自害阻止スキルと自然治癒スキルを与えられた少年は、異世界転生からリタイヤ出来ない!

goro

最悪の結末


決闘の後、教師によって拘束されたカリオカたち。
魔法で鍵がかけられ空き教室の中、彼らは皆に静かに沈黙を続けていた。


カリオカの手下だった二人の子分たちは、共に体を震え合わせながら、何度も何度も謝罪の言葉を頭の中で唱え続けている。
だが、

「………………」

そんな状況の中、カリオカだけは無言を貫き通し、その瞳は鋭く、また心の灯っていないような冷徹な瞳で虚空を見据えていた。
そして、彼の心に着実と溜まる感情。



それはーーーーー憎悪、復讐、殺意、だった。

(殺す…絶対に、殺すっ)



平民の分際で貴族に手を挙げ、なおかつ勝利した奴を、この世から消す。

残虐的になったとしても。

権力を振りまいても。

例え、犯罪に手を染めるとしても。



カリオカは、それほどまでに彼をーーーー神宿 透に対し強烈な殺意を抱いていた。



そんな時だった。
ガチャ、と音を立て閉められていたドアの鍵が開けられる。
そして開かれたドアから、一人の男性教師に連れられ、三人の大人たちが中に入ってきた。


「父上…」

カリオカがそう言葉をつぶやいた通り、彼らはカリオカを含めた、子供たちの父親たちだ。

貴族であることもあってか、汚れ一つない清楚な服装を着込む彼らは子供たちに駆け寄り、叱るーーーーーのではなく、その身の無事に安堵の息を漏らしている。




そして、そんな中でカリオカの元に歩み寄る、顎髭を生やした眉間にシワを寄せる男。
貴族オーガルは自身の息子に問う。

「父上…」
「貴様は一体何をやっている?」

オーガルは至る所に怪我を作る我が子を見つめ、忌々しくも言葉を吐く。

「貴族が平民に負けた? 笑い話にもならんぞ」
「…申し訳ありません。この失態は必ず、俺が取り返しますーーーー、何をしても」
「当たり前だ」

カリオカとオーガル。
二人の会話はたったそれだけだった。

オーガルは付き添ってくれ教師にふりかえり、

「おい、彼らはこれからどうなる?」
「え、あ…いえ。おそらくは、退学に」

至極、当たり前の言葉を口した教師。
だが、



「なら金を払う。だから、退学は無しだ」
「…………は?」




懇願するわけでもない。
それが当たり前と思っている。
そんな無表情な顔で、オーガルが言葉を続ける。

「確かに、度が過ぎた行いをしたのは事実だろう。しかし、それはたかが子供の喧嘩。そんなチンケなもので彼らを退学にさせるわけにはいかない。貴族なら、当たり前のことだ」

オーガルは淡々とそう言って後ろに振り返り、

「行くぞ、カリオカ。そのついでに、お前を倒したという平民にも会わせろ」
「……はい、父上」

カリオカは父親の言葉に従い、立ち上がった。


そして、その瞳は冷たく、だが口元は笑みを浮かべていた。


そんな中、





「反省は、しないのですか?」





閉じられたドアの前で立つ男性教師は、そう言葉をつく。

「反省? 何にだ」

オーガルは、言っている意味がわからない、といった表情を浮かべる。

「っ、彼らは同じ学園の生徒たちを危険な目に合わせたのですよ? それなのに、何のお咎めなしというのは、あまりにも」
「貴様は何をいっている? 」
「!?」
「何もおかしいことはない。身分の低い貴族や平民もまた同じ、最も優秀である我々貴族に貴重な経験を受けさせてもらったのだ。こちらとしては、逆に感謝してもらいたいものだが?」

