自害阻止スキルと自然治癒スキルを与えられた少年は、異世界転生からリタイヤ出来ない!
決闘と、邂逅
なんでこうなった…、と神宿は内心でそう呟く。
別に特段目立った行動などもした覚えもなく、また魔法だって女神から授けられた二つのスキルを除けば至って平凡なはずだ。
まして、女子生徒を引き連れたハーレム的な事もやっていない。
ーーーだというのに、
「行くぞ、ファイア!」
「っわ!?」
クラスの悪ガキ、もといカリオカに決闘を申し込まれた神宿は今、中庭にある訓練場にて迫る攻撃から逃げていた。
どうやらカリオカは炎の魔法を得意としているらしく、さっきから同じ魔法を連続で放っているようだが、
「おいおい、逃げてばっかじゃないか!」
「かっこ悪いなぁ!」
と、ヤジを飛ばす子分たち。
確かに逃げるだけでカッコ悪いのかもしれない。
だが、正直な話、どの分野においても神宿は戦いがあまり得意ではなかった。
それは、魔法に関してもそうだ。
「っ…!」
というのも、師匠であるアーチェの弟子になって早一年。
神宿は一度として戦いを教えてもらったことがなかったのだ。
魔法の技術のみ、色々教え込まれたりもしたが……、
(って、いくらショボい炎でも当たったら怪我すんだーっうの!)
考えに浸っている間も無くカリオカの攻撃は今も続いている。
例え小さな火玉であろうとも、直撃すれば怪我もする。
だが、幸いあれぐらいなら死にはしないだろう、という事は分かっていた。
しかし、この状況下の中で神宿が一番に気にしているのはそんな事ではなかった。
彼が焦っていたのは、自身が持つ二つスキル。
『自害阻止スキルと自然治癒スキルに備わるオートの特性が発動しまう』
事に対してだ。
その言葉の通り、オートによってこれらのスキルは本人の意思なく発動してしまう。
そして、そのスキルがもし、この決闘を聞きつけ集まってきたギャラリーたちの目の前で発動してしまえばどうなるか?
(より目立つのは確実、ならまともに当たるわけにはいかないだろっ!)
入学当初から注目を集めるのは神宿自身本意ではない。
だから神宿は、何とか攻撃を避けつつ相手の魔力切れを狙っていた。
これだけ魔法を使っているのだから、そろそろ魔力も尽きるだろうとーーーー、
「カリオカ様、こちらを」
「ああ、貰うぞ」
神宿が振り返った先で、側にいた子分が魔力回復薬をカリオカに手渡し、それをゴクゴクと飲んでいる。
…………って。
「ふざけんなっ!? ズルすぎるだろっそんなのっ、うわっ!?」
魔力切れどころか、フル回復して更に攻撃が激しくなる。
繰り返し訓練場を走り回る神宿だったが、次第に逃げ場が狭まってくる。
しかも、段々と狙いが定まってきているのか炎の魔法が掠るように当たり始めた。
「っ!?」
このままでは、自害阻止スキルが発動してしまうのも時間の問題だった。
(っ、ならっ!!)
