自害阻止スキルと自然治癒スキルを与えられた少年は、異世界転生からリタイヤ出来ない!

goro

廃貴族



体育館での一件あった後、神宿は今。待ち合わせとして始めに決めていた図書館の一角で、貴族カルデラと会っていた。
そして、神宿は、

「カフォンさんですか……」
「ああ」 


カフォンが口にした言葉の意味が気になり、カルデラに対して、彼女が知る限りの情報を少しでも教えてもらえないかと頼み込んでいたのだ。

それほどにーーーーーあの時、カフォンが見せた顔がどうしても気になって仕方がなかったのだ。





そして、そんな神宿の願いに対し、カルデラは小さく唇を紡ぎながら……


「彼女の家柄には、……ちょっと込み入った事情があるんです」











実技テストで追試を受けることになった生徒は数えても十数人。
そんな彼らは今、学園内にある訓練場に集められていた。


「それでは、先に決められていた者から、試合を開始してください」


神宿は知らなかったが、実技テストの後、各自に追試を受けるようにと通知の紙が寄越され、その文面には誰と誰が試合をするのか、といった詳しい内容が記載されていた。

そして、その中には神宿VSカフォンという文字も…、



「よ、よくビビらずに来たわね!褒めてあげる!」
「…おう」


よりにもよって、一番目の試合が神宿たちだった。

それはまさに、周囲から多くの視線が集まる、一番に目立つ試合だった。





緊張してか、頰に冷や汗を垂らす少女。カフォンは、大きく呼吸を取りつつ気を引き締め、


「…ふぅー、…そ、それじゃあ、は、始める」

そう、戦いを始めようとした。
だが、その時ーーーーー今まで口数の少なかった神宿が、その口を開いたのだ。



「その前に、先に言っときたい事があるんだ」
「っ、……な、何よ」



突然と止められたことに、不機嫌な表情を浮かべるカフォン。
対する神宿は至って冷静な顔つきで口を動かし、


「俺はちょっと事情があって、上位の魔法が使えないんだ」


そう言いながら、真剣な表情でカフォンを見つめる。
そして、



「だから、俺も精一杯の力でやるつもりだから」



神宿は手を前にかざしながら、



「お前も、全力でかかって来い」



挑発めいた言葉を、カフォンにへと伝えた。

「言われなくて、わかっ」
「ウォーター《スプレッド》」

その次の瞬間。
ビュン!! という音がカフォンの真横を突き抜け、背後にあった樹木に直撃する。



「…え?」


その光景には、その場にいた誰もが驚愕の表情を浮かべた。
そして、カフォンもまた目を見開きながら、神宿へと視線を戻し、


「…いくぞ」


動揺を露わにするカフォンに対して、神宿の攻撃が再び開始される。










周囲の者たちが試合に熱中する中、訓練場での様子を離れた所で見つめる者たちがいた。
それは二人の少女、大賢者ファーストと貴族カルデラだった。

「なんじゃ? 小僧のやつ、珍しく本気じゃな?」
「………」
「……なぁ、そう近くでショゲられた顔されると、こっちまで気が滅入るのじゃが」
「ぅ…わ、わかってますよ!」

カルデラがそう声を上げながら見つめる先では、


「ウォーター《ボム》」
「きゃ!? っ、この! フレイム!!」


神宿の猛烈な攻撃に対し、カフォンが走りながら逃げつつも、上位の魔法で対抗しようとする姿があった。

ーーーーカフォンが必死なのはわかった。
ーーーーだが、普段から目立つことを避けていた神宿が積極的に戦う姿には、違和感を覚えるほど不思議な光景だった。



「それにしても、あの小娘。確か、カフォン…じゃか? アヤツ、確か大貴族の」
「それは昔の話です。……彼女の家は今、廃貴族になりかけているほど、窮地に立たされているんです」

ん? そんなのか? と首をひねるファーストに対し、カルデラは静かに頭を頷かせながら、ゆっくりと会話を続けていく。



「カフォンとは昔ながらの親しい間柄なんです」
「ほう……」
「………そんな彼女の両親はとても温厚な方々でした。自身が納める土地の者たちを守るためなら、富すら手放すほどに優しく……兵の補充や食料の融通、また防壁強化などといった活動を多く行なっていたそうです。………でも、それがある魔族との一戦においてほぼ全てが壊滅してしまい、その責任を負わされた彼女の両親は……」
「………命を絶った、のか?」
「……はい」

カフォンの両親が亡くなった事をカルデラが知ったのは、それから一年が経った頃の事だった。

「でも、私もそこまで詳しくは知らないんです。一体どんな魔族にやられたのか、そして、その被害の規模がどれほどだったのか…」
「………」
「ただ、彼女の両親に付き添ってくれていた執事や付き人の人たち。そんな彼らを何としても守ろうと、彼女は一人で頑張っていました。いつも笑顔を見せ、他の貴族の方々からも、励ましの言葉を向けられるほどに関係は良好でした。…………でも、そんな彼女に対して、最近悪い噂が流れ始めたんです」
「悪い噂?」

その言葉に眉をひそめるファースト。
カルデラは手をぎゅっと握りながら、口を動かし、

「……カフォンは、廃貴族だった。という噂です」
「…………」
「誰がそれを言い始めたのかはわかりません。でも、そんな勝手な噂が学園内。…生徒たちの中にも流れるようなりました」


貴族にとって、廃貴族とはまさに汚名に等しい名だった。

そして、それは同時に今まで親しくしてくれていた友達や関係者、それらがたった一つの言葉を理由に遠ざかっていく。


それほどに、廃貴族という言葉には、強烈な重みがあった。




「…それからというもの、彼女は必死でした。廃貴族じゃない、まだ貴族としての家柄は残っている、と言って自分の力を周りに示そうとするようになりました」

そう言ってカルデラは今も必死に戦うカフォンの姿を見つめる。


「おそらく、トオルに突っかかってきているのも、それが理由だと思うんです」
「……なるほど。弱いものを倒して力を示す。まぁ、横暴な貴族としてなら、わかりやすい力の示し方じゃな」

ファーストがそう言ったように、そのやり方はどの世界でも活用されているやり方だった。
ーーーーー現にそれはまさに、つい先日まで学園に在中していたカリオカと同じやり方だった。


しかし、そうせずにはいられないほどに、カフォンの心は追い詰められていた…、





「しかし、そんな相手によく小僧は向き合おうと思ったのう」
「…………」


ファーストの言葉を聞きながら、カルデラは顔を伏せる。
そして、彼女は数時間前。
神宿と話していた内容について、一人
思い出しいていた。








待ち合わせをしていた場所で、カルデラはカフォンについての事情をそのまま神宿に全部話していた。

「……そうか」

そして、神宿は静かにその話を聞いた後、大きな溜め息を吐き、



「なら、尚更負けるわけにはいかないな」
「え?」



思いがけないその言葉に、一番に驚いた声を上げたのはカルデラだった。


「トオル、それって…」
「何、そういう力の示し方をする奴は、大抵ロクでもない奴になっちまうからな」


頭をかきながら、そう答えた神宿はカルデラに礼を言いつつその場を後にしようとする。
だが、対するカルデラは、


「と、トオルは!」
「ん?」
「………カフォンを、どうするつもりなんでですか?」


先の見えない結末に、不安を抱くカルデラ。
そんな彼女に神宿は、優しげな笑みを浮かべながら、

「そんなの、決まってるだろ?」
「…え?」


神宿は、


「ーーーーーアイツとの試合で、カフォンが廃貴族じゃない、って事を他の奴らに見せつけてやるだけさ」



そう当たり前の答えを口にするのだった。






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