですね」

シグサカはそう呟くと、何故か考え込んだ様子で声を濁らしながら、



「少し、間の抜けた話かもしれないのですが、大丈夫ですか?」
「……ええ、いいわよ」



突然どうしたのか? と首を傾げるバルティナが見つめる中、シグサカはその口を動かし、








「何というか………彼の戦い方がどうにも………こっちよりに見えてしまうんですよ」








シグサカは、確かにそう言った。


こっちより。
そう彼が言った言葉が指し示すもの。

それはーーーーー異世界に近いもの、という意味になる。



「…………」
「あ、あの、師匠?」


数日前に大賢者から出された指令でもある、もう一人の勇者の捜索。
その手がかりを掴めたかもしれない、と踏んだバルティナは口元を大きく緩ませながらーーーー


「キャロット」
「はい」


バルティナは背後に立つキャロットに対し、声を掛ける。


そして、後ろに振り返りながら、彼女はその唇を動かしーーーー




「いい? そのトオルっていう少年を何がなんでもここに連れて来なさい? いいわね?」





こうして、バルティナの標的として、神宿が選ばれる事になってしまったのだった。





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