もう一か八か、勝負に出るしかない。
神宿は逃げるのをやめ、カリオカのいる方向に振り返った。
「これで終わりだっ!!」
視界の中では、カリオカがこれまでより大きな炎の魔法を形成させこちらに放ってくるのが見えた。
迫り来る炎。
あれが直撃すれば、確実な自害阻止スキルが発動してしまう。
それだけはどうにかして、避けたい。
だからこそ、神宿は手のひらを前へとかざし、
「っ!ウォーター!!」
その直後。魔力によって作られた水の球体が目前に迫る炎に目掛けて放たれる。
だが、そのスピードは遅く、また魔力量の質量も少ない。
何よりーーーーー相性が悪かった。
バァン!! という音と共に炎に押し負けた水の塊が、その場に四散した。
そして、突き進む炎はそのまま神宿目掛けて襲い掛かる。
「っ!」
ーーーーーその時、だった。
目前と迫った炎を遮るように、強烈な風が外部から放たれ、炎の塊を一瞬に消滅させてしまったのだ。
「そこまでだ」
同時にその声が放たれた直後、その場にあった全ての声が一瞬停止する。
咄嗟に目をつぶって尻餅をついていた神宿が顔を上げると、そこには同じ学生服に身を包んだ顔立ちの良い一人の少年の姿あった。
そして、彼は目の前に立つカリオカと対峙する。
「っ、お前は……」
「やぁ、カリオカ君。君が転入生を早々に虐めていると風の噂で聞いてね。ちょっと止めに来たんだけど、邪魔だったかな?」
そう言って笑う少年は続けて口を動かし、
「どうする? それ以上やるっていうなら、今度は僕が君の相手になるよ?」
どうやらこの学園の中でも彼は存在は有名らしく、ギャラリーたちの盛り上がる一方で、女子たちからは熱い視線が集められていた。
「カリオカ様……」
「ちっ!! 帰るぞ!」
苛立ちを隠さないカリオカは背を向けながら、覚えとけよ、と言葉を残してその場を去って行く。
た、助かったー! と体を倒し大きく溜息を吐く神宿。
そんな彼に、目の前にいた少年はそっと手を差し伸べ、
「大丈夫だった? 」
「あ、はい。えっーと」
「ああ、申し遅れたね。…僕の名前はシグサカ、君の名前は?」
「あ、俺の名前はえー、と、トオルだ」
そうか、トオル君か…、とシグサカは言いつつ神宿の体を起こす。
そして、その手をまるで握手するかのように掴むと、
「これからよろしく、トオル君」
「あ……ああ」
名前呼びって…色々展開早すぎないか、と思いつつ神宿は苦笑いを浮かべた。
こうして短いながらも小さな決闘はシグサカのおかげで幕を閉じるのだった。
神宿は軽く怪我をしたから治療室に行ってくると言って去っていった。
そして、ギャラリーもいなくなった、その訓練場に、
「…………」
口元に手を合て、考え込む仕草をするシグサカの姿があった。
と、そんな彼に、
「シグサカ様」
「ん? ああ、キャロットか」
同じく学生服で身を包んだ、銀髪が特徴的な少女。
シグサカにキャロットと呼ばれた彼女が近寄ってきた。
彼女自身、少し彼とは親密的な関係でもあるため、様づけで彼の名前を呼んでいるのだが、
「?」
シグサカが何やら考え事をしていた事に、キャロットは首を傾げる。
「シグサカ様、どうしたんですか?」
「あ、いや。……さっき、しょうもない決闘を止めに入ったんだけど」
「はあ、それが何か」
「ん……いや、ちょっとね」
怪訝な表情を浮かべるキャロットに対し、シグサカはふと質問を投げかける。
「キャロット。君は確かカリオカ君を知ってるよね?」
「はい、知ってはいますが」
「なら、ちょっと聞きたいんだけど。ーーカリオカ君の魔法って、低レベルの風魔法で簡単に敗れるほど弱かったっけ?」
は? と訳がわからず目を天にさせるキャロット。
その一方で、シグサカはあの時のことをもう一度思い返していた。
カリオカの魔法を風の魔法で打ち消した、あの時。
当初はもう少し魔法同士でせめぎ合う結果になると、シグサカ自身もそう思っていた。
あれでもカリオカは良いところの貴族らしく、魔力量も高い。
それに応じて魔法もまた強い力を持っている。
(最後のあれは、確かに強い魔法のはずだつた。なのに……)
あの時の、風の魔法で打ち消したカリオカの魔法には力がなかった。
まるで外側だけが派手なだけで中身は空っぽでもあるかのように、簡単に消すことが出来たのだ。
疑問が残る。
だが、それに加えるように、まだ不自然なことがもう一つあった。
それは、
「それに、ここの地面もなんだけど…」
「?」
そこは神宿が放った水の魔法が、簡単に打ち破られた場所だ。
地面には四散した水が飛び散り、土が濡れている。
しかも、その濡れた箇所からは微かにだが、うっすらと煙も出ているのが見えた。
「…………」
どういう原理でこうなったのかは、シグサカにも理解できなかった。
だが、あの時。
カリオカの炎に対し、神宿が何かをやったのは事実だろう。
「ふっ…」
「シグサカ様?」
隣で怪訝な表情を浮かばせるキャロット。そんな中で、シグサカはその時。
ーーーー確かに、笑っていた。
まるで、新しいおもちゃを手に入れた子供のように……、その口元を緩めるのだった。
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