自害阻止スキルと自然治癒スキルを与えられた少年は、異世界転生からリタイヤ出来ない!
大切な友人
追試による試合が行われる、その数時間前。
人の寄り付かない校舎裏で、カフォンは一人の女子生徒と言葉を交わしていた。
女子生徒の名前はアルサ。
彼女は、カフォンが廃貴族であるという噂が流れた後でも、変わる事なく普段通りにカフォンに接してくれる、数少ない大切な友人の一人でもあった。
「カフォン、大丈夫?」
「…っ、ええ。大丈夫よ」
アルサがそう心配した表情を浮かべる中、そう答えるカフォンの顔には緊張の色が強く見てとれる。
一件普段からは、気の強い女の子に見えるカフォン。
しかし、それはただの外装でしかなく、彼女はいつも何ごとに対しても不安で仕方がないほどのーーーーーー気の弱い一人の少女だった。
そして、そんな彼女が、つばを飲み込み、また震える手をぎゅっと握りしめる。
それほどに、今回の試合は彼女にとってより重要なものだった。
ーーーー己が廃貴族ではなく、今も健在する貴族であると、証明するためにも…。
「カフォン」
「ん、何?」
その声に反応して、カフォンは振り返る。
対するアルサは、ゴソゴソとポケットからあるものを取り出すと、
「これ、あげる」
そう言って、カフォンの手にそれを手渡した。
それは赤い宝石が組み込まれた高そうな品質の首飾り。
「…これ、って」
「お守り。カフォンが無事に勝てますように、って思って作ってきたの」
「……ぇ」
「色々抱え混んでいると思うけど、私は例え何があってもカフォンの味方だからね?」
そう言って、微笑むアルサ。
そんな彼女に、カフォンは目に涙を浮かばせ、
「……アルテ…っ」
「ほら、泣かないの」
その優しい言葉に泣いてしまうカフォン。
そんなみっともない顔を見せる彼女に対し、アルサは小さく息を吐きながらポケットからハンカチを取り出し、そっとその涙を拭き取る。
そして、
「それじゃあ、頑張ってきてね! カフォン!」
「…っ、ええ!」
ーーーアルサの言葉で励ましてもらった。
ーーーアルサのおかげで、緊張も少しでも和らいだ。
だから、もう大丈夫!! とカフォンは心の中でそう自身に言い聞かせ、訓練場へと去っていく。
神宿との試合で勝つために。
もう一度、皆んなに自分が力ある貴族であると、認めてもらうために。
「頑張ってね、カフォン」
カフォンの後ろ姿が見えなくなった後、アルサはそう言って口元を緩ませた。
そして、体を動かし彼女はその場から去って行った。
ーーーーーカフォンの涙を拭き取ったハンカチ。
それを、まるで汚物でもあるかのように、地面に捨て去りながら…。
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