或る観測者の手記

ogura

魔女

星の見えない暗い夜だった。

焚き火の僅かな灯りの側に、闇に紛れるかのように黒い外套を纏い、うずくまる口元が照らし出されていた。

目を懲らせば、付近にテントがいくつかあるが、皆寝ているようだった。しかし、まるで顔を見られたくないかのように、その人物は深々とフードをかぶっていた。

もしも、そのわずかに照らされた瞳や褐色の肌の色を見れば、その者が何者かを知る事は容易であろう。

焔の色を宿した瞳に、褐色の肌、若い者であっても白色の髪を持つこの種族は、異形として忌み嫌われ、天災・厄災の元凶として、人々に幾度も血祭りにあげられてきた。

ーこれが歴史に残る「魔女狩り」である。

実のところ、彼女たちは魔の力など何も持ってはいなかった。
ただ星を読み、食物を育て、薬草などの知識に富み、医術に長けた一族であっただけだ。
感染病の流行時に彼女らによって幾人もの王族を救った事を知る者は僅かである。

ーそして、今やその血と知識を受け継ぐ者は彼女一人であった。

瞳の中の焔が微かに揺らいだ。

彼女は静かに焚き火を消し、立ち上がった。

闇の中に薄っすらと地平線が色づいて浮かび上がった。夜明けが近い。

「ー時間だ。行こう。」

最後の魔女、ベアトリーチェ。
国を侵略され戦争から逃れてきた者たちを医術によって救った彼女は、英雄としてこの地に名を残す存在となる。


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