自害阻止スキルと自然治癒スキルを与えられた少年は、異世界転生からリタイヤ出来ない!
ルートアウト
上位の魔法が使えない。
そのことに気づいたのは、アーチェの弟子になってから半年が過ぎた頃だった。
(……た、試しにやってみてもいいよな?)
初期の魔法にも慣れ始め、魔力量も幾分か増えてきた。
本当ならオリジナルの魔法を作る修行をしなくてはならなかった神宿だったが、自身の欲に負けたこともあって、
「…よし」
アーチェが家を空けている隙をつき、神宿は上位の魔法を使おうとしていた。
「フレイム!!」
手のひらから現れる炎の塊。
ファイアの次とも呼ばれる上位の魔法がその手から放たれようとした。
しかし、その直後。
バシュ!!? と空気が抜けたような音と共に、突然と炎が四散してしまったのだ。
「……………は?」
その光景に固まる神宿。
失敗したのか? と神宿は冷や汗を流しつつ、何度か同じように上位の魔法を使う練習をし続けた。
ーーーそれは数日、数週間にも続き、色々な書物や練習をやり続けた。
しかし、その結果ーーーーー神宿は気づいてしまった。
理由は定かではない。
だが、どれだけやろうと結果は変わらなかったのだ。
そう、上位の魔法を使えない、という結果はーーー
『なら問うぞ? 何故、アヤツはお主が上位魔法を使えない事を見抜けなかった?』
その言葉を神宿に告げた大賢者ファーストが、その異常に気づいたのは神宿とカリオカ。
ーーー二人の決闘を見た、その時からだった。
当初、神宿は初期の魔法を自在に操り、カリオカを倒した。
その様子からは一見して驚愕に包まれた光景にも見えた。
しかし、ファーストはその時。
神宿の体内に巡回する魔力。その不自然さに違和感を抱いていた。
「本来なら、勇者一人に対して女神から授かるスキルは一つと決まっておった。しかし、お主をこの世界に送り出した女神は何を思ってか、お主に二つもスキルを与えた」
「……………」
その言葉に神宿は自身の手のひらを見つめる。
転生した際に女神から与えたスキル。
それは、異世界からリタイヤさせないために与えた、自害阻止スキルと自然治癒スキル…。
「この事はおそらく、女神たちにも予想だにしない事じゃったんじゃろが」
「……?」
「スキルを二つも持ってしまった結果、……お主の体に一つの異常が起きてしまったのじゃ」
「異常?」
うむ、と答えるファーストは、溜息をつきながら神宿にその真実を告げる。
「おそらくは、魔力供給のルートアウトじゃろ」
ルートアウト。
聞いたことのない言葉に顔をしかめる神宿。
そんな彼にファーストは説明を加える。
「えーと、確かお主のスキルは自害阻止と自然治癒じゃったかな? あれらには自動で発動するオートの効力が備わっているんじゃろ?」
「あ、ああ。……それは、そうだけど」
今更の説明に首をかしげる神宿に、ファーストは続いて言葉を投げかけ、
「なら、質問じゃが。そのオートとして発動するスキル。それらのエネルギー源は一体どこから来ておると思う?」
流石の神宿も、その質問には一瞬言葉を詰まらせた。
というのも、女神のスキルに対して、そこまで深く考えたことがなかったからだ。
「え……それは、えっと」
「まぁ、普通に考えたらお主からだけじゃとそれほどスキルの魔法は発動しないじゃろ」
「………」
「だとするなら、どうやってエネルギーは補給されているか? それは簡単なことなんじゃよ? まぁ、掻い摘んでいうなら、そのエネルギー源は女神の持つ魔力じゃ」
「め、女神?」
「うむ。お主にスキルを与えた女神の魔力。それが、オートとして発動するスキルのエネルギー源となっているのじゃよ」
そう説明したファーストは、なまった体を伸ばしつつ、大きく息をつく。
その一方で神宿は今の話を思い返していた。
確かに、神宿自身が持つ魔力量では、あれほどの強靭な防御魔法陣は作れない。
だから、女神の魔力と言われて、納得は出来た。
だが、しかし、
「じゃあ、何で俺の魔力がそれに関わってくるんだよ?」
女神の魔力で事足りるなら、人間の魔力などいらないはずだ。
どうにも話が通っていない事に、疑問を抱く神宿。
すると、そんな中で、
「う、うーむ……」
何故か突然と、ファーストは苦笑いを浮かべ始めた。
そして、
「本来、普通なら女神の魔力でエネルギー源は事足りていたじゃろう。……じゃが、女神のスキルとはいえ、アレは最上級のスキルじゃ。しかも、それが二つとなると、女神一人じゃまかりきれんかったんじゃろう」
「?」
「んーと。つまりは、じゃ。……おそらくスキルはこう判断したんじゃろ。ーーーー正常状態での効力維持をはかるために、宿主の魔力を使ってコストを下げよう、とな」
「??」
ファーストが説明した言葉の意味。
つまりはーーーーーーこういう事だった。
あまりの供給量に異常をきたした二つのスキルが、己の生命活動を維持するために、女神だけではなく、他の所からもエネルギー源を補給している、ということ。
「ん? って事は…俺が上位の魔法を使えないのって」
「う、うむ。おそらくは、上位に必要な分の魔力を、スキルが横取りしておるんじゃな」
と、言葉を言って苦笑いを浮かべたファースト。
対する神宿はその説明を聞き終えながら………しばらくして眉間をピクピクとさせ始めた。
そして、神宿は思った。
ーーーー女神も、女神なら。
ーーーースキルも、スキルだった、と。
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