カリオカの行いを、あえて貴重な経験と語るオーガル。
また子分の父親も同じ意見なのか、顔をうなづかせる様子が見て取れた。


反省すらしない。
我々が正しいと言いきる大人たち。

茫然とその事実に固まる男性教師。
そんな彼にオーガルは言う。


「わかったら、早くそこを退け。我々にはまだやるべきことが残っているのだから」


今、保健室でカルデラと笑い合う神宿たちに会いに行く。
そのために、オーガルを含めた大人二人は自分たちの子供を連れて、教室から出て行く。












そんな、甘い幻想を抱いていた。



「そっか〜、そういう事なら、もう仕方がないかなぁ〜?」


その時。
男性教師の口からーーー女性の声が放たれた。
そして、教師の体は光と共にして変化し、そこには魔女の姿をした一人の魔法使いが正体を現す。

「貴様、一体何者だ!」
「我々が貴族だと分かっての行いか!」

子分たちの父親たちは強気な言葉を吐き、正体を偽っていた謎の女性に対して敵意を向ける。

その姿を浅ましくも、子供たちにとっても憧れにも見えた。
平民に対する対応、これが貴族だ。
また自分たちの振る舞いに何ら間違いはないと確信しーーーーーーーーー





「…こ、孤絶の魔女…あ、アーチェ…っ」




ーーその時。
震えた声を出し、オーガルが後ずさった。

その顔には大量の汗が流れ落ち、顔全体が恐怖によって支配されていた。

「…こ、根絶の魔女っ!?」
「何を馬鹿な」

オーガルの言葉を未だ信じない子分二人の父親たち。

だが、そんな彼らにアーチェは笑いかけ、






グチャリ、と。
男二人の体が、謎の存在によって捕食された。




飛び散った血が、彼らの子供たちの頰につく。
そして、音と共に、いなくなった父親たち。

その事実を悟った瞬間、子供たちの精神は崩壊した。




「はぁ、はあはあ、はぁっ!?」

オーガルを含めたカリオカもまた荒い息を吐き、その顔を恐怖に染め上げていた。
目の前で貴族が死んだ。
それも呆気なく、魔女アーチェが何もしていないにも関わらずにだ。

「ち、父…う、え」

カリオカは父、オーガルに助けを求めようとした。
一人では解決できない。
たがら最も偉い存在でもあるオーガルに助けてもらおうと、



「わ、私の息子を差し出す!! だから、許してくれっ!!」




その時。
カリオカは自身の耳を疑いたくなるような、オーガルの言葉を聞いてしまった。

そして、あまりにも惨めに頭を地面につける貴族、オーガルの姿を見てしまった。

「ち、父うえ、な、何を」
「貴様はだまっていろ! お前が仕出かした事で、我ら一族全員が殺されるかもしれないのだぞ!」
「っ!?」
「わかったなら、首を出せ! そして、私一人の命で一族を助けてくれと言え!!」

さっきまでの毅然とした態度とは一変して、我が子を捧げるオーガル。

その言葉と現実に対しーーーーーカリオカは愕然とただただ惨めな父を見つめるしかできなかった。

しかし、








「ねぇー? 何か、勘違いしてないー?」





アーチェはそう言って、笑う。
次の瞬間ーーーグチャリと、



「ぐあわああああおあああああああああああ!!!」



オーガルの片腕が死んだ。
絶叫と血が飛び散り、のたうちまわるようにして床の上に倒れるオーガル。

そんな中でもアーチェはゆっくりと歩み寄るーーーーカリオカの元へと。


「君、カリオカ君だよねー?」
「ぁ…ぁっ」
「君も父親も何か勘違いしてるようだったから、一応言っておくねー?」

そう言って、アーチェは笑みをーーーーやめた。







「トオル君に手を出して、何で生きていけると思ってるの?」








グチャグチャグチャグチャッ!!

その直後。
カリオカを残し、全員が食われた。
床一面にちの湖が生まる。


「ぁ、あ、ああ、ゃ、」

カリオカはその時見てしまった。
アーチェの背後に立つ、赤い瞳を見開く、巨大な黒き獣の姿を。

「どうしたのー? まだ食べ足りないのー?」

謎の存在に対し、アーチェはそう言葉を投げかける。
そして、



「だったら、この子を食べていいよー? 」




それがーーーー合図だった。

下を漏らし、また涙を漏らす。
完全に恐怖で支配されたカリオカ、その四肢をーーーー




「ッ! がぅああああああああああああああああああああああああああああああああーーっ!?!!?!」






グチャグチャバキバキ、グチャバキグチャグチャグチャグチャッ!!




これが、カリオカにもたらされたーー最悪の結末だった。








ガチャ、と音を立てて部屋から出てくるアーチェ。
そんな彼女の目の前には、少し驚いた様子の大賢者ファーストの姿があった。

というのも、アーチェを呼んだ張本人というのがファーストだったのだが、

「どうしたんですかー? そんな顔してー?」

そう尋ねるアーチェに対し、ファーストは首を傾げながら口を開きつつ、




「何じゃ? お前、殺さなかったのか?」




ーーーーそう、アーチェはこの教室で誰一人殺していなかった。

彼女が使ったは魔法、それは幻影を見せる魔法だったのだ。


そして、あの場にいた全員にアーチェは、あらぬ現実を見せた。


その結果、開かれドアの向こう側では、数人の者たちが気を失い倒れている。
皆口から泡を吐き、中にはうわごとをつぶやく者もいた。


「もうあの様子じゃぁ、元の生活に戻るのは無理そうじゃな」
「殺さなかっただけ、まだマシなんですよー?」
「ほぉー?  昔なら即殺していたお前が、色々と変わったもんじゃな」
「そうでよー? 私だってちょっとは変わったんですよー?」

何が変わったじゃ、と呆れるファースト。
それに対し、プンプンと頬を膨らませるアーチェ。

二人は共に騒ぎあいながら、彼女たちはその場を後にする。



こうして、賢者の手によってカリオカの結末は終わりを告げることとなった。







そして、また風の噂で聞いた話によれば、カリオカ、オーガルを含めた数人の者たちは無事、自分たちの領地に帰されたという。

ただ、その壊れきった心までは、治らなかったらしいが………



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コメント

  • くあ

    ○○せば良かったのに

    2
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