自害阻止スキルと自然治癒スキルを与えられた少年は、異世界転生からリタイヤ出来ない!

goro

モンスターとの遭遇



神宿 透は今悩んでいた。
無理やり転生させられて、飛ばされた森林という場所の中で、

「…………」

趣味である漫画やラノベの展開なら、神が丁寧にも、魔王を倒せだとか! 気のままに生きていけ! などといった説明をしてくれるわけなのだが…。

「あの女神……絶対女神じゃないだろ」

例の女神はよりにもよって、その説明すらせず転生魔法を放ってくれた。 
しかも、自主的にリタイヤしないよう、祝福という名の鎖スキルをつけて。

「………」

そんな訳あって転生したその目的自体、全然わからない神宿は大きな溜息を吐き、


「…とりあえず何か食べるものでも探すか」


食料を得るため、森を探索する事から始めるのだった。




死ぬことも出来ない。
かといって、腹は空く。
食料探しを始めてかれこれ数時間ぐらい森を彷徨っているのだが、一向にめぼしいものが見つからない。

あー、もしかしたら餓死で死ぬかも。

と、そんなことを考え始める神宿。
だが、そんな矢先の事だった。


「ん?」


神宿はその時。
運悪くもこの世界でのモンスターである、
巨大なイノシシに遭遇してしまった。
しかも、

「モンスター…っ、ゲッ!? 気づかれ」

それは、一瞬の事だった。



「ーーーーーがはッ!?」



逃げる行動すら出来ず、神宿は真面にモンスターの突進を受け後方に吹き飛ばされてしまったのだ。

地面を何度もバウンドし崩れ落ちる神宿。
激痛に加えて、体の節々から不気味な音が鳴った。
当然、血も吐いた。

「っ、ぁっ」

地面に力なく倒れた神宿。だが、そんな彼にモンスターは再び突進しようと迫り来る。


(ははっ……これ、死んだな……)


両嘴に生えたツノが間近に迫るのを見つめながら、神宿はその瞬間、自身の死を悟った。




だが、そう思った。
次の瞬間。


『ギャフン!?』
「え?」

間近まで迫っていたツノが、パキン!! と音を立てて砕け散ったのだ。
更に続けて、モンスターの体は神宿に接触する手前で停止しており、そのこめかみには大量の血が滲み出ていた。

パタン! と気を失って地面に倒れるモンスター。

「っ、何が」

神宿はそう言って、顔を上げる。
すると、そこにはこの世界に来て初めて見た薄緑色の魔法陣が展開されていた。
しかも、それはまるで主人を守る盾のように宙を浮きつづけている。

どうやらモンスターはこれに直撃して、自滅したらしい。


だが、驚くのはこれだけではなかった。


それは体をなんとか動かそうとした時に気づいた。

明らかに重傷だった傷が時間が経つにつれて自然と治癒していき、数秒もせずして、立ち上がれるまでに回復していた。

「これって……もしかして」

神宿は女神から授かったスキルを思い出す。

自害阻止スキル。
自然治癒スキル。

本来なら、使うつもりがなかったそれらのスキル。
だが、その特性につけられたオートが今発動したのだろう。

「………」

物凄くチート級に便利だ、と思う神宿。
だが、同時に彼は思った。


「死ぬ手前で発動って、あの女神…意地悪さが出てるよな、ホント」


かくして、神宿は初のモンスター討伐? を異世界にて成し遂げるのであった。






そして、時間が経ち、日が暮れ出してきた頃。

「何とかモンスターは倒せたけど、これ、どうやって食べよう」

目の前で倒れたイノシシ型モンスターを見つめ悩む神宿。
とりあえず、皮を剥いだり血抜きをしたりなど、悪戦苦闘したすえ何とか肉の塊を取り出すことには成功した。

しかし、生で食べるとなると、流石に抵抗がある。


「あ、そういえば魔法って使えるのかな?」


女神は何も言ってはいなかった。
しかし、あの手紙を読むに魔法はこの世界にも存在しているらしい。
神宿は物は試しにと、手のひらを何もない地面に向けて、

「ふ、ファイア〜」

と、棒読みで定番の魔法を唱えた。

その直後。
ボォウ! と火の玉が手のひらから飛び出てきた。

「うわっ、火出た!?」

最初、声を上げながら喜ぶ神宿。
だが、その直ぐ後に彼は焦った。

何故なら、火の玉がコロコロと転がりながら、草木の生えた方へと進んでいこうとしていたからだ。

「って、わわ!? や、やばっ!? う、ウォーター!!ウォーター!!」

火も出るなら水も出せる。
何とか水の玉を出し火の玉を消すことができた神宿は安堵の溜息を漏らし、もう一度、自身の手のひらを見つめる。

火の魔法は使えた。
水の魔法も使えた。

ただ、今のような火を肉の塊に向けて放つのは何か嫌な予感がする。

正確にいうなら、分かりやすい失敗で肉が黒焦げになってしまうような…。



「…………とりあえず、木の枝とか探そう」



森林を歩き、時には見つけたモンスターから逃げ隠れして数本の木の枝を探し出した神宿は、何とか無事に安全に火をつけることができるようになった。

後、ついでに都合良く周りが石で囲まれた一種の安全スペース的な場所も見つけることができた。



皮剥、火起こし、そして、肉焼きと、普段の生活では滅多に体験することのできない経験を踏みながら、


「もぐもぐっ、美味いな…これ」


こうして、神宿の異世界生活一日目が過ぎていくのだった。